米大リーグのドジャースで活躍する大谷翔平選手の妻、真美子さんが何かと話題です。先日は、ロサンゼルスで行われた球団オーナーグループ主催のチャリティーイベント「ブルーダイヤモンド・ガラ」に出席した時の様子が注目を集めました。

ドジャース選手の妻たちが運営する「ドジャース・ワイブズ」(ドジャース奥様会)がSNSにアップした記念写真を見ると、ドレスアップした妻たちは総じて肌の露出度高めです。デコルテをあらわに胸を強調している奥様もいれば、ミニ丈の華やかなドレスから思いっきり脚を出している奥様も。そして、ほぼ全員が「腕見せ」をしています。

「ほぼ」と書いたのは、真美子さんだけが例外だったから。ジャケット風のシックな黒のドレスは、腕の部分がシースルーになっていて、肌が透けているものの、他の妻たちのように素肌を出す形での「腕見せ」はしていませんでした。

日本のSNSでは、真美子さんの装いは「控えめで素敵」と評判でした。ただ、筆者の知人で、パーティー好きの欧米女性たちは、口をそろえてこう嘆いていました。「真美子さんは、せっかく綺麗なのにもったいない!」

では、一体何がどうもったいないのかと問うと、ある女性は「胸だって腕だってどんどん出していい。せっかくスタイルがいいのに、なぜ隠すの? もっと自分を見せたほうが楽しいのに」。これを聞いて、改めて日本と欧米の「文化の違い」を感じました。

欧米の女性は、日本と比べて「パーティー慣れ」しています。よって、パーティーならではの「肌を露出するドレスを着る」ことに抵抗感がない女性が多いのです。

例えばドイツでは、親の勧めで10代のうちに社交ダンスの教室に通い、ワルツやルンバ、チャチャチャなどの基本的なステップを習います。そして、教室の発表会にはカクテルドレスを着て参加します。10代の子が、背中や肩、デコルテがあらわになる華やかなドレスをまとい、踊りを披露するわけです。

これには両親も参加するのが一般的で、母親もカクテルドレスを着用します。母親は、娘よりも年齢を重ねているから控えめなドレスなのかと思いきや……そんなことはありません。中年から初老に差しかかる女性であっても、堂々とデコルテを見せますし、腕も見せます。

ヨーロッパ女性だけでなく、アメリカ女性も「ドレス慣れ」しています。これには、高校卒業を前に行われるダンス・パーティー「プロム」があることも関係しています。プロムでは、肌を見せた、お気に入りのドレス姿を披露します。

そもそも、ヨーロッパでは「女性の正装」イコール「肌を露出するドレス」だったりします。例えばオペラ鑑賞。「ドレスを着なければいけない」という明確な決まりはないものの、ドレス姿の人を多く見かけるのです。ドイツの元首相メルケル氏も、かつて外国の首相とともにオペラを見た際、胸をあらわにしたドレスを着ていました。

この写真がメディアで紹介された当時の「日本でのリアクション」を、筆者は今もよく覚えています。

驚きの声を上げる日本人が多かったのですが、その中でも忘れられないのは、知り合いの日本人女性の「サンドラさん、この写真はきっと偽物ですよ」という発言です。

この女性は、日本のごく常識的な感覚で「一国の首相が胸の開いたドレスを着るわけがない」と思い込んでいました。「文化によって人のリアクションはここまで違うのか」と、勉強になったエピソードでした。

日本では、「年齢を重ねた女性が肌を露出するべきではない」と考える人が多いようです。大手小町にも、日本の職場における女性の仕事服のマナーについて解説した記事があります。ビジネスにおいては手を上げた時にわきが見えてしまうようなノースリーブは避けるべきだとか、わき口から下着が見える可能性があるから注意すべきだとか、「ぜい肉」に注意すべきだとか、とにかく「注意する」ことだらけです。「ひゃー! ここまで厳しいんだ!」と今更ながら驚いてしまいました。

何よりも驚いたのは、「職場に50代女性で夏場はノースリーブを着ている人がいますが、男性は勘弁してほしいと言っていて、悪い意味で目のやり場に困るようです。女性から見ても痛々しいです」という意見。日本では「若くない女性の二の腕など見たくない」という感覚の人が少なくありません。でも、ヨーロッパの職場だと「若くない女性がノースリーブを着ている」ことが多々あります。

万が一にも男性が「年齢を重ねた女性のノースリーブは不快。着ないでしてほしい」と口にしたなら、「ハラスメント」だとされる可能性があります。「ふくよかな女性のノースリーブ姿は見苦しい」「ぜい肉がはみ出ている」といった発言は、たとえそれが異性ではなく同性の発言だったとしても、ヨーロッパでは「意見」ではなく、「ボディ・シェイミング」だと解釈されます。「ボディ・シェイミング」とは、「他人の容姿について否定的な発言をする」という意味で、特に職場では注意が必要です。

一部の日本人は、「ヨーロッパに建前はない」と思っているフシがありますが、そんなことはありません。「建前」の内容が日本とは違うだけです。

では、ヨーロッパで、女性にまつわる分かりやすい建前とは何かというと、それは「女性はみんな綺麗」「女性は何歳であっても美しい」というものです。実際にそう思っている人も多く、年齢を重ねた女性が肌を見せていても何ら問題はありません。

たとえ遠回しであっても、年齢や体形を理由に「ノースリーブを着るべきではない」などと発言するのは、意地悪な行為だと受け取られますし、何しろ上記の建前がありますから、常識のない人だと見なされてしまいます。女性のぜい肉に言及するなど、もってのほか。それがヨーロッパの常識であり、建前です。

筆者の友人や知り合いの男性には、ドイツ人やイタリア人、フランス人などがいますが、彼らは女性が何歳であっても、どんな格好をしていても、あるがままを自然に受け止めています。ファッションについて、時には「とても似合ってる!」といった気の利いたことも言ってくれます。その場に複数の人がいる場合、間違っても「若い女性だけを褒めて、年齢を重ねた女性を褒めない」なんて野暮なことはしません。「女性は愛されるべき存在で、みんな綺麗。以上」――これに対する反論は必要ない、というわけです。

ところで、欧米の「パーティー」はいろんな人と触れ合う「社交の場」ですから、自分の個性を活かしたドレスを着て、少々ハイテンションで臨むぐらいがちょうどよいでしょう。

簡単に言えば、「ノリの良さ」がモノを言います。服装のTPOよりも、「最高に機嫌の良い状態」で参加することのほうが、プライオリティーが高いかもしれません。

「ドジャース・ワイブズ」がSNSにアップした写真からも、奥様方の「最高に楽しい!」という声が聞こえてきそうです。

勝手な想像をして誠に恐縮ですが、今後この手のイベントやパーティーがあった時、もし真美子さんが「肌を露出したど派手なドレス」を着て登場したら……他の奥様方から間違いなく「Wow!」と大歓迎されることでしょう。

でも、そうなると心配なのは「日本の世間」の声です。日本は何かと女性に厳しい社会ですから、きっと「最初は控えめだったのに、最近は派手になって調子に乗っている」だとか、「選手の妻は旦那を支えるべきなのにチャラチャラしている」などと、いらぬ批判を受けそうなのが目に見えています。

すると、今後はアメリカ流を取り入れて奥様方になじむ方へ舵を切るか、それとも日本の世間から批判されないために「控えめ」を維持するか、真美子さんは少々難しい選択を迫られるかもしれません。欧米と日本では「女性がどうあるべき」という感覚が180度違いますから、「両方に好感を持たれる」のは至難の業です。

たかが「腕見せ」、されど「腕見せ」。筆者は「女性が女性を厳しい目で見ると、回り回ってその厳しさが自分に返ってくるため、結果的に自らを含む女性全員が生きづらくなる」と考えます。女性が居心地良く、楽しく過ごせるような社会にしたいものです。(コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)