「Hosh」こと豊昇龍関のパネルと。両国国技館にて
「Hosh」こと豊昇龍関のパネルと。両国国技館にて
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、相撲の海外での盛り上がりについて語る。

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各地で感じるインバウンドの波は、大相撲にも例外なく届いています。以前から、大相撲本場所の観客席には外国人の姿が多く見受けられましたが、熱意はその場の興奮にとどまっていた気がします。相撲の面白さに魅入られたとしても、個々の力士や決まり手を覚えたり、帰国後も競技として追う人はそこまでいなかったような印象でした。

が、最近は熱意の質が違う! 欧米での相撲の盛り上がりを肌で感じています。私はここ10年ほど、ほぼ毎場所足を運んでますが、数場所前から、やたらと詳しい訪日外国人に出くわすことが一気に増えました(市川盗み聞き調べ)。応援する力士のグッズを身に着ける人もいて、先日、宇良関のTシャツを着た女性とお話ししたところ、「カナダから観戦目的で来た」とのことでした。

入り口がNHKの国際放送やNetflixのドラマ『サンクチュアリ−聖域−』という方が多いようですが、やはりネットの力は偉大。NHKやABEMAで取組が生配信されており、英語で解説してくれるサイトも充実。相撲協会も英語のYouTubeチャンネル『SUMO PRIME TIME』を22年から開始したし、相撲を取り上げるほかのYouTubeチャンネルの多くは英語の字幕をつけてる。

英語圏の相撲ユーチューバーも増えましたね。技の解説をしているチャンネルや文化的な側面を紹介しているものがあれば、最近の相撲ニュースを取り上げているものも。番付予想や次の日の取組の予想動画などはつい見ちゃいますが、作り手の多くは英語コンテンツだけでなく、翻訳ソフトを通して日本語メディアもチェックしていて、相当力が入ってます。

SNSも盛り上がってます。個人的には、アメリカの『Reddit』という掲示板型サイトの「相撲板」がお気に入り。真面目なトピックスからくだらないものまで玉石混交ですが、相撲愛・力士愛が最高です。最近のお気に入りの投稿は、◯◯対◯◯ドリームマッチシリーズ。

「このふたりが対戦したらどんな展開になるだろう」という予想をひたすら語っており、過去の似た対戦のデータを基に大議論が繰り広げられます。議論の末、誰かが唐突に手作りの力士クッキーを投稿し、話題はクッキー力士のテーピングの箇所から見る、「クッキー力士が四つ相撲と突き押し相撲、どちらが得意なのか」へ。カオス。

独自の呼び名も印象的。豊昇龍関のニックネームは「Hosh」。前半の音節から取っただけですが、日本語ではなかなかない区切り方。翔猿関はファーストサマーウイカさん方式で「The Flying Monkey」。共通認識を示す「The」をわざわざつけているのがツボ。

横綱・照ノ富士関は「Big T」派と「Kaiju」派に二分されています。最近引退した照強は、肉を料理するパフォーマンスが一時期バズった塩振りおじさんのニックネームを借りて「Salt Bae」だったり、なんでもあり状態。もちろん、一部のファンが勝手に親しみを込めて呼んでるだけですが。

トホホなネット文化はさておき、アメリカ国内のアマチュア相撲団体も活気づいてます。次回に続く。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。Reddit内のふたつの「相撲板」の仲が悪いのも面白い。公式Instagram【@sayaichikawa.official】