2年連続最下位だった日本ハムが、今季は開幕から快調に飛ばしている。5連勝あり、8カード連続初戦白星あり、そして新庄剛志監督となって最大となる貯金5など、これまでとは明らかに違う結果を残している。はたして、この強さは本物なのか? かつて日本ハムの捕手兼任コーチを務め、現在は解説者としてファイターズの試合を見る鶴岡慎也氏に分析してもらった。(成績は4月30日現在)


開幕から好調を続けている日本ハム・新庄剛志監督 photo by Sankei Visual

【快進撃の立役者は先発投手陣】

── 新庄監督就任以来、初の貯金。ペナントレース前の下馬評をいい意味で覆しています。

鶴岡 日本ハム好調の最大の要因は、先発ローテーション投手が試合をつくっているということです。日本ハムは試合日程の関係で、最初の6カードは6連戦がありませんでした。先発ローテーションはだいたい6人で回すものですが、5人で回せた。そのことで余裕を持って試合に臨めたことが大きかったですね。

── まずは開幕戦白星スタートでした。

鶴岡 昨年秋のファン感謝デーで、2024年の開幕投手に指名された伊藤大海が期待どおりの快投でチームに勢いをもたらしました。いい緊張感を持って、オフを過ごしたのでしょうね。それに引っ張られるかのように、山﨑福也が次のカードの初戦に投げて、しっかりゲームメイクできています。

── 鶴岡さんは開幕前から日本ハムを高く評価されていましたが、そのとおりの展開になっています。

鶴岡 開幕直前は先発5人目の位置づけだった北山亘基が、4月20日のロッテ戦で完封勝利をマークしました。若くてイキのいい投手が出てくると、ほかの先発陣も刺激を受けます。翌21日のロッテ戦では、加藤貴之が完封勝利で続きました。「野球は先発投手が大事」ということを再認識させられましたね。

── 4月12日と4月29日のオリックス戦では、継投で完封勝利。投手陣の充実ぶりがうかがえます。

鶴岡 12日の試合は、先発の伊藤から左の河野竜生、右の金村尚真、抑えの田中正義へとつなぎました。29日は、北山、パトリック・マーフィー、田中とつないで1対0で勝利。1点差で勝てるということは、チームが安定している証拠です。昨年ブレイクした田中は、今年も好調を維持しています。

── 投手陣は万全ですね。

鶴岡 3、4月は、金村が8回を投げて"勝つ形"ができていたのですが、5月3日から6連戦が始まるので、この金村が先発ローテーションに組み込まれることになりました。開幕からリリーフの金村がカギを握ると予想していたのですが、先発に回ってもキーマンになるのではないでしょうか。

【本当の意味で戦う集団になった】

── 打撃陣はどうですか?

鶴岡 投手陣が踏ん張っているうちに、打撃陣も点を取ろうというリズムが生まれています。昨年は1点差ゲームが17勝31敗だったのですが、今年はこれまで7勝1敗です。まだ5点以上取った試合がなく、トータルで得点より失点のほうが多いですが、「勝つために次の1点をどう取るか」という明確な目標のもと、効率のいい攻撃ができています。

── 今年のオーダーを見て、感じたことはありますか。

鶴岡 アリエル・マルティネスは打率こそ高くない(.250)ですが、チャンスでよく打ち、4番に定着しています。相手が右投手、左投手によって打線を組み替えていますが、軸になる選手は中心に据えている印象ですね。昨年はシーズン143試合で打順141通りと、新庄監督がいろいろと試して、適材適所を見極めました。今年は監督のなかで、方針を決めてやっているなという印象を受けます。

── リードオフマンとして期待の高かった新外国人のアンドリュー・スティーブンソンは思うような結果を残せず、現在は二軍で調整中です。

鶴岡 日本の投手は苦手な箇所を徹底的に突いてくるのですが、スティーブンソンはそれを意識しすぎて打てる球まで打てなくなっています。今はリセットの意味で、ファーム調整させていると思います。ただ、ファームで好成績を残しているので、いいタイミングで昇格するでしょう。

── 開幕スタメンを勝ち取った高卒6年目の田宮裕涼選手が5番に抜擢されるなどいい働きをしています。

鶴岡 チャンスに強いですし、少しでも多く打席を回してあげたい選手です。1番で起用されることもありましたが、打席が終わってすぐ守備というのは捕手としては負担が大きい。そういうことも考慮して、5番で起用したりしているのだと思います。

── 昨年までの日本ハムは、二遊間がひとつの課題でした。

鶴岡 ショートは、水野達稀でほぼ固定されています。二塁に関しては、昨年は消去法によって起用されることが多かったと思うのですが、今年は使った選手がしっかり結果を出す。それによって競争意識が芽生え、チームが活性化されている印象です。

── ケガで出遅れていた清宮幸太郎選手もようやく復帰しました。

鶴岡 清宮と野村佑希は、一塁か三塁を守る長距離打者という似たようなタイプです。左打ちと右打ちの違いはありますが、チーム編成上、好調なほうをラインナップに組み込むことになるでしょう。そういう意味で、選手層は確実に厚くなっています。調子が上がるのを待つというより、勝利に貢献できる選手を使う。本当の意味で「戦う集団」になってきました。

【いい状態で一軍と二軍が連動している】

── 4月を終えて2位と、いいスタートが切れました。第一関門は突破したと考えていいでしょうか。

鶴岡 日程的に6連戦がない4月にいいスタートを切らないと、それ以降が厳しくなるだろうと予想していました。貯金も新庄監督就任以来、最大を記録し、過去2年とはまったく違います。「ものすごく嫌なチームになったな」「強いな」と、ほかのチームの選手が一番実感しているのではないでしょうか。

── 昨年は戦略的にスクイズが多かったように見受けられましたが、今年はどんな印象がありますか。

鶴岡 今年はそんなに多くないですね。もう選手に任せるという感じがあります。

── 先程も名前が出てきた田宮選手の台頭で、FA移籍2年目の伏見寅威選手に変化はありますか。

鶴岡 同じくオリックスから移籍してきた山﨑(福也)とバッテリーを組んで、好リードで持ち味を引き出しています。伏見にも意地があると思いますし、田宮にとっても体を休められる一方で、自分が出ていないときにチームが勝つことで、「負けられない」という意識が生まれる。ものすごく好循環です。田宮はプロ6年目ですが、体力がかなりついてきました。なんとかシーズンを乗り切ってほしいですね。

── ほかに楽しみな選手はいますか。

鶴岡 打線の軸を担う首位打者経験者の松本剛、昨年25本塁打の万波中正は、今後どこかで大爆発してくれると思います。あと、育成ドラフト1位から支配下登録された3年目の福島蓮は楽しみです。身長190センチから投げ下ろす大型右腕で、貴重な戦力になってくれるはずです。

── 今後の展開をどう予想しますか。

鶴岡 今年はソフトバンク打線が活発ですね。このソフトバンクを軸に、優勝争いが展開してくでしょう。ただ、どのチームも実力は拮抗しているので、オールスター明け、8月まではなんとか5割を目指して、そこからが勝負でしょう。

── 思えば2021年は、ヤクルトもオリックスも2年連続最下位から優勝を果たしました。

鶴岡 日本ハムは、ファームもイースタンリーグで首位を走っています。それだけファームにもいい選手がいるということで、好調な選手を一軍に昇格させられます。いい状態で一軍と二軍が連動していると言えるでしょう。ペナントレースはまだ始まったばかりですが、今年はなんとかAクラス、あわよくば......楽しみです。


鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代に2度甲子園出場。三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2002年ドラフト8巡目で日本ハムに入団。2005年に一軍入りを果たすと、その後、4度のリーグ優勝に貢献。2014年にFAでソフトバンクに移籍。2014、15年と連続日本一を達成。2017年オフに再取得したFAで日本ハムに復帰。2021年オフに日本ハムを退団し、現在は解説者として活躍中

著者:水道博●文 text by Suido Hiroshi