Anastasia Moloney

[20日 トムソン・ロイター財団] - 気候変動による「地球沸騰化」の時代を迎え、酷暑によって何万人もの死者が出るのを防ごうと、さまざまな都市で「最高酷暑責任者(CHO)」が奮闘している。

マイアミ、メルボルン、ダッカ、フリータウン、アテネで働く7人のCHO(偶然にも全員女性)は植樹、「涼みスポット」や水飲み場の設置に加え、酷暑が人体に及ぼす影響についての啓発活動に取り組んでいる。

CHOは米国のシンクタンクが3年前に編み出したが、科学者によると、この3年だけでも温暖化は「未知の領域」に進み、CHOの仕事は緊急性を増した。

熱波は今年、既にアジアの数カ国を襲っており、2022年の熱波で6万1000人の死者が出たとされる欧州でも、この夏は記録的な酷暑が予想されている。

オーストラリア・メルボルンの共同CHOであるクリスタ・ミルン氏は「他の国々と同様、オーストラリアでも暑さによる死者は他のどの自然災害よりも多い。だが、人々は酷暑が問題だと理解していないため備えができていない」と語る。

国際労働機関(ILO)が今年4月に公表した報告書によると、毎年1万9000人近くが、過度の暑さを原因とする労働災害で命を落としている。

「単純な事実として、一定の水準に達すると体温が下がらなくなるのだ」とミルン氏は言う。

<サイレントキラー>

CHOという役職を創設した米アドリアン・アーシト・ロックフェラー財団レジリエンス・センター(アーシト・ロック)は、2050年までに熱波が世界の35億人以上に影響を及ぼすと推計している。その半分は、都市中心部の人々だ。

昨年5月にアテネのCHOに任命されたエリサベト・バルジャンニ氏は「暑さは最も致命的な気候上の危険だ。サイレントキラーだ」と言う。

アテネ市は欧州で初めて、熱波をカテゴリー1からカテゴリー3までランク付けし、住民が屋内にとどまるべきか、屋外のスポーツイベントを中止すべきかなどを判断する際の基準とした。古代アクロポリスなどの観光地を一時閉鎖する必要があるかどうかの判断にも役立つ、とバルジャンニ氏は語る。

都市部はしばしば「ヒートアイランド」現象によって近隣の農村地域より気温が数度高くなり、夜間も気温が下がりにくい。

欧州連合(EU)の環境機関によると、欧州の都市にある学校や病院の半数近くが「ヒートアイランド」に位置している。

西アフリカ、シエラレオネの首都フリータウンでは、CHOのユージニア・カルグボ氏がアーシト・ロックと協力し、最大規模の3つの露天市場に日よけカバーを設置して約2300人の女性商人に日陰を提供するとともに、商品の日持ちがよくなるようにしている。

日よけカバーは低コストのうえにソーラーパネルも付いており、夜間は明かりが確保されるため、より長く買い物を楽しむことができる。

3月の熱波で気温が39度前後まで上昇したメルボルンでは、市政当局が年間3000本の植樹を目指している。森林地帯の回復力を高め、気温を4度下げるのが狙いだ。今後建築される建物には、規模に応じて一定の緑樹を設けるよう義務付ける計画も提案している。

<啓発の難しさ>

米国やアジアでも「涼みスポット」を設置する都市が増えている。

一部の都市では、最も日陰の多い徒歩ルートを表示するアプリを開発したり、酷暑地点を地図上に表示したりと、当局が最も脆弱な人々を守れるようにしている。

バングラデシュの首都ダッカは、緑地が少なく日陰の乏しい混雑した都市で、人々は蒸し暑い夏に慣れている。それだけに、酷暑のリスクを啓発するのは難しいとCHOのブシュラ・アフリーン氏は言う。

「暑さを乗り切るためには、ペースを落として休息し、水を飲み、日陰を探し、体調が悪いと感じたら仕事を中断する必要がある。貧困の中で暮らす人々にとっては、非常に難しい選択だ」と打ち明けた。

バングラデシュでは4月に気温が40度以上に達し、学校は休校を余儀なくされた。フィリピンとインドでも学校が閉鎖された。

アフリーン氏によると、5月後半には暑さへの意識向上キャンペーンが開始され、携帯扇風機や健康冊子などの「クールキット」が配布される予定だ。

また、市場やバスターミナルなどの公共スペースには水飲み場が設置され、数千本の果樹が植えられることになっている。

だが、アフリーン氏は今後も気温が上がり続け、自分の仕事は難しさを増す一方だろうと分かっている。「温室効果ガスを減らすための有意義な行動が採られるまで、気候変動に起因する酷暑は深刻化の一途をたどるだろう」と気を引き締めた。