パリ五輪出場が決まった瞬間、MF山本理仁(シント=トロイデン)は安堵した。

「良かったしかない(笑)。ホッとしています」

 勝てばパリ行きが確定する準決勝のイラク戦。延長戦の末に4−2で勝利した準々決勝のカタール戦で、山本は105分間、ピッチに立っていたこともあり、イラク戦は最後までベンチから戦況を見つめた。チームは2−0で勝利。歓喜の輪ができ、山本も喜びを噛み締めた。

 重圧があったのは容易に想像できる。8大会連続の五輪出場が懸かっており、日本サッカー界が紡いできた歴史があったからだ。ただ、山本はカタールとの準々決勝の方が、今までにないほどのプレッシャーがあったという。イラク戦の前に、こんなふうに話していた。

「この間のカタール戦は、本当に負けたらアウトだった。今まで感じたことがない重圧でしたし、緊張というよりも『負けたらどうしよう...』という不安があった」

 負けたら、チームは解散。パリ行きは完全消滅し、全ての道が閉ざされる。逆に準決勝は負けても“敗者復活”のルートがあり、3位決定戦で勝利すれば問題ないし、万が一にそこで敗れても、大陸間プレーオフで勝てばOKだ。

 だからこそ、準々決勝を前にナーバスになった。カタール戦の前は寝つけない状態が続いていたという。

「今まで7大会連続で出場している記録を、ここで僕らが潰すわけにいかなかった。韓国が準々決勝で敗退しましたけど、僕らが負けていたらゾッとする」
 
 実際に準々決勝は難しい展開となった。開始65秒でMF山田楓喜(京都)が先制点を奪ったが、前半のうちに追いつかれる。終了間際に相手GKが退場となり数的優位になったものの、後半早々にまさかの失点でリードを許した。日本は巻き返しを図ったが、思うように攻撃の形が作れない。

「僕らもピッチの中では、『まだ40分あるから落ち着いて』と声をかけていましたけど、そうは言っても焦る。本当に嫌な感じがしていた」とは山本の言葉。

 不穏な空気が流れ、試合中に山本は吐きそうになるぐらいの状況に陥っていた。それでも、67分にCB木村誠二(鳥栖)のゴールで同点に追いつく。殊勲弾は山本の右CKからだった。

「追いついたら、そこから先は時間の問題。そう思っていたから、めっちゃ嬉しかった」

 今まで見たことがないぐらいのガッツポーズで何度も両腕を振り、とびっきりの笑顔で仲間たちに抱き着いた。それほど追い込まれていたのだろう。

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 試合を振り出しに戻してからは、山本の読み通り。日本が延長戦で2ゴールを挙げてカタールを撃破した。簡単に言葉では言い表わせない経験をして、チームも山本自身もさらにタフになったのは間違いない。

 準決勝の前に行なった選手だけのミーティングでは、FW藤尾翔太(町田)から「カタール戦のような緊張感は、もう絶対に味わいたくないから負けたくない!」という言葉が発せられ、イラク戦を前にチームは一致団結。極度の緊張状態を一度体験したことで、準決勝は多少、気持ちにもゆとりが生まれたはずだ。

「カタール戦は全員がすごくプレッシャーを感じていて、本当に今まで感じたことがないものがあった。そういった意味では、負けてもまだ先がある準決勝は、ややプレッシャーが少なかったかもしれない」
 
 苦しんで、もぎ取ったパリ五輪への挑戦権。しかし、あくまで通過点に過ぎない。現地5月3日にアジア・ナンバーワンの座を懸けてウズベキスタンとの決勝戦があるし、パリ五輪本大会へ向けたメンバー争いもすでに始まっている。

「あとは気持ち良く決勝を戦って、勝って終わりたい」と笑顔を見せた山本。準々決勝の経験は、サッカー人生において何事にも代え難い財産になったはずだ。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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