パリ五輪を目指すU-23日本代表の戦いぶりと選手について、フィリップ・トルシエに“お世辞抜き”で論評してもらうシリーズ。最終回の今回は、試合終了まで勝利の行方がわからなかったウズベキスタン戦である。ウズベキスタンのクオリティの高さと強さに誰もが驚いた試合を、トルシエはどう見たのか。またパリ五輪での日本のメダルの可能性を、アジアカップから続くアジアサッカーの変化を、トルシエはどう感じているのか。

日本の育成、素晴らしい仕事をした協会の勝利だ

――試合は見ましたか?

「ああ、難しい試合だったし本当に闘っていた。しかも決勝だから、そこには計算もあれば駆け引きもあった。特に前半はそれが顕著だった。

 しかし両チームの哲学はともにボールをコントロールすることで、日本はコレクティブなプレーでボールを支配して見事なスタートを切った。しかしすぐにウズベキスタンの反撃にあった。ウズベキスタンの方が日本より少し成熟し、熟達していてパスのタイミングも的確だった。デュエルも優勢でパンチを繰り出すタイミングでも優っていた。それに対して日本は受け身に回り、ボールが保持できずにロングパスの攻撃に頼らざるを得なかった。

 後半はより拮抗し、ほぼ互角の展開になった。先制点を挙げた方が大きく勝利に近づく。だからこそ最初に得点する必要があった。日本は選手交代が功を奏した」

――しかしその後ピンチを迎えます。

「たしかにPKは仕方がなかった。関根大輝は明らかにハンドを犯していたのだから。日本にとって最大のピンチで、同点になっていたら、結果はどちらに転んだかまったくわからなかった。

 どちらにも勝つチャンスはあったし勝利に値した。だがPKをストップした日本には運があった。最終的に日本が勝利を収めたが、素晴らしい勝利だった。というのも選手の選考に関して、日本はベストチームを選考できたわけではなかったからだ。この勝利は日本協会のポリティックスの勝利であり、育成政策の勝利でもある。ベストの選手を招集できなくとも優れた日本代表を編成し、カタールに送り込んだのだから。コレクティブで連帯感に溢れた規律の高いチームだ。監督はその点で素晴らしい仕事をした。

 繰り返すが日本の育成の勝利であり、ここまで素晴らしい仕事をしてきた協会の勝利だ。選手は素晴らしいトレーニングと教育を受け、フィジカルも申し分なく技術レベルも高かった。7割以上の選手が国内組で、五輪出場権を獲得してU-23アジアカップも制した。大会を通して本当に素晴らしいパフォーマンスだった」

大会MVPの藤田を高く評価しているワケ

――試合に関してもう少し話してください。後半の日本は選手を代えずに戦い方を少し変えました。

「ボールをどう動かすかの問題だった。後半の日本は前半よりも少し縦に深くボールを送り込んだ。選手の動きもより激しくなった。前半はボールをキープしようとする意識が強く、相手の守備を避ける意識が希薄だった。しかし後半は、ウズベキスタンの守備を回避して、回避するという意味はわかるか?」

――わかります。

「ボールを保持することと相手を回避することに矛盾はない。後半は深みのあるボールが増えて戦い方が少し変わった。そして荒木と平河の投入が流れを変えた。前半の中盤を構成したのは松木玖生と山本理仁、藤田譲瑠チマの3人だったが、松木に代えて荒木遼太郎を入れて、前線の動きが多彩になった。しかし日本に関して言えるのは、グループ全体がとても素晴らしいことだ」

――とはいえ、あなたは大会MVPに選ばれた藤田を高く評価していますが。

「ひとつのエピソードがある。初めて藤田を見たのは2017年のゴシアカップ中国(註:当時15歳の藤田は東京ヴェルディユースの一員として大会に参加し、見事優勝を飾った)だった。そのとき彼と話したのを覚えている。『これから素晴らしいキャリアを築くだろう』と彼に言った。『中国の自分のチーム(註:当時トルシエは中国スーパーリーグ重慶当代力帆足球倶楽部のスポーツディレクターとしてユース年代の育成を統括していた)に連れて行きたい』とも。彼と話す機会があったら、トルシエがよろしく言っていたと伝えてくれ」

――わかりました。

「本当に優れた選手であり、遠藤航のイメージと少し重なる」

木村や高井、関根…細谷も好きなタイプだ

――遠藤のようなキャリアをヨーロッパで築くことができるでしょうか。

「そう願っている。すでにベルギーにいるのだろう?」

――シント・トロイデンでプレーしています。

「藤田以外にも素晴らしい選手はたくさんいた。木村誠二や高井幸大、関根……、細谷も私の好きなタイプだ。それから荒木やGKの小久保玲央ブライアンも。この世代は本当に実り豊かであるといえる」

――しかしウズベキスタンには苦戦しました。

「たしかに難しい試合ではあったが、日本は勝利に値した。拮抗した試合で、ウズベキスタンは日本より少し成熟し、熟達もしていた。プレーの選択において、個の力が少し優っていた」

本大会は明らかに違うチームになる

――五輪出場権を獲得した準決勝の後、ウズベキスタンは3人の主力がチームを離脱して所属するクラブに帰っています。DFのクサノフ(RCランス)とMFのエルキノフ(アルワフダ)、ファイズラエフ(CSKAモスクワ)で、決勝は主力3人を欠いた戦いになりました。

「その影響はあったかもしれない。ウズベキスタンも日本も素晴らしかったが、日本の良さはサッカー界全体の素晴らしさにある。日本サッカーの勝利だ。しかも細谷以外は誰もA代表の出場経験がない。A代表の選手がいないことが、日本サッカーのレベルの高さを示している」

――それでは本大会の展望はどう見ていますか。ご存じのように本大会に向けては18人に絞り込むうえにヨーロッパ組とオーバーエイジの加入もあるので、チームが大きく変わる可能性があります。

「明らかに違うチームになる。また日本という国が、オリンピックを特別視していることもわかっている。日本は五輪に高い価値を置いている。本大会に向けてはベストチームを編成するだろう。またヨーロッパのクラブも、パリ五輪をチームをアピールするためのショーウィンドウと見なすだろうから、ヨーロッパ組やより経験豊富な選手たちが加わることで、本大会に臨む日本代表はまったく異なるチームになる」

攻撃の効率を上げるために久保、三笘、敬斗、伊東を

――日本はパラグアイ、マリ、イスラエルと同じグループDに入っています。

「マリはフィジカルが強く、イスラエルは近年長足の進歩を示した。日本が入ったのは4カ国が拮抗したグループで、簡単なグループではない。南アメリカとアフリカ、ヨーロッパという3つの異なるタイプのサッカーを実践する国々だ。しかし日本にもグループリーグ突破の可能性は大いにある」

――それでは本大会に向けて、これから何を伸ばしていけばいいのでしょうか?

「攻撃の効率をもっと上げるべきだ。ボールの配球やプレーのコレクティブな効率は申し分ないのだから。個の力で違いを作り出せる選手が前線に必要だ。攻撃で久保建英のような選手、あるいはオーバーエイジで三笘薫や中村敬斗のような、違いを作り出せる選手……。個の力による前線の衝撃が必要だ。これは日本が全体的に少し足りない部分でもある。

 コレクティブにプレーしないと日本は前に進めない。だからコレクティブなプレーはいいのだが、違いを作り出せる選手がそこにいればより効果的だ。久保建英や三笘、そしてフランスでプレーする中村、伊東純也らは個人で違いを作り出せるだろう」

小久保、関根、高井らの守備陣は素晴らしいが…

――メダルの可能性はどうでしょうか。

「もちろんある。これまでもロンドン(2012年)、東京(2021年)と準決勝に進み、あと一歩のところまで迫っているのだから。だが、そこから先が簡単ではないこともまた確かだ」

――守備の強化も必要でしょうか。

「GK小久保をはじめ、関根や高井らの守備陣は素晴らしい。ただ、もう少し重さは必要かもしれない」

――あなたはこの大会の他の試合も見ています。アジアの若い世代のサッカーをどう総括しますか?

「韓国はじめいくつかの国には失望したが、準々決勝以降はそれぞれが難しい試合を戦った。ただ、素晴らしい大会とは言い難かった。最大のサプライズはインドネシアで、インドネシアの躍進を印象づけた大会だった。しかし日本や韓国がそうであったように、アジアの最高クラスの選手たちが参加しなかったので、優れた大会とはいえなかった」

アジアの進化はアジアカップから続いている

――アジアサッカーのヒエラルキーが変化したと感じましたか。

「変わったと思う。すべてのチームがボールを保持してプレーを構築しようとしていたのは明らかだ。レベルの低いチームはひとつもなかった。マレーシアは少しレベルに達していなかったが、タイには驚いた。小さな国々が進化を遂げていた。

 だが判断は難しい。9日に行われるインドネシアとギニアの大陸間プレーオフが、君の質問に対する答えになるだろう。アジアサッカーの進化を測るには、他のサッカーとの比較が必要だ。進化したのは間違いないが、アフリカにどれだけ近づいたか。答えを得るのは木曜になるだろう」

――進化はアジアカップから続いているといえますか?

「その通りで、アジアカップでは日本と韓国が敗退し、オーストラリアやイランも敗れた。今回もそうで、韓国やオーストラリアが敗れ、カタールも敗れた。小国がレベルアップし、大国との差を埋めつつある。それが今大会でも顕著だった」

――メルシー、フィリップ。五輪に関しては、また改めて話を聞かせてください。

文=田村修一

photograph by JIJI PRESS