4月28日に全20日間の日程を終えた大相撲春巡業。花相撲の催しとして行われる「相撲甚句」のメンバーに、今回の巡業から蒼富士(20=伊勢ケ浜部屋)が加わった。

 蒼富士は、幕内・熱海富士(21)の元付け人。熱海富士が勝って引き上げる花道でグータッチを交わす場面がよくテレビ中継で映されており、その愛嬌のある姿が話題になっていた。しかし、序二段上位で臨んだ昨年秋場所9日目の取組中に左膝を負傷。前十字靱帯断裂、内側側副靱帯断裂、半月板損傷、外側側副靱帯損傷で全治1年と言われるほどの大ケガだった。2度の手術や半年間に及ぶリハビリを経て現在は日常生活に支障がないほどに回復。春巡業は、横綱・照ノ富士(32)の付け人として同行した。

 実戦稽古はまだ再開できないが、今月からようやく四股が踏めるようになった。巡業の稽古中は土俵回りで四股を踏むなど、復帰を目指してできる範囲での稽古に努めた。そして12日の川越場所から相撲甚句デビュー。もともと歌がうまく角界屈指の美声の持ち主であったため、部屋の兄弟子らから若者頭を通して推薦され“メンバー入り”した。

 20日の横浜アリーナ場所では、約7500人の大観衆の前で美声を披露。観客席には、ファンに交じって手を振りながら“応援”する熱海富士の姿もあった。巡業としては最大規模の施設で大型ビジョンも設置されており、会場の雰囲気はコンサートさながら。自身の化粧まわしを締めて土俵で歌うかつての付け人を見守った熱海富士は「一丁前に横浜アリーナで歌ってましたね」と笑顔を見せた。蒼富士の休場中も「あいつがいないと何もできない」「あいつも前向きに頑張っている」などと常に気にかけていた兄弟子は「やっと帰ってきてくれてよかった」と復帰を喜んだ。

 蒼富士は昨年秋場所途中から休場が続いており、今年の春場所からは番付外に転落。万全に治して名古屋場所の前相撲で復帰することを目指している。身長1メートル66、体重96キロだった小兵は、リハビリ期間中に上半身を徹底的に鍛え上げて約20キロ増量した。復帰後の最初の目標は「序ノ口優勝したい」「早く熱海関の付け人に戻りたい」。熱海富士が幕内で2場所連続優勝争いに絡んだ昨年の秋場所後半と翌九州場所は付け人を務めることができず、テレビ越しに活躍を見届けていた。互いを信頼し合う“名コンビ”の復活を、多くのファンは待ち望んでいる。