プロボクシングのス―パーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)に早くも1階級上のフェザー級の世界王者から“挑戦状”が舞い込んだ。IBF世界フェザー級王者のルイス・アルベルト・ロペス(30、メキシコ)が自らの公式Xに投稿。ロペスのマネージャーは米専門サイト「ボクシング・シーン」の取材に対して「ロペスなら井上をノックアウトできる」と豪語した。井上は、しばらくスーパーバンタム級に留まる方針を示しているが、フェザー級の猛者達はモンスターの転級を心待ちにしている。

 ロペスは超攻撃な変則ハードパンチャー

 モンスターが東京ドームから発信した衝撃は世界の強豪ボクサーたちを刺激した。井上は6日のタイトル戦で、“悪童”ルイス・ネリ(メキシコ)に1ラウンドにダウンを奪われるものの、2、5、6ラウンドに計3度のダウンを奪い返して6ラウンドにキャンバスに沈めた。

 「内容的に満足いく、いい試合だった」と、井上自身が振り返るように、1ラウンドのミスを除けば、ほぼワンサイドの展開。米SNSでパウンド・フォー・パウンド論争なども起きたが、1階級上のフェザー級のIBF世界王者であるロペスが、Xに「ここで私は@naoyainoue_410が126(パウンド、フェザー級) まで上げてくるのを静かに待つ」と投稿。“挑戦状”ともとれるラブコールを送った。
ロペスは2015年にデビューし32戦30勝(17KO)2敗の戦績を持つ変則のハードパンチャー。2022年12月に敵地でIBF世界フェザー級王者のジョシュ・ウォリントン(英国)に挑戦してベルトを獲得し、この3月には阿部麗也(KG大和)をほぼ一方的な展開で8ラウンドに仕留めた。そのガードもしない超攻撃的スタイルは人気がある。
米専門サイト「ボクシング・シーン」も、この投稿に注目。

 「ロペスのチームは井上がフェザー級の転級してくるのは時間の問題だと考えている」とした上で、ロペスの共同マネージャーであるヘクター・フェルナンデス氏を取材し「ロペスは井上をノックアウトすると思う。私はロペスがこの戦いに勝つことに自分の家を賭けてもいい」という強気のコメントを引き出している。
同氏は「彼(ロペス)にとって、あの選手(井上)に勝つことはとても重要なことなんだ。彼と話をするときいつも『126ポンド(フェザー級)で誰が一番強いのか』と聞いてくるんだ」と付け加えた。
最強を求めるボクサーにとって井上は最大のターゲット。そして、ネリが挑戦者でありながら1億円以上のファイトマネーを稼いだように井上の挑戦を王者として受ける際に生じるビッグマネーが彼らにとって一番の魅力なのだ。
実は井上―ネリ戦の公式会見の後に取材対応したトップランク社のボブ・アラムCEOも、近い将来、対戦の可能性がある選手としてロペスの名前をあげていた。
「あらゆる選手に体格のリミットがあり、力を維持する力も決まってくる。井上にどういう未来が待ち受けているかは、この試合の結果を待ちたい。大橋会長と話したが、年内はスーパーバンタム級でいようという話がある。その後にもしかしたらロペスと対戦するようなことがあるかもしれない」

 アラムCEOの説明通り、スーパーバンタム級を適正階級と感じている井上は、しばらくここに留まり絶対的な強さを追求する考えですでに年内の防衛スケジュールも決まっている。
9月に都内の1万5000人規模の会場でIBF&WBOの同級1位である18戦無敗のサム・グッドマン(豪州)の挑戦を受け、12月には元WBA&IBF世界同級王者でWBAの指名挑戦権を持つムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との対戦が濃厚。ただ来年に関しては、まだ未定でスーパーバンタム級に井上のモチベーションを刺激するような挑戦者が現れなければ、フェザー級で日本人初の5階級制覇に挑戦する可能性も出てくるだろう。
フェザー級でKO劇を続けられるのかという議論はあるが、大橋秀行会長は「階級の壁だとか、パンチがどうだとかの話もあるが、十分に通用する。階級を上げた方がスピードは生きるしパンチも生きてくる」と断言。父で専属トレーナーの真吾氏も「あくまでもスパーだがライト級の選手を相手にしているので全然平気だと思う。スピードが生きるしフェザー級は十分に行けると思う」という意見だ。
ロペスは8月10日に元WBO世界スーパーバンタム級王者だったアンジェロ・レオ(米国)と防衛戦を行う予定が組まれている。かなりの難敵だが「ボクシング・シーン」は「もし防衛に成功すれば、2025年に井上との戦いの扉が開かれるかもしれない」と予測した。
フェザー級には4日に行われたスーパーミドル級の4団体統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)の前座カードで体重超過の挑戦者をボディショットで沈めたWBC世界同級暫定王者のブランドン・フィゲロア(米国)や、WBC世界スーパーバンタム級の王者時代に亀田和毅に勝利したWBC世界同級正規王者のレイ・バルガス(メキシコ)らの強豪がいる。またWBAは3月に王者になったばかりの無敗のレイモンド・フォード(米国)、WBOは井上との対戦を熱望していた五輪で2つの金メダルを獲得しているロペイシ・ラミレス(キューバ)を“番狂わせ”で破ったラファエル・エスピノサ(メキシコ)が王座に君臨している。もし井上がフェザー級に挑戦するとなると世界が注目する好カードが目白押しとなる。
果たして井上はどんなプランを思い描いているのだろうか。井上は“これから”について一夜明け会見で「(ネリ戦は)集大成ではなく今後のキャリアを加速する一戦。まだまだ熱い試合をしたい。期待してもらいたい」と語っている。