毎週水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、書評家の大矢博子さんがおすすめの新刊を紹介しています。 5月22日の放送で取り上げたのは、先月発売された辻堂ゆめ『二人目の私が夜歩く』(中央公論新社刊)。 ひとつの身体をふたりで共有するミステリーだとのことです。

     

ハートフルな一部

『二人目の私が夜歩く』は二部構成です。一部は昼で、二部が夜となっています。

昼の主人公は高校3年生の女の子・茜。近所の人にお話ボランティアに誘われ、病気などで寝たきりになっている人のところへ行って話し相手になることに。

そこにいたのは咲子という30歳ほどの女性。交通事故で首から下が全く動かせず、母とふたり暮らし。
茜と咲子はすぐに意気投合し、茜は咲子の元へ何度も通うようになります。

ある日、茜は苦手だった朝がより起きられなくなり、常に眠い状態が続きます。
親からは茜が夜中に着替えて玄関から出て行こうとしていたと言われるが本人は全く覚えていません。

そこで茜は眠っている時、咲子の人格が入ってきて動いているのではと仮説を立てます。
以前からしまったはずの洋服が外に出ていたり、学校のノートに「私はさき」という落書きがされていたりと、咲子の「動きたい」という思いが自分の中に入ってきたのでは、と思い当たる場面が多かったのです。

茜は寝る前にもうひとりの自分に手紙を書きます。
すると翌朝返事が。
そして咲子本人の元へ行き問い詰めると、予想が当たっていました。

ふたりは相談した末、夜の間は茜が咲子に体を貸すと決め、秘密を共有していくことになります。

二部では、昼の茜が寝た後、夜に何があったかが語られます。

二部はドロドロ?

読みどころは大矢さんによると、二部に入った瞬間だと言います。

大矢「二部は当然、茜が起きて寝て、咲子さんの番になる…その話が語られると思うでしょ?
それがね、第二部読み始めてすぐに『はあっ?』てなるんですよ!」

夜のことが語られますが、予想の斜め上を行くそうです。

茜は夜の咲子のためにいろいろと手を尽くします。
普段食べられない美味しいスイーツをわざわざとっておいたり、あまり音が鳴らない階段の踏み場所を教えたりと昼の間に準備をするような子です。

茜の人の良さが滲み出るハートフルな一部ですが、二部に入ると…。

大矢「昼は建前なら夜は本音」

昼はいい話、夜はその裏側という昼と夜の対比がお見事だということです。

知らない方がいい?

もうひとつの読みどころは「知らない方がいい?」。

一部では茜の視点で物語が進むため、登場人物たちは茜が持った印象で語られます。
しかし夜の話を読むと、昼間茜が見たままのことではなさそうだという意外な真実が明らかになっていきます。

茜にとっては昼が全て。
夜の話でわかった真実を、彼女は知るべきなのか知らない方がいいのか…考えてしまいます。

『二人目の私が夜歩く』はサプライズたっぷりの上質なミステリー。
一部と二部のギャップを味わってみてはいかがでしょうか?
(ランチョンマット先輩)