一時は最下位となるも、引き分けを挟み7連勝と破竹の勢いで首位に立った4月の阪神タイガース。『野球短歌』(ナナロク社)の著者で作家・野球歌人の池松舞氏が「快進撃の4月」を詠んだ。

 今季、とくに短歌を詠もうとしていたわけではなかった。しかし開幕から波に乗れないタイガースを見ていたら、どんどん心がざわついてきた。そして4月12日の中日戦後、思わず歌を詠んでいた。

 4月12日 中日―阪神 △ 2-2

 サヨナラを食らう気がしてリモコンを片手に見てたすぐ消せるから

 負けなかった勝てなかったが負けなかった食いしばった歯は折れなかった

 その後、ナンバーウェブ編集部より依頼があり、4月16日から再び詠むことにした。

(編集部注:日付側の球団がホームチーム、○=阪神の勝ち、△=引き分け、●=阪神の負け)

伝統の一戦は稲妻でお開きに

 4月16日 阪神―巨人 △ 1-1

 阪神は1点を追う7回、代打・糸原健斗が犠牲フライを放ち同点に。延長10回、雷雨によりコールド引き分け。

 一点を先制されただけなのに負けたと思ってしまう空気

 普通ならヒットになってる三本がぜんぶ捕られる(なんで?)と思う

 七回のピンチを抑えて村上が吠えた!まだ負けているけど

 打つ前から涙が出そうだ糸原の代打、犠牲フライを決めた

 真っ暗な空をまっぷたつに裂いたカミナリが引き分けにする夜

2点を大事に守り抜いた投手陣

 4月17日 阪神―巨人 〇 2-0

 3回裏、森下翔太のタイムリーヒットで阪神が2点を先制。その後、追加点はなかったが、先発の伊藤将司と継投陣が守り抜いた。

 なんでかな先制しても胸が痛いずっと攻められている気がした

 森下がゲームセットの瞬間に笑ったのを見てやっと笑えた

2点までしか入らない阪神打線

 4月18日 阪神―巨人 〇 2-1

 先発の西勇輝が8回1失点も援護なく、1点を追う阪神は8回裏に森下のタイムリーで同点、そのまま延長戦へ。10回裏に佐藤輝明がサヨナラヒットを決めた。

 勝つんだと打てなくっても勝つんだと西のボールが言ってるようだ

 サヨナラを決めた佐藤のきらめきが夜の上から全員に降る

 スタンドで輝のタオルに身を包み光のようにはしゃぐ少年

打線がつながり7得点

 4月19日 阪神―中日 〇 7-0

 先発・青柳晃洋の自ら放った犠牲フライ、大山悠輔の第1号ホームランなど、阪神が7対0で快勝。10試合つづけて2得点以内だった打線がつながった。

 スイングが強いぶんだけ自打球もほかの人より痛そな森下

 森下が木浪にハイタッチをねだる遂に出た大山のアーチで

 昨日まで鈍行だった阪神が急行みたいに駆け抜けていく

打線大爆発で今季初の2ケタ得点

 4月20日 阪神―中日 〇 15-2

 阪神が14安打15得点の猛攻で勝利した。先発の大竹耕太郎は立ち上がりこそ不安定だったが、粘りのピッチングで今季2勝目をあげた。

 ようやっと三、四、五番が打ち始め土曜の昼に十五点とる

 監督が笑っているのは前川が左ピッチャーから打ったから

 あとはもうだれが打ったかわからないこんなに急に変わるものなの?

いつのまにやら6連勝

 4月21日 阪神―中日 〇 3-0

 先発・才木浩人が雨のなか好投を見せる。援護したい阪神は6回裏、佐藤輝の3ランホームランで先制。試合はその後、7回降雨コールド。阪神は6連勝。

 潮干狩りみたいなグランドコンディション何度も白砂を足している

 がむしゃらに投げる才木の純粋とやまない雨が混ざる美しさ

大和が代打で出てきて詠んだ一首

 4月23日 横浜―阪神 △ 1-1

 先発・村上が8回1失点も打線の援護は6回の森下のタイムリーツーベースのみ。継投陣が全員ヒットを浴びながらも無失点で切り抜けた。

 見極めた球をストライクと言われテルはパンダみたいな顔をする

 大和がね代打でくると複雑な昔の恋人みたいな気持ち

 十二回裏に三塁まで行かれサヨナラされずに済ます岩崎

「最後までよく守ったね」「お互いね」観客たちもエール送り合う

まさかの逆転で7連勝

 4月24日 横浜―阪神 ○ 3-5

 2点ビハインドで迎えた9回表、無死満塁と攻めノイジーの押し出し四球で逆転に成功し、一挙4得点。引き分けを挟んで7連勝。

 心臓が痛くなるほど降っている雨でボールもよく見えなくて

 ずぶ濡れの子どもがメガホン抱きしめてグランド整備をじっと見ている

 八回に二点負けてて桐敷を出す監督に度肝ぬかれる

 糸原だまた糸原から始まった九回表に逆転をする!

いいとこなしで連勝ストップ

 4月26日 阪神―ヤクルト ● 2-8

 先発・青柳がヤクルト打線につかまり4回途中5失点(自責点2)。久々の敗戦は攻守に精彩を欠いた。

 エラー四、押し出しひとつ、バントミスやろうとしてもできないだろう

なんとか燕打線を抑え込む

 4月27日 阪神―ヤクルト ○ 5-4

 1-2で迎えた5回裏、近本光司の2ランホームランで逆転。先発・大竹は7回途中3失点で今季3勝目。継投陣は7回と9回に失点しながらなんとかリードを守りきった。

 小幡から届く便りは「元気です」先制をしてホームも踏んで

 満塁のピンチで桐敷に祈る大竹をカメラマンが射抜く

 桐敷は打てないところに投げてると唸っているのは湯舟敏郎

大山の「風が吹いた」タイムリー

 4月28日 阪神―ヤクルト ○ 4-3

 1点ビハインドの7回裏、大山のレフトへのタイムリーで逆転。6回から2イニングを投げた加治屋蓮が今季2勝目。

 スタメンに糸原の名でどよめくが糸原は打つ糸原は打つ

 代打だったそれでもずっと打っていた今回も打つ糸原は打つ

 逆転をされても気持ちはふさがない加治屋のリズムで勝てる気がする

 大山のフライが風でフラフラし野球の神がぽとりと落とす!

坂本が大暴れ

 4月30日 広島―阪神 ○ 1-7

 先発・村上は立ち上がり失点を喫するが、捕手・坂本誠志郎が2回、4回と得点に絡み、逆転。この日計3打点の大活躍を見せた。終わってみれば村上は1失点完投。

 明るさの残る広島の空で食らった先頭打者ホームラン

 状態が上がってきたのはノイジーで私はそこに夢を見てしまう

 立ち上がり冷や冷やしたが九回のマウンドにまだ村上はいた!

 ビジターでひとりぼっちのインタビューまた坂本と次はホームで

16人も投手が出てきた4時間30分超えの熱戦

 5月1日 広島―阪神 △ 2-2

 阪神が2回までに2点リードも7回に追いつかれる。両チーム計16投手が登板し、4時間36分に及ぶ総力戦となった。

 球場のずっと向こうに見えていた新幹線の車窓は暗い

 鳴り物がやんだマツダで合唱が聴こえるどっちも勝ちたいんだ

 近本のグラブがつかんだ引き分けは秋まで語り継がれてほしい

 ねえ浜地 浜地がきっと打たれると思った私を許してください

〜〜5月編は6月4日公開予定です〜〜

文=池松舞

photograph by Hideki Sugiyama