2023ー24年の期間内(対象:2023年12月〜2024年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。大谷翔平部門の第5位は、こちら!(初公開日 2024年1月23日/肩書などはすべて当時)。

エンゼルスからドジャースへと移籍した大谷翔平(29歳)。新天地で新たな指揮官・チームメイトたちと出会い、どのような輝きを放つのか、楽しみだ。開幕を前に、『大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』(&books/辰巳出版)より、大谷のストイックすぎる生活ぶりに関するエピソードを改めて紹介する。(初出:2019年3月20日/年齢・肩書などはすべて当時)《全2回の後編/「愛されたロッカールーム」編から続く》

 サンディエゴ・パドレスの投手である牧田和久は、その日大谷翔平と久しぶりに顔を合わせた。大谷が日本ハムでプロ野球選手としてデビューした2013年、牧田は埼玉西武ライオンズに所属していた。

 大谷のデビュー当時の騒ぎは、さほど牧田の印象に残っていなかったようだ。

「あまり覚えてないんですよね」通訳を介して、牧田は笑いながら言った。

 それでも、対戦成績はしっかり把握していた。

「日本では7回対戦しているんですけど、1度も打たれたことはありません」

 牧田は大谷がメジャーデビュー1年目で成功したことに、驚いてはいなかった。日本で投打双方の実力を充分示したのだから、メジャーで通用するのも当然だと考えている。

「日本でもこっちでも、これだけ活躍していることを考えると、千年に一人の逸材じゃないかと思いますよ」ライオンズで2度オールスターに選出された牧田はそう語った。「それくらい特別な選手だと思います」

大谷を何度食事に誘っても断られた

 エンゼルスのスター選手となった大谷の独特な才能が、フィールドで輝きを放っている。野球のことしか頭にないという噂は本当なのかと訊かれると、牧田はこう答えた。

「本当ですよ。日本で何度か食事に誘ったことがあるんですけど、断られましたね。なんやかんや理由をつけたり、気乗りしなかったりとかで。でもそれも、野球が好きで練習に打ち込みたいからなんですよ。女の子と出かけるほうが楽しいっていう選手もいるのに。翔平は野球一筋っていうタイプでしたね。たいていの選手は、野球以外に趣味とか好きなことがあるんですけど、翔平は野球だけですね。野球以外にやりたいのも野球って感じで。練習して、試合に出て、いつも野球をやっていることが幸せなんだと思います」

「翔平みたいな天才だって上手くいかないときはある」

 その姿勢は、スプリング・トレーニングに苦戦して批判されたあとにも変わることはなかった。大谷の実力を疑問視した当時の人々の声を、牧田は一笑に付した。

「確かに苦労していましたし、批判的な記事も書かれていましたね。でも、翔平みたいな天才だって上手くいかないときはあります。新しい環境の中で、慣れていくために試行錯誤していただけです。一度コツをつかんだら大丈夫ですよ。単に時間の問題だったんだと思います」

 例として、牧田は大谷が右足を上げるバッティング・フォームを修正した点を挙げた。

「こっちではファストボールはものすごく速いですからね。それでフォームを修正したんでしょう」

 来シーズンは肘の故障により、大谷の出場は打撃のみに限られ、登板する姿を見ることはできない。牧田も多くの者と同じように、打席だけでなくマウンドに立つ大谷の姿を楽しみにしている一人だ。

「ピッチャーとバッターのどっちの腕前が上なのかは、わかりませんね。どっちもすごいですから。でも今は肘のことがあるので、バッティングだけに集中するとしたら、メジャーリーグ史に残るような記録を出すかもしれません」

「これからどれだけ伸びるか、それはもう青天井ですよ」

 大谷のような二刀流スター選手が独自の道を歩んでいく先は、どこへ続いていくのだろう。

「野球選手としてのピークは20代後半なのに、彼はまだ24歳ですからね」牧田は言う。

「これからどれだけ伸びるか、それはもう青天井ですよ。上手くなる一方だと思います。あれだけ技術の向上に力を注いでいますし、どんどん上達していくのは間違いないですね。日本には王貞治さんとか、長嶋茂雄さんとか、イチローさん、野茂さんなどの名選手がいます。翔平もいずれ、そういった名選手の仲間入りするんじゃないでしょうか」

《前編/仲間たちに愛された「メジャー1年目のロッカールーム」編も公開中です》

文=ジェイ・パリス

photograph by Getty Images