今も世界で戦争が続き、この瞬間も暴力的に命が失われている。だからこそ、「人間に絶望してはいけない、というのが根源にあった」と岸谷五朗は言う。その思いを込めて書き上げた「儚(はかな)き光のラプソディ」が31日、大阪市北区のSkyシアターMBSで開幕する。岸谷と寺脇康文の演劇ユニット「地球ゴージャス」の30周年記念公演で、岸谷が信頼を置く中川大志らゲスト俳優たちとともにつくる会話劇。「人間ってすてきだろう」という願いにも似たメッセージを形にする。

2人がユニットを結成したのは平成6年。その名称を地球ゴージャスに決めたのは、翌年に起きた阪神大震災がきっかけだった。

寺脇は「地震が起きた後、役者として何ができるのか、役者というのは一番必要のない仕事なのか、と2人でがっくり落ち込みました」と振り返る。

それでも語り合ううちに、「衣食住がなんとかなったとき、最後に必要なのは心の栄養なんじゃないか」と思い至った。「地球の皆さんの心を豊かにゴージャスにしよう」。一見派手な名前に込められたのは、真摯な思いだ。

そんな地球ゴージャスだからこそ、歌ありダンスありのエンターテインメントらしさの中に、「世界で今起きていることを一緒に考えたいという思いがあった」と寺脇も力を込める。

今作では謎の白い部屋を舞台に、「逃げたい」という強い感情によって導かれた7人の男女が物語を織り上げていく。それぞれのキャラクターは、岸谷が「人間っていいな、と思わせてくれる気持ちのいいやつら」という俳優たちに合わせた当て書きだ。

初参加の中川は「大丈夫かな俺、できるかな…と思いながら、日々稽古のフェーズが進む。チームワークってこういうふうに出来上がっていくんだと体感できて、今すぐ稽古場に戻りたいくらい楽しい」と喜ぶ。

同じく初参加の鈴木福も「今作は劇場にいらっしゃる方々に寄り添うキャラクターがどこかにいると思う。共感して、(それを演じる)役者が入り込んでくる感覚を作り出せるように頑張ります」と話した。

10年ごとに出演し、3度目の参加となる風間俊介は地球ゴージャス作品の魅力を、「人間のはかなさとか切なさとか、楽しいだけではないものがしっかりある。それをダイレクトにぶつけるというよりも、そっと種を渡してくれる」と強調。「その種は皆さんの中にあるので、つらいときにはあのとき見たこの物語がきっと鼓舞してくれる。そう確信しています」と語った。

作・演出も務める岸谷は、「最高の役者が僕の手の中にいてくれるので、このメンツ、この塊でどう攻めていくかも武器ですね」と自信をにじませた。

6月9日まで。問い合わせはキョードーインフォメーション(0570-200-888)。(田中佐和)