「犯罪にまけてはならぬぞ」警察の防犯キャンペーンでこんな訴えをしていた10歳児が、10年後の凶悪事件でお縄になると誰が想像しただろうか。東京・上野で飲食チェーンを手広く手がける夫婦が殺され、栃木県那須町に火をつけられて遺棄されていた事件で、死体損壊容疑で新たに逮捕された元俳優の若山耀人容疑者(20)。耀めく将来が約束されていたはずの子役に何があったのか。謎めいた凶悪事件にさらに1ピースの疑問符が加わった。

かつては大手事務所“推し”の子役

事件に使用された凶器を手配し、乗用車を提供した平山綾拳容疑者(25)は若山容疑者について「渋谷のクラブで知り合い、飲み仲間になった」と供述している。

若山容疑者はかつては大手芸能事務所に所属し、仮面ライダーの子役などを経て、2014年にはNHKの大河ドラマ「軍師官兵衛」に出演。主人公・黒田官兵衛(岡田准一)の幼少期を演じた後、再び主人公の嫡男・万寿丸役で登場するなど間違いなく“推し”の子役だった。

同年3月2日には兵庫県姫路市の「ひめじの黒田官兵衛大河ドラマ館」前ステージで兵庫、大阪、京都3府県警が、車上ねらいや振り込め詐欺被害防止を訴える合同防犯キャンペーンを行い、若山容疑者もこれに参加した。

翌日の朝刊各紙の地方版には、若山容疑者がドラマの撮影秘話を披露したり、啓発グッズを来場者に配るなどしたという記事が掲載された。

また出身地の岐阜県美濃加茂市が同年に創設した「もっとみのかも夢大使」に他の4人とともに選ばれ、同月16日には藤井浩人市長から委嘱状を受け取り「もっと有名になって皆さんが美濃加茂に来てくれるようにアピールしていきたい」などと抱負を語っていた。

若山容疑者は、その後も片岡愛之助主演の花形歌舞伎でも重要な役どころを演じ、2015年制作の映画「ぼくが命をいただいた3日間」では主演に抜擢された。

都会育ちの小学6年生の少年が、父親の故郷の山村を初めて訪れ、祖父母や村の人たちとふれあい、伝統的な食文化から「食べる」「生きる」ことを学んでいく食育エンタテイメント作品で、父親役の高橋和彦、祖父役のでんでん、祖母役の松原智恵子などに混じって堂々と主役を張った。

2018年には福士蒼汰主演の映画「曇天に笑う」(本広克行監督)に3兄弟の末弟役で出演。初日舞台あいさつでは次兄役の中山優馬に「耀人は16年夏の撮影時から12~13センチぐらい身長が伸びた。次に会う時には身長が抜かれてると思うので、耀人の弟役をやりたい」にいじられる一幕もあった。

「人員整理をしようとしていた時期に自ら辞めていった」

15歳になった同年9月には、八千草薫の主演舞台「黄昏」に「ビリー」役で出演。批評家にも「これからの活躍が楽しみ」と絶賛され、岐阜県内の地元中学を卒業すると母親と共に上京。

だが、以降はめっきり露出が減った。そしてほどなくして事務所を解雇されたようだ。美濃加茂市商工観光課の担当者は取材にこう答えた。

「若山耀人さんを『もっとみのかも夢大使』に起用したのは、当市出身であることと、2014年の創設当時、大河ドラマ『軍師官兵衛』に出演し全国的にも有名だったことからPRにふさわしいという理由です。

当時の担当部長はもう在職しておらず、詳細はわかりませんが、夢大使の活動内容としては、SNSなどで告知していただいたり、テレビ出演の際になるべく美濃加茂市をアピールしていただくというものでした。

しかし、所属事務所より2021年2月16日に若山さんを解職した旨の連絡をいただき、夢大使も辞任していただきました。今朝から問い合わせが何件かあり、報道を見て驚いているところです」

同事務所が若山容疑者を「解職」した理由についてある芸能関係者はこう話す。

「子役ではよくあることですが、子どもの頃にいくら華があっても成長期になるとファンの期待との間にズレができてしまう。残酷ですが若山くんはまさにそのパターン。仕事もなかなかおもっていた役どころにハマらず、事務所も人員整理をしようとしていた時期に自ら辞めていったようです」

地元の知人には「決して干されて辞めさせられたわけではない」とも話していた若山容疑者だったが、久しぶりにマスコミから別の形で注目されてしまったのは逮捕された5月1日のことだ。

12時半ごろ移送のため大崎署を出た若山容疑者は終始うつむき、顔を隠すように警察車両に乗り込んでいた。手の甲には、自身の頭文字である「K」と書かれたタトゥーが残されていた。

芸能界をドロップアウトした若山容疑者が猟奇的な強行事件の犯行グループにどうやって加わり、どんな役回りを演じたのかはまだわからない。ここに夫婦殺害の計画を立てた「黒幕」がどう繋がるのか。栃木県警と警視庁の合同捜査本部の調べが進む。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班