日本男子バレーにまた新星が現れたと、世界のバレーファンがざわついている。

 現在開催中のネーションズリーグで、日本は開幕3連勝と絶好のスタートを切った。この予選ラウンド第1週は主将でエースの石川祐希、高橋藍が登録されていない中、アウトサイドヒッター陣がパリ五輪への生き残りをかけそれぞれに個性を発揮しているが、その中で、初戦のアルゼンチン戦で初先発したチーム最年少の20歳、甲斐優斗(まさと)(専修大3年)が存在感を見せている。

 身長2mの大型アウトサイドである甲斐は、昨年のネーションズリーグで代表デビュー。主にリリーフサーバーとしてセット終盤に登場すると、度胸よくサーブを打ち込んで崩し、必ずブレイクを奪って帰っていった。その後もアジア選手権、パリ五輪予選と1年を通して選出され続けた。

 そして冬場は、約4カ月間フランスリーグのパリ・バレーで過ごし、技術もパワーも格段にレベルアップ。その成果を今回のネーションズリーグで発揮している。

石川祐希、高橋藍とは対照的な姿勢

 昨年12月、甲斐がパリ・バレーに加入したと聞いて驚いた。その少し前、大学生を中心とした日本代表の若手合宿に参加していた甲斐に、「大学の試合がない冬場に、海外リーグやVリーグでプレーしたいという思いは?」と聞いた際、こう言って否定していたからだ。

「自分は性格的に、ま、徐々にやっていければいいかなっていうタイプなので。チャンスが来た時に、そこでチャレンジできればいいのかなーと思います。自分は、ガツガツ行くようなタイプではないので」

 その答えに正直拍子抜けした。アウトサイドで不動のレギュラーとなっている石川や高橋藍をはじめ、貪欲に成長を求めて海外に出ていき、代表で地位をつかんでいった選手たちとは対照的に映ったからだ。

 だがその後、甲斐はパリへ。甲斐のポテンシャルを高く評価する日本代表のフィリップ・ブラン監督や日本バレーボール協会の後押しがあってのことだったが、4月にシーズンを終えて帰国した甲斐に改めていきさつを聞くと、苦笑しながらこう語った。

「最後は、ほんと、押し切られて(笑)。そこまでいったらやるしかないなーとは思っていたので。ブランさんにはずっと『Vリーグか海外に行ったほうがいい』と言われていて、大学の監督も『行ってこいよ』という感じだったので。海外のチームが決まった時に、パリ・バレーは(宮浦)健人さんもいるし、というのもあって。健人さんの負担になるかなとは思ったんですけど、少し頼りながらなら、頑張っていけるかな、というふうに思って」

 冬場に上のレベルで経験を積まなければパリ五輪でのメンバー入りは難しいという周囲のハッパもあり、渋々のフランス行きだったが、甲斐は「(行って)よかったです」と微笑んだ。

「本当にバレーに集中できる環境だったので。大学では試合がない期間なので、まずそこで試合に出る機会をもらえたのはすごくよかったし、あとは本当にブロックに対して考える時間が増えた。練習の時から相手に高いブロックがあるので、常にそれを意識しながら、ただ打つだけじゃなく、リバウンドを取ったり、フェイントを増やしたり、すごく考える部分が多くなりました。速いサーブに対しても、まだまだですけど、慣れることができたのかなと思います」

宮浦健人も驚いた急成長「去年と全然違う」

 パリでは、シーズン途中の加入ということもあり、最初はリリーフサーバーや大差がついた場面での途中出場が多かったが、次第に信頼をつかんでいった。プレーオフがかかった試合では流れを変える活躍でプレーオフ進出を決め、宮浦は「甲斐が頑張ったんで勝てました」と感謝した。

 宮浦は甲斐の変化をこう語る。

「本当に伸び具合がすごい。去年の甲斐と今の甲斐は全然違います。もともと身長はあるんですけど、特にスパイクは高さが増して、コンディションがいい時は向こうでもブロックの上からバンバン打っていたし、スパイクの幅もパワーも。そこは一番成長が見えたのかなと思います」

 また、「人としても」変わったと、宮浦は続けた。

「彼自身すごくシャイなので、最初はあまりオープンじゃないというか、口数が少なくて、僕から一方的に話すことが多かったんですけど、徐々に向こうから話しかけてくることも多くなりました。チームメイトもみんな、人としていい選手ばかりだったので、甲斐のこともしっかりフォローしてあげて、それに対して甲斐もオープンになってくれた。そういう部分も成長なのかなと思います」

 昨年2月に甲斐が若手選手のフランス遠征に参加した時には、食事が合わず苦労し、それも海外への苦手意識につながっていたが、今回は対策が実ったようだ。

「炊飯器を持っていって、お米を食べられるようにしたので。お米があれば生きてはいけますね(笑)」と甲斐。

アルゼンチン戦で“確信”した真保コーチ

 さらに1月中旬からは、日本代表コーチで、B代表の監督でもある真保綱一郎がパリ・バレーに合流し、サポートした。

 3カ月間共に過ごした真保コーチは、現在Bチームの合宿中のためネーションズリーグには帯同していないが、初戦のアルゼンチン戦の映像を観て、甲斐がさらに次の段階に進んでいると確信した。

「パリでやっていた時は、ちょっとでもパスがずれたら高いトスを打っていたんです。だから展開がゆっくりだった。でも日本代表のあの集団に入ると、展開が速くないと追いつけない。そこに今、ついていっていますね。

 今年の代表でも最初は、セッターの関田(誠大)が彼に打たせるためにちょっとゆっくりにしていたと思うんですけど、今は逆に、甲斐が代表のバレーに合わせているので、そこはすごい。パリでもすごく成長したんですけど、その後あの集団(日本代表)に入って、さらに違うレベルに、判断力とか、頭も成長したんじゃないかなと感じます。サーブレシーブもすごくうまくなっていますね」

 サーブレシーブは4月の合宿では不調で、ブラン監督がつききりで指導する場面もあったが、5月に入ると何かをつかんだかのように安定したという。

 甲斐はネーションズリーグ第2戦のセルビア戦にも先発出場し、オポジットの西田有志に次ぐ10得点でストレート勝ちに貢献。第3戦のキューバ戦は第5セットのスタートから入り、苦しみながらも相手のマッチポイントから強力なサーブを打ち込み、逆転への流れを作った。

 甲斐はある意味、これまでの長身選手の概念を覆している。「これだけ身長があるのにこれもできる」ではなく、「これもできてあれもできて、その上、身長がある」という選手だ。

 期待は高まるが、とはいえアウトサイドは層が厚く、石川、高橋藍という絶対的な存在がいる。比べるのは時期尚早だが、甲斐がいずれ2人を押しのけてポジションをつかむために必要なものは何か、真保コーチに聞いてみた。

「甲斐はもう、すべて持っていると思うんですよ、可能性は。もちろん今、技術的に足りないところはあると思うんですけど、そこは上げていける。

 ただ、メンタリティの部分で、あの2人、石川と藍は、海外に行くことを自分で決めたり、積極的にチャレンジしてきた。今の2人を作ったのは環境が大きいと思いますが、その環境を自ら選んできました。すごく苦しい選択もしてきたと思います。

 甲斐は(高いレベルでやれる)チャンスはあるので、そこを自分で選ぶかどうか。本当にそこだけだと思います。レベルアップするために、いい選択をする。日本にいることが不正解というわけではないと思いますが、常に自分のステップアップのために行動を起こすことができたら、すごい選手になるんじゃないですか」

 今は周りに引っ張られ、背中をぐいぐい押されながら成長しているが、それが変われば……。

「アルゼンチン戦を観た時に、あ、もしかしたら、この1シーズンでそういうメンタリティになるんじゃないかな、と感じる部分はありました」と真保コーチは期待する。

 欲が膨らみ、それに向かって行動を起こせるようになった時、甲斐はさらに、誰も想像が及ばない飛躍を遂げるかもしれない。

◇ ◇ ◇

《バレーボールネーションズリーグ/男子日本代表の予選ラウンド》※すべて日本時間

■第1週 リオデジャネイロ(ブラジル)
5/22(水)日本 3-1 アルゼンチン
5/24(金)日本 3-0 セルビア
5/25(土)日本 3-2 キューバ
5/26(日)2時〜 vsイタリア

■第2週 福岡県北九州市
6/4(火)19時20分〜 vsイラン
6/5(水)19時20分〜 vsドイツ
6/7(金)19時20分〜 vsポーランド
6/8(土)19時20分〜 vsスロベニア

■第3週 マニラ(フィリピン)
6/18(火)20時〜 vsカナダ
6/21(金)20時〜 vsオランダ
6/22(土)20時〜 vsフランス
6/23(日)20時〜 vsアメリカ

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文=米虫紀子

photograph by Volleyball World