「注文に時間がかかるカフェ」で接客を体験する辻勇夢さん。当事者2人と店を切り盛りする=佐賀市

 言葉が滑らかに出ない吃音(きつおん)のある若者たちが接客を体験する「注文に時間がかかるカフェ(注カフェ)」が5日、長崎市で開かれる。佐賀大経済学部2年の辻勇夢(いさむ)さん(19)=長崎県諫早市出身=が、店員として初めて参加する。コミュニケーションを取る体験で自信をつけるとともに、吃音への理解の広がりにつなげる。

 取り組みは自身も吃音に苦しんだ奥村安莉沙さん(32)が発起人となって2021年8月から始まり、全国23カ所で行ってきた。辻さんは昨年8月に福岡市で開かれた注カフェに来店し、「自分と同じような学生が頑張る姿に感動した」。出身地で実施する願いを奥村さんに伝え、長崎県での開催が実現した。

 辻さんは物心がついたときから言葉が出なかったり、繰り返したりする症状がある。中学生の頃、吃音を隠すために話すことを避けていた。自己紹介や国語の授業で教科書を読むことなどへのストレスに悩まされ、ありのままの自分を出せない葛藤も抱えた。高校生になると、SNS(交流サイト)で当事者とつながるようになった。友人の支えもあって、部活動の仲間に吃音を打ち明けるなど前向きな気持ちが出てきた。

 吃音は言葉が出なくて間が空く、同じ音を繰り返す、音を伸ばす、など症状はさまざま。そのため、注カフェでは店員が望む対応をエプロンなどに明示する。辻さんは「『最後まで話を聞いてほしい』にするつもり」といい、「マニュアルに決められた言葉をどもらずに言えるか不安で、接客のアルバイトはこれまで避けてきた。でも行動して、自分の可能性を広げたい」と語る。

 奥村さんは、オーストラリアに留学したときに当事者の姿を見て励まされたことが活動を始めたきっかけになった。障害のある人らが店員を務めるカフェで働き、「言葉が出ない店員が身ぶり手ぶりで接客するのが自然に受け入れられていて感動した」。これまで注カフェで計160人の接客を見守ってきて、「いま、カフェに勤務している人もいる。吃音の理解が広がるよう全国に出張する形で実施している」と話す。

 長崎市での注カフェは、ウェブサイトで来店予約を受け付けている。定員30人で締め切る。具体的な開催場所は予約した人に伝える。(大田浩司)