キャバ嬢やホステス、そして風俗嬢など、いわゆる“夜のお店”で働いている女性たちの中には30歳前後で業界を卒業し、“昼職”と呼ばれる、いわば会社などへの就職を希望する人も多いという。そんな彼女たちの転職支援を行っているプラットフォームが「昼職コレクション」だ。

これは、夜のお仕事経験者歓迎の求人情報を網羅した転職サイト。営業から事務、受付、秘書など、さまざまな業種・職種カテゴリーの求人を掲載している。また、近年ではWeb上だけでなくスナック勤務を通して企業の社長や採用担当者と出会える「ヒルコレスナック」も展開している。

今回は、これらのサービスを運営する株式会社ゼロベータ代表取締役の日詰宣仁さんに、昼職コレクションの誕生秘話や、コロナ禍の自粛期間を乗り越えられた理由、そして開業1周年を迎えたヒルコレスナックのイマについてお話を聞いた。

■“昼間”の仕事を紹介する「昼職コレクション」誕生秘話
――初めに、昼職コレクションというサービスを始められた経緯について教えてください。
【日詰宣仁】弊社は創業して10年経つのですが、当初は女の子に夜のお店を紹介するサービスを展開していました。いわば水商売の転職エージェントですね。ビズリーチさんをはじめとした転職エージェントが行っているのが「ダイレクトリクルーティング」と呼ばれる、企業が直接求職者にアプローチする採用手法で、これを水商売の世界に持ち込めないかと考えたことが始まりです。

【日詰宣仁】サービスを始める前は、夜の世界がすごくシンプルだと予想していました。女の子は時給が高ければ高いほうがいいし、お店はかわいければかわいいほどいいといった感じですね。また、お店側も女の子を取り合いしているので、いの一番にいい時給をオファーした会社を知ることができれば、女の子側も楽だろうなと思いました。

【日詰宣仁】そうして、いざサービスを始めて2年くらい頑張ってみたのですが、世の中はそんなに甘くなくて。水商売のお店を紹介するライバル会社がとても多かったんですよね。今では誰でも知っているような大手Webサイトがあって、そこがほとんど牛耳っていました。そこのシェアの1割でも奪えればいいかなと思ったのですが、半分を奪っていくほどの資金力とスピードがないと勝負すらできないということに気づいたんです。

――水商売の転職サービスは、大手一強という状態だったのですね。
【日詰宣仁】そうでしたね。ですが、2年間ほど続けて5000人ほどの会員数を増やすことには成功したので、この資産をうまく使いたいなと思っていました。そこで、事業展開をしていく前にユーザーインタビューを実施し、何人かのキャバ嬢の友人に話を聞くことにしました。そこで彼女らの悩みを聞くと、全員が「昼職の探し方を教えてほしい」って答えたんです。

【日詰宣仁】ですが、僕はそもそも“昼職”という言葉自体知らなくて、「昼職って何?」と聞いてしまいました。これは水商売で働く人が自分たちの仕事を「夜職」というのに対し、会社員など昼間の仕事のことを表す言葉です。僕は仕事に「昼も夜もないのでは?」と思ったんですけどね(笑)。この言葉を知ったとき、すごく衝撃的でした。

【日詰宣仁】夜職の女の子たちは見た目もきれいですし、コミュニケーション能力がすごく高いんですよ。ですので、彼女たちは営業や広報など、コミュニケーション能力が必要とされ、会社の顔として動かないといけない職種で非常に重宝されるだろうなと思いました。そこで「会社と夜職の女の子をつなぐサービス」を思いつきました。

【日詰宣仁】サービスのコンセプトを描いたのがおよそ8年前なのですが、そのころは夜の店を紹介する会社は数あれど、夜職の女の子のセカンドキャリアを支援する会社は1社もありませんでした。そこから事業を立ち上げて、昼職コレクションというサービスを始めるにいたりました。

■コロナ禍でメディアが注目。一躍有名なサービスに
――実際にサービスを始めてみて、手応えはいかがでしたか?
【日詰宣仁】夜職の女の子の多くは自分に自信がなかったことが課題でしたね。というのも、夜の仕事に引け目を感じている子がすごく多くて。履歴書に仕事のことを書いたり自己アピールをしたりができないんですよ。ですが、プライドを持って頑張って働いていた子も多いので、そのような子たちに「自信持っていいじゃん!」と言って背中を押すのが僕の仕事です。

【日詰宣仁】このような女の子たちは営業力やコミュニケーション能力が高くてストイックに頑張るので、実は会社側も求めていたりするんです。ですが、女の子も会社も互いにアプローチする方法がなかったので、僕が仲介してお互いのニーズを引き合わせるという役割を果たしています。

――このサービスが大きく伸長したのはいつごろでしたか?
【日詰宣仁】ポイントは、コロナ禍でしたね。日本各地で夜のお店が一斉自粛になった際、生活が成り立たなくなる女の子が続出しました。なので、当時の都知事が「夜の街はいったん自粛!」と言った次の日には問い合わせの数が3倍に増えましたね。ですが、あまりに多くの求職者が来たのと企業側が採用をストップしたのが重なり、需要と供給のバランスが崩れてしまいました。

【日詰宣仁】ですので、2020〜2021年は転職したい女の子が多くても雇ってくれる会社がないのでとても厳しい状況が続きました。ただ、夜の街にメディアがスポットを当てたことによって、仕事がなくなった女の子の状況を伝えると同時に昼職コレクションも見つけてくれたんです。その結果、テレビや新聞、Webメディアなど多くの媒体に掲載されました。

――メディア露出のあとはどんな変化がありましたか?
【日詰宣仁】認知度が高まった反面、僕たちのサービスをマネする会社も続々出てきまして。今ではうちと似たようなことをしている会社が少なくとも10社以上はあると思いますね。サービスを始めた当初はブルーオーシャンでしたが、現在は全くそんなことはないですね。

【日詰宣仁】また、コロナ禍が落ち着いて以降は求人が回復したどころか、人が足らないという会社がとても多くなってしまいまして。ですので、最近は企業への新規開拓はあまり行わずとも、向こうから連絡が入ってくる状況にはなっていますね。コロナ禍にメディアに取り上げられたことで、それなりに認知された結果が現在に反映されています。

――夜職から昼職に行く女性は、どんな仕事に就くことが多いのでしょうか?
【日詰宣仁】やっぱり営業が一番多くて、求人の9割以上を占めていますね。企業側はキャバ嬢やガールズバーをしていたような女の子のコミュニケーション能力に期待しています。実際に、入社後に業績を上げて新人王になった子や、20人ぐらいいる営業の中で、うちから紹介した女の子がトップ5を占めたなど、さまざまな結果を残しています。

【日詰宣仁】彼女たちが営業に強い理由はコミュニケーションだけでなく、社長や部長など、会社の決裁者的なポジションの人に慣れていることもありますね。普段からお金持ちのお客さんと接しているので、どんな立場の人でもおじけずに営業できる胆力があります。このような点も会社から重宝されるポイントですね。

【日詰宣仁】また、弊社のサービスでは4500人ほどの女の子を紹介してきましたが、彼女らの平均年齢は29.5歳です。やはり30歳までに夜職を卒業したいという女の子が多いんですよね。30歳までに昼職の経験がないとあとがなくなってしまう危機感を抱いているので、必死に就活しますし、仕事に就いたら本当に頑張る傾向にあります。

■2024年で開業1周年!ヒルコレスナックとは?
――現在、昼職コレクションとは別に「ヒルコレスナック」を展開していますが、これはどのようなサービスなのでしょうか?
【日詰宣仁】これは、いわば昼職コレクションのオフライン版で、銀座のスナックで女の子と企業関係者をリアルで会わせるというものです。女の子にキャストとしてお店に立ってもらい、実際に会社の社長さんや採用担当者さんとお話しながらマッチングを図ることができる、業界初のコンセプトスナックです。

【日詰宣仁】この業態を思いついたのは、先ほど申し上げたようにライバルが増えてしまったことが要因です。同業者が多くなって女の子の取り合いになり、求職者側の集客コストが膨れ上がってしまいました。つまり、ホームページやサービスなどに多大なお金をかけないといけなくなったんです。そこで、数を追いかけるのではなく、質を高める方向に進もうと思いました。

【日詰宣仁】そのなかでいろいろな人に相談していたところ、「店形式で経営者と女の子が直接会える場をつくってみては?」という話を聞きました。最初は聞き流していたのですが、よくよく考えると女の子はキャスト代をもらえるし、お客さんから直接仕事の話を聞けるのですごくいいのではないか、と思いました。そうしてできたのがヒルコレスナックになります。

――仕事もできるし求職もできる、非常に効率のいいシステムですね。
【日詰宣仁】そうなんです。女の子からすればお金ももらえるし、採用に積極的な経営者の話も聞けるし、言うことなしですよね。また、もうひとつの特典として、夜職の女の子ってパソコンが苦手な子が多いので、彼女たちのために無料のパソコン教室も開いています。そうして、昼職に就いたときにスムーズに仕事を始められるような工夫もしています。

――ヒルコレスナックの採用基準などはありますか?
【日詰宣仁】本当に昼間の仕事に転職する意思がありそうな、真面目で素直な子しか採用してないんですよ。お店に来ていただく会社側も会員制にしていて、女の子がちゃんと長く働けそうで、優良かつ今後伸びるであろう会社だけを選別しています。要は僕が互いに好きな人同士しか会わせていないんです。どちらも本気ですのでマッチング率も高いのが特徴ですね。

【日詰宣仁】また、スナックの形式にしているからこそ、女の子のコミュニケーション力を見られるというメリットもあります。普通の昼職しか経験していない女の子は、スナックに立っても1時間どころか15分と間が持ちません。ですが、夜職の女の子は経営者クラスの人と話すのに慣れているので、場を盛り上げることができるんです。これは一長一短で身につけられない、夜職を経験したからこその能力です。

【日詰宣仁】そして、お酒を作っていれば女の子の普段の表情も出るので、かなり人柄が見えます。また、お酒がなくなったときに気づくとか、タバコを吸うときに灰皿を出したりといった、細やかな気配りを見ることができます。スナックだと普通の就職面接では見えない本質的な素養を見ることができるので、ミスマッチも少ないですし決定スピードがとても速いんです。そのため、企業からしても非常に効率的な採用ができます。

■マッチングだけでなく起業支援も…。昼職コレクションのこれから
――現在の求職者と採用側のマッチ率はどのくらいでしょうか?
【日詰宣仁】大体4割程度ですね。ここ1年くらいは手探りでサービスを展開していた部分も大きいので、2年目はマッチ率5割を目指していきたいと思っています。スナックに呼びたい企業も固まってきましたし、紹介したい女の子の傾向などもつかめてきましたからね。とにかく、効率的に採用できればできるほど、どちらの課題も解決できてしまいますからね。

――本当に効率のいいサービスですよね。互いの需要を埋められるのがすごいです。
【日詰宣仁】ありがとうございます。自分としてもヒルコレスナックの手応えをすごく強く感じていて。だからこそ、今後はマッチングの精度を高めていきたいと思います。また、女の子の中には就職ではなく起業をしたいという方もいます。ですので、何人かお金を出したい人を集めて、彼女らの起業支援みたいなこともしていきたいですね。事業アイデアがおもしろければ投資する、みたいな。

――いわば、ヒルコレ版『令和の虎』ですね!
【日詰宣仁】ですね(笑)。独立心が強い子も一定数いるので、そのような子たちも応援していきたいと思っています。実際にうちで働いてくれた子の中にも、25歳で2000万円貯めて飲食店を開業した猛者もいます。弊社は転職支援だけではなくセカンドキャリア支援なので、転職も独立も応援して、キャリアにつなげられるスナックにしていきたいです。何も正社員だけがゴールではないですからね。

【日詰宣仁】できれば、僕も聞いたことのないようなアイデアで、社会の仕組みをぶっ壊すような女の子が出てきてほしいなと思います。夜職の女の子を支援するサービスにおいて弊社は日本一だという自負があります。ですので、今後もさまざまなやる気のある女の子のキャリアを支えていきたいです。日本初の「昼職が見つかるスナック」の質を上げていき、女の子も会社もWin-Winな関係を築ける取り組みを、これからも行っていきます!

――貴社の取り組みは、日本全国の夜職の方たちに勇気を与えているように感じます。本日はありがとうございました。

この記事のひときわ#やくにたつ
・コミュニケーション能力は最強のスキル
・目上の人にも怖気付かない胆力は高評価される
・人材の需要と供給を満たす場所はビジネスを生み出す


取材・文=福井求(にげば企画)