50代になって自分の時間が増え「新しいことに挑戦したい」と思う人は多いのでは?
これからの人生をいきいきと過ごすには、「生きがい」は欠かせません。
今回は、SNSが評判を呼び、54歳で宅配弁当店を開業した森智子さんに話をうかがいました。

森 智子さん
「和ぼっち トモ弁」店主
証券会社勤務を経て渡仏。帰国後、パーソナルカラーサロンや飲食店に勤務。54歳から宅配弁当店「和ぼっち トモ弁」を開始。地元・茅ケ崎のマルシェでは、1 時間で90食完売するほどの人気店。


SNSに上げたお弁当がお客さんを連れてきた

▶何歳で? きっかけは?
54歳。SNSに投稿したお弁当が注目を集め、DMで注文が入るように。

▶初期投資は?
特になし。調理器具はもともと家にあるものを使用。

▶やっていて楽しいことは?
私の知らないところで、お弁当が話題になり、お客さんを連れてきてくれること。リピーターさんが増えること。

▶やっていて大変なことは?
必要な食材の量の計算。仕入れや調理のスケジュール管理。

▶これからどうしたい?
人を雇い、規模を大きくすることを検討中。


逆境のなかで考えたのは 今、自分に「できる」こと

チャレンジを始めたきっかけを尋ねると、「すべて2020年に重なったんですよ」と森さん。

パートナーとの別れ、勤務していた飲食店でのトラブル、お母さまの病気、娘さんの大学進学……。森さんが54歳のときでした。

「お金もないし、場所もない。でも何かやらなくちゃいけないと、母と娘のためにお弁当を作って、SNSに投稿を始めたんです」
 
そんなある日、SNSに「ロケ弁を70食注文したい」というメッセージが届いたのです。
それが「和ぼっち トモ弁」の始まり。

徐々に口コミで評判が広がり、テレビや雑誌の撮影現場やギャラリー、個人宅などにお弁当を届けるようになりました。

「私の知らないところで、お弁当がひとり歩きをして広がって、お客さんを連れてきてくれるのが、やりがいになっています。〝あるようでない、食べ飽きないお弁当〟と言ってもらえるのは、すごくうれしいですね」
 
とはいえ、別の仕事と掛け持ちしながら、一回平均70〜80食分の仕入れから調理、盛りつけ、配達まで全部ひとりで行っているので毎日大忙し。納品前は夜通し作業が続きます。

宅配に加えて、地元・茅ケ崎や江戸川で開かれているマルシェにも月1回出店。そのエネルギーはどこから湧いてくるのでしょう?

「もちろん悩むこともあるし、泣くこともありますよ。でも笑顔でやっていれば楽しみが見つかるから。運命は決まっているかもしれないけど、自分の人生は、自分で作れると思っています。
注文も増えてきたので、今は、トモ弁を手伝ったり、受け継いでやってくれる人が欲しいなと、ワークショップなども考えているところです」

これまでの人生を詰め込んだ、おいしくて色彩豊かなお弁当

色彩の勉強や、生け花、フラワーアレンジメントを習得してきた森さん。
そのノウハウが盛りつけにも生かされ、見た目にも「おいしそう!」と評判です。

「おかずやご飯を混ぜて食べるのを前提に、仕切りは使わない。味や色のバランスを考えながら、正面から見て美しく納まるように定位置を決めています」。

アクセントのはじかみは普通、濃いピンク色のほうを上にしますが、トモ弁は逆。
「海苔の黒にピンクが美しく映えるように。うちの目印ですね」

ふだんのおかずを、吟味した食材でくっきりした味に仕上げるのがトモ弁流。
魚は地元・茅ケ崎の魚屋さん「魚卓」で仕入れます。

骨もていねいに抜いて食べやすく。
「友人の紹介でお世話になるように。人との出会いには本当に恵まれています」

神奈川県内や都内はもちろん、注文があれば郊外まで車を走らせます。
「お客さんに会うので、お弁当を詰める前に、自分の“ 仕込み”もしておかないと(笑)」


撮影/大森忠明 文/寺本彩

大人のおしゃれ手帖2024年5月号より抜粋
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