2024年5月10日(金)〜5月19日(日)にKAAT神奈川芸術劇場<大スタジオ>にて上演される、Stage Reading『A Bright New Boise』の稽古場オフィシャルレポートが到着した。

『A Bright New Boise』は、2011年にオビー賞最優秀脚本賞を受賞した、アメリカの劇作家サミュエル・D・ハンター初期の作品。本公演では、5名の登場人物を総勢20名の豪華日替わりキャストによるリーディング形式で日本で初めて上演する。

あらすじ
手つかずの雄大な自然が広がる、アメリカ西部アイダホ州。
ウィルは生まれ育ったカー・ダレーンを離れ、心機一転、州都ボイシーでの生活を始めた。
大手スーパーマーケットチェーン店“ホビー・ロビー”に再就職したウィルであったが、同僚には利益の追求に固執する店長のポーリーン、ロマンチストでどこか不器用なアンナ、独特のアート志向を持つ大学生のリロイ、内向的で他者との関わりを避ける少年アレックスがいた。
ある日、ウィルが抱えていた過去の出来事が明るみになり、従業員たちの歯車が徐々にずれ始めていく……

アメリカ西部の長閑な街を舞台にした、リアルな人間模様を描く口語劇。
開幕を直前に控える5月上旬、都内の稽古場にて通し稽古が行われた。
本公演は総勢20名の日替わりキャストとなるため、稽古も日替わりで実施されている。
本日は以下のキャストの稽古が行われた。

ウィル片桐 仁
ポーリーン西尾まり
アンナ藤谷理子
リロイ荒木健太郎
アレックス井阪郁巳

キャストが稽古場に集まると、すぐに和気藹々とした雑談が始まった。カンパニーの雰囲気の良さが伝わってくる。稽古開始時刻になると演出家の下平慶祐が席につき、「楽しんでやってみましょう」と一言伝えただけで、すぐにキャストは通し稽古のスタンバイに入った。いつものやり取りなのかもしれないが、これまで稽古を通して築いてきた俳優との信頼関係を強く感じた。

客入れ状態から俳優たちが舞台上に姿を現し、リラックスした様子でそれぞれの場所で時を過ごしている。
定刻になると、片桐仁が演じるウィルの表情がすっと変わり、彼が口を開くとそれは物語の幕開けを告げた。


舞台となるのはアイダホ州の州都ボイシーにある、スーパーマーケット“ボビー・ロビー”のバックヤード。これはアメリカに実在する大手チェーン店だ。
心機一転、ボイシーに引っ越してきたウィルが、“ボビー・ロビー”に再就職するところから物語は始まる。

冒頭は、店長のポーリーン(西尾まり)が、新人アルバイトとしてやって来たウィル(片桐仁)の面接をするシーンから始まった。
訥々と語るウィルと、お構いなしに一方的に捲し立てるポーリーンのちぐはぐな会話がどこかおかしく見える。
名実ともに実力派俳優の片桐と西尾が作り上げる軽妙な空気感に、冒頭から目が離せない。
そこから次々と、従業員たちが出勤してくる。


アルバイトの高校生アレックス(井阪郁巳)は、ヘッドホンで耳を塞ぎ、どこか人との関わりを恐れている印象だ。華やかな2.5次元舞台の作品を中心に活躍する井阪が演じる、アレックスの繊細な心の機微を表現する芝居は必見だ。


アンナ(藤谷理子)が登場すると、バックヤードはパッと明るい雰囲気となった。
藤谷の愛嬌たっぷりな芝居が、屈託のないアンナというキャラクターを一層魅力的にさせている。

アレックスの義理の兄であるリロイ(荒木健太郎)は、個性的で突飛な行動をとっている様に見えるが、自分の中に確かな芯を持っており、行動原理は至ってシンプルなのかもしれない。翻訳作品の経験も豊富な荒木の好演が光る。

平穏なスーパーで働く従業員たちであったが、ウィルが“ホビー・ロビー”で働くことを決めたもう一つの理由、そしてある過去の出来事が明るみになり、次第に一筋縄ではいかない展開となっていく。
物語が進むにつれて、従業員たちが抱えている悩みや問題にそれぞれが直面することとなり、バックヤードに飛び交う生々しい言葉の数々が重くのしかかってくる。
彼らにとっての「輝く新しいボイシー(Bright New Boise)」とは何のか、観客の想像に委ねたラストも心地よかった。
ハンターの隙のない戯曲、耳障りの良い日本語台詞で洗練された下平の翻訳にも注目したい。

スーパーのバックヤードという小さなコミュニティの中で、理想と現実とのギャップを抱える従業員たちは、昨日より少しでも良い一日になるように、必死に日々を過ごしている。それは私たちも抱えている些細な悩みや問題であり、アメリカ西部のアイダホ州という遠い異国の物語も、私たちの日常に置き換えて容易に想像することができる。
彼らのひたむきな姿は、私たちにとってもきっと身近な物語として寄り添ってくれるだろう。


通し稽古を終えて、演出家の下平からは、「それぞれがボイシーという町で、どう生きていこうとしているかというのが、とても感じられて素晴らしい通し稽古でした」と称賛の声が上がった。
その後は細いチェックが始まり、シーンの返し稽古が始まった。ここから本番に向けて、さらにブラッシュアップしていくのだろう。
欲を言えば、別のキャストの組み合わせも一層観たくなる濃密な内容であった。
通し稽古を終えて、各キャストからの感想を伺った。

ウィル/片桐 仁

通し稽古が中心の稽古だったので、毎回新しい発見がありましたね。他のチームを全く見れていないので、自分が演じるウィルをどう演じているのか気になっていますが…。
稽古を重ねるごとに、このチームでやるというのがとても楽しいです。本番は毎公演、新鮮な気持ちで臨みたいです。

ポーリーン/西尾まり

相変わらず楽しい通し稽古でした。やる度に発見があり、もっと稽古したいなという気持ちです!これで他のメンバーの方と会わずに終わるというのが不思議な気分ですね。劇場に入ってから稽古場で作ってきたものがどういう形になるのか、とても楽しみです!

アンナ/藤谷理子

キャストが変わると本当にお芝居も変わってくるので、相手役の方のお芝居をしっかり感じながら必死に食らいついてました。戯曲の素晴らしさを最大限に活かし、それぞれのキャストの魅力もしっかり引き出す下平さんの演出も必見です!もう全部の組み合わせを観て欲しいので、ぜひ楽しみにしていてください!!

リロイ/荒木健太郎

稽古場では日々キャストが変わるのですが、慣れないのをあえて楽しむことができました。個人的な話ではありますが、NYで観劇したこの作品を、日本で素晴らしいキャストの皆様と上演できることを嬉しく思います。ぜひ楽しみにしていてください。

アレックス/井阪郁巳

すごいエネルギーを使いました。リーディングではありますが、しっかりコミュニケーションをとるのでとても集中力を使います。徐々にアレックスというキャラクターとの距離感を詰められているという手応えがありますので、本番に向けてさらに深めていきたいと思います。ぜひ観にいらしてください