近年、スマホの普及やテレワークなどにより、ヘッドホンやイヤホンを長時間使用する人が増えています。その影響で、ヘッドホンやイヤホンの使用により難聴を引き起こす、いわゆる「ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)」が問題となっています。なぜヘッドホン難聴が起きてしまうのでしょうか。原因や対策について、耳鼻科医の瀬尾達さんに聞きました。

気付かぬうちに症状が進行

Q.そもそも、「ヘッドホン難聴」とはどのような病気なのでしょうか。

瀬尾さん「ヘッドホンやイヤホンなどで長期間、音楽や大きな音を聞き続けることで、聴覚がダメージを受け、少しずつ聴力が落ちてしまう病気です。スマホや携帯型オーディオプレーヤーの使用のほか、テレワークをはじめとする働き方の多様化などによって、ヘッドホンやイヤホンを長時間使用する人が多くなっており、WHO(世界保健機関)は特に若年層の半数程度が難聴やそれに近い状態にさらされている可能性があると発表しているほどです。

難聴の怖いところは、聴力が一度に落ちるわけではないため、本人が気付きにくい点です。『最近、話し声や音楽が聞こえづらいな』と自覚症状を覚える頃には、難聴がかなり進行しているというケースも少なくありません」

Q.ヘッドホン難聴と診断された場合、治療や対処法などはあるのでしょうか。

瀬尾さん「残念ながら、失われてしまった聴力を取り戻す治療方法は現在ありません。そのため、日常生活に支障をきたすほど聴力が落ちてしまった場合は補聴器を使用していただくしか選択肢がありません。

ただ、早期発見・早期治療ができれば投薬治療などで進行を食い止められる可能性は高くなるため、『何だか耳の調子がおかしいな』と思ったらすぐに医療機関を受診していただきたいです」

Q.ヘッドホン難聴にならないようにするためには、どのような点に気を付けたらよいのでしょうか。

瀬尾さん「ヘッドホン難聴は『大きな音量で長期間音を聞くこと』が主な要因なので、小さな音量で聞き、休憩を挟むなどして耳を休ませてあげる時間をつくることが重要です。

WHOはヘッドホン難聴の予防のための安全な音量として『80デシベル』を推奨しています。これは音量でいうとだいたい60%程度で、音を聞いていても周囲の人と会話できる程度が目安ですね。

周囲の雑音が気になる人はノイズキャンセリング機能のあるヘッドホンやイヤホンを使用すると、クリアな音を適度な音量で聞けるのでお勧めです」

* * *

 ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴いているときに、周囲の音が聞こえないほど音量を上げるのは、耳にとって大きな負担になるのだそうです。音楽に集中したいと思ってつい音量を上げてしまう人は、将来的に難聴になるリスクが高まるかもしれません。

 ヘッドホンやイヤホンを長期間使用してしまう人は、耳をいたわるために音量の管理や耳を休ませることを習慣づけると良いですね。