TBSグループの海外戦略スタジオである株式会社THE SEVEN。これまで『幽☆遊☆白書』や『今際の国のアリス』シリーズなど、世界基準の作品を世に送り出してきたが、この度、世界水準のVFX制作会社である株式会社メガリスと戦略的パートナーシップを締結した。日本でも山崎貴監督が手掛けた『ゴジラ-1.0』がアカデミー賞視覚効果賞を受賞するなど、VFX技術はより身近な話題になってきた。そんななか、THE SEVENがメガリスとタッグを組んだ背景にはどんな思いがあるのだろうか。THE SEVENの赤羽智史VFXプロデューサー、メガリスのCEO兼VFXスーパーバイザーのクリストフ・ロド氏、ジェフリー・デリンジャー氏に話を聞いた。

■これまで“実写化不可能”と言われてきた作品が次々と映像化される背景

 赤羽氏が所属するTHE SEVENは、2022年1月にTBSホールディングスが出資して設立されたプロデューサー集団。主にグローバル配信プラットフォームなどと連携し、全世界に向けたハイエンドなコンテンツの企画開発、プロデュースを行うほか、IPの開発や管理、映画、ライブエンターテインメント、ライセンス事業など、IPを核として海外を視野にいれたビジネス展開を行っている。

 そんなTHE SEVENが、米エミー賞3冠を獲得した Netflixシリーズ『ONI〜神々山のおなり』の映像制作を担当するなど、グローバル水準の技術力で、国内のみならず海外からも映画やドラマのVFX、3DCGアニメーションの依頼が続くVFXスタジオのメガリスとパートナーシップを締結した。

 赤羽氏は「グローバルに向けてコンテンツを作っていくなかで、VFXは非常に負荷が大きい。特にリソース面で、作品をともにするパートナーは最重要課題になってきます」と語ると「メガリスチームとはNetflix映画『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』で初めてご一緒し、その後も『幽☆遊☆白書』でVFXを担当していただき、とてもいい映像を作られるという印象がありました。我々が企画しているものは、規模が大きい作品が多いので、世界中のパートナーと協力して作らなければいけない。その意味で、メガリスは東京に会社がありながら、世界中から技術者が集まっている集団なので、ハブとして大きな役割を果たしていただけるという期待がありました」とオファーした理由を述べる。

 一方メガリスもTHE SEVENとのシナジー効果には大きな期待があるという。ジェフリー氏は「日本の魅力的なコンテンツを、世界に出していくという意味で、THE SEVENのビジョンには共感ができたんです」と理念が一致したことを明かすと、クリストフ氏も「ほかにもいろいろな日本の会社とお付き合いをしていくなかで、一番シンクロしていると感じられました」と同意見を持っていたという。

 以前から日本の漫画やアニメーション作品は、世界中から注目されていたが、近年ハリウッドなどでもビッグプロジェクトとして、これまで“実写化不可能”と言われてきた作品が次々と映像化されてきた。

 ジェフリー氏は「私がVFXの仕事に携わるようになった当時、ミルクをCGで再現するのがどれだけ難しいか…という記事を読んだことがありました。そこから考えると、かなり進歩してきました。少なくとも気持ちとしては、“映像化不可能なものはない”という意識があります」と自信をのぞかせる。

 それを受けてクリストフ氏は「日本の技術力は昔から非常に高かった。僕は子どものころ『ファイナルファンタジー』のクオリティの高さに驚かされました。唯一足りていないのが、予算面から生まれる時間とリソースの少なさ。それが時を経て、ソフトの開発が進歩したことで、少ないリソースでより多くのことができるようになった。今後、日本でもこの分野がさらに進んでいくと思いますし、今回の協業がその礎になっていくのではという期待があります」と話した。

■『ゴジラ-1.0』の米アカデミー受賞、日本のVFX技術の高さとその先の課題

 技術革新によって、一部の限られた人間だけの世界だったVFXの裾野が広がった。日本でも、山崎貴監督が指揮をとったチームが『ゴジラ-1.0』を作り、本国のアカデミー賞で視覚効果賞を受賞する快挙を達成、日本のVFX技術への注目が集まった。今後作品を作る際、VFXの役割はさらに広がっていくのだろうか。

 赤羽氏は「その実感はあります」と語ると「10年前と比べると、ここ2〜3年は特に作品の中でVFXの予算の割合が変わってきたと思います。これまではどんなに割合が多くても10〜20%ぐらいでしたが、作品によっては30〜40%という規模の作品も出てきました。それだけ重要なものになっていると思います」と数字による変化を述べる。

 一方で赤羽氏は「バジェットは、いくらあっても足りないんです。『もっと予算があればあれができる、これができる』と思うのは、規模の大小は関係ない思いなんですよね」と笑うと、「それでも『幽☆遊☆白書』では、日本の映像市場ではかつてないほどの規模を経験しました。それによって『DUNE/デューン 砂の惑星』や『ザ・クリエイター 創造者』は『幽☆遊☆白書』の何倍なんだとか、その予算でマネジメントすることがどれだけ難しいかなどもわかりました」と課題も見えてきたという。

 「バジェットに関して世界との大きな差は、国からの税制優遇制度が日本にはないことです」と赤羽氏は話す。「海外では、インセンティブ制度により、作品にかかったVFX費用から税額控除されるため、公表している製作費と実際VFX制作にかかった費用が異なります。カナダでは20-30%、オーストラリアでは、40%以上のキャッシュバックがあることもあります。これは、VFX市場だけでなく、全ての映像業界の成長を手助けすることになります」。
 ジェフリー氏は、ロサンゼルス拠点のVFX技術の発展を促進するために設けられた非営利協会(VES/ヴィジュアル・エフェクツ・ソサイエティ)の会員で日本支部の創設に取り組んでおり、海外のプロジェクトを日本に誘致するためにも、日本でも税制優遇制度を推進することが必要であると、訴え続けている。

 さらにジェフリー氏は「これまでは日本人が規模の大きなVFXアーティストになるためには、海外に行くしかなかった。日本では働く環境を含めてまだまだ向上していかなければいけない面が残っています。そこをTHE SEVENとメガリスが協業することで、少しずつ日本でもビッグバジェットの作品の経験を積む。また同時に、海外で活動していた日本人のアーティストたちもちゃんと呼び戻せて、リーダーになってもらうような環境づくりも必要です」と今後の展望を述べる。



 そしてもうひとつ。THE SEVENは、元Netflix視覚効果のディレクターであるサミール・フーン氏とアドバイザリー契約を結んだ。サミール氏の主なフィルモグラフィーには『スターウォーズ Episode 1,2,3』や『ミッション・インポッシブル』、『トランスフォーマー』、『ジュラシックパーク3』などがある。

 赤羽氏は「『幽☆遊☆白書』の制作時、サミール氏に世界的な視点でいろいろなアドバイスをいただいたんです。技術的な部分で『このベンダーが良い』とか『あの作品が延期になったので、リソースが使える』など、すごく助けられたんです。そしてそういった情報だけではなく、非常に鋭い先見性、さらにはチームワークを大切にする方だったので、非常に心強いパートナーになれると思ったんです」と経緯を説明した。

 日本が誇る世界的なIPである『ゴジラ』が日本のスタッフで世界的に高い評価を得た。まだまだ日本には世界中が羨むような人気漫画やアニメーションが山ほどある。THE SEVENは、こうした宝の山を世界基準のクオリティでグローバルコンテンツとして世に送り出す――。そんな使命を持ちながらメガリスとともに大きな一歩を踏み出す。


取材・文/磯部正和
写真/山崎美津留