昨今少子高齢化により、中小企業や小規模事業者の後継者不足などが大きな経営課題のひとつとなっています。承継する人がいない場合は廃業するしかないと考える経営者もいます。 CBCラジオ『北野誠のズバリ』のコーナー「カイシャのシュウカツ」では、事業承継について、専門家をゲストに多方面から学びます。 5月22日の放送では、東京都内の内装工事会社の承継事例を北野誠と松岡亜矢子が、三井住友トラストグループ 株式会社経営承継支援・はじめ部長の藤原秀人さんに伺いました。

     

M&Aの意外な理由

今回藤原さんが紹介したのは、東京都内にある内装工事会社の承継事例。どんな会社だったのでしょうか?

藤原「年商7億円、従業員15名の規模で、主にオフィスビルや病院の内装工事を手掛けていました。内装工事の中でも床工事の技術がある」

大手ゼネコンとも取引をしていて経営も安定していたそうです。
北野も「技術のしっかりした会社」と一言。そんな中、なぜM&Aを選択したのでしょう?

藤原「社長が70歳を超え人間ドックをしたところ、病気が見つかり引退を決意。社内に40代の息子さんがいるので社長を継いでくれると思っていたのですが、息子の方は本心では継ぐ意志がなかったようで」

北野「そういうパターンは珍しい(笑)」

提示されたふたつの承継条件

息子に継ぐ意思がないと知った社長は、廃業しようと考えていたところ、顧問弁護士からM&Aのセミナーを勧められました。

藤原「たまたま弊社がM&Aのセミナーをやっていたので、そこに参加してからの流れ」

売り手の条件などはあったのでしょうか?

藤原「まずひとつ目は、従業員と職人さんの雇用を継続すること」

北野「それはよくわかる」

藤原「ふたつ目は珍しいんですけど、社名を変えずに同じ社屋を使ってほしいと」

北野「それは完全に従業員のため?その方が従業員も安心ですもんね」

その後、M&Aはスムーズに進んだのでしょうか?

北野「このくらいの優良会社だったら、手を挙げる買い手が多かったのでは?」

藤原「はい。買い手は200社ほどピックアップして、検討していく上で6社に絞り、最終的に3社と面談しました。その中で一番金額の条件がよかったのはファンドさん」

北野「ファンドさん、目をつけるでしょうね」

まさかのどんでん返し

最終的に売り手は金額の条件がよかったファンド会社を選んだのでしょうか?

藤原「我々も金額が高いファンド会社で進むのかなと思っていたんですけど、ここでどんでん返しがあった」

候補の中には同じ内装工事の会社も入っていました。売り手の社長が「同じ内装工事の会社が一番事業を理解していて、従業員も働きやすいだろう」との提案を述べたそうです。

藤原「3社の中では一番金額条件が低かった、埼玉県に本社を構える同業者さんを選ばれたと」

北野「金額よりも、従業員さんの働きやすさを取ったんですね」

「立派な社長さん」と感心する北野。「こういうことが起こるのが中小企業のM&Aの面白いところ」と藤原さん。

買い手の会社からしても、東京の営業エリアを強化することができ、さらに大手ゼネコンとの取引もできるという大きなメリットがありました。

一方、売り手の会社もM&Aによってトイレが和式から洋式になったり事務機器も新しく買い替えたりと職場環境が改善され、従業員の方々もたいへん喜んだそうです。

北野「社長さんが税理士さんからの勧めでセミナーに行ったことがきっかけで、方向転換が大きく変わったってことですね」

なんでも参加したり、やってみたりすることは大事だと認識を深める北野でした。
(野村)