これまで大谷に2与死球も1安打、3奪三振と抑えているモートン(左) photo by AP/AFLO

ロサンゼルス・ドジャースが5月3日(日本時間4日)から本拠地にて3連戦を戦うのは、ナ・リーグのライバルとなるアトランタ・ブレーブス。エースが戦線離脱するなかでもメジャートップの勝率を誇っているブレーブスだが、その投手陣の現状とは。

ドジャースの好敵手・ブレーブス戦力分析「投手編」

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【エース離脱もふたりのベテランが奮闘】

 野球の勝利の方程式は、日本でもアメリカでも変わらない。強力な先発投手陣がいて、それを鉄壁の守備陣が支える。そして打撃陣に求められるのは適時打だ。ここまでナ・リーグの優勝候補、アトランタ・ブレーブスは20勝9敗とメジャートップの成績で、概ね方程式どおりにプレーできている。

 まず先発投手陣。エースのスペンサー・ストライダーがヒジの手術を受け、4月13日にフルシーズンの戦線離脱が発表された。ロサンゼルス・ドジャースでいえば、タイラー・グラスノー(現在5勝1敗)を失うようなものだ。しかし今はエースの不在を感じさせない。オフに「獲得はギャンブル」と批評されたふたりの投手が活躍しているからだ。

 ひとりは左腕のクリス・セール(35歳)で、5月1日のシアトル・マリナーズ戦に先発し5回、6安打9奪三振1失点の好投で今季4勝1敗となった。この日、最速の直球は96.4マイル(154km)、全部で21個の空振りを奪った。

 セールはサイドスローに近いスリークォーターから角度のある直球と大きく曲がるスライダーを武器に、2017年にはシーズン308三振を奪うなど、メジャーで最も打ちにくい左腕のひとりだった。しかし2019年にヒジを痛め、2020年に肘側副靭帯再建術(通称トミージョン手術)を受け、以後はシーズンを通して投げたことが一度もない。年齢もあって、以前のような投手には戻れないと思われていたが、ブレーブスのアレックス・アンソポーラス編成本部長は内野手の若手有望株との交換トレードでセールを獲得。フルシーズン投げられなくても、10月のポストシーズンで大谷翔平やブライス・ハーパー(フィラデルフィア・フィリーズ)のような左の強打者封じに使えると考えたからだ。ところが4月から好調。特にマリナーズ戦の前の3試合はすべて7イニングを投げきっている。

 もうひとりのレイナルド・ロペス(30歳)は、2022、2023年はリリーフ投手で、昨季はロサンゼルス・エンゼルスにも在籍していた。ところがブレーブスは、3年総額3000万ドル(約46億5000万円、1ドル=155円換算)を払って先発投手としてロペスと契約した。直球もスライダーも威力があり、元は先発投手だったから、十分に務まると判断したのだ。

 そして、その見立ては正しかった。ここまで5試合、30イニングを投げ、2勝1敗、防御率1.50の好成績。全投球の57.7%を占める直球は威力があり、スライダー、カーブ、チェンジアップで空振りを奪う。被打率は.190で、長打は本塁打2本、二塁打5本しか許していない。リリーフから先発投手に戻したことで、首脳陣は注意深く起用しており、中6日か中7日を空けて登板させている。

 もっともこのふたりはローテーションのめぐり合わせで、5月3日(日本時間4日)からのドジャースとのシリーズでは投げない。登板するのは以前からブレーブスにいる投手たちだ。

【先発予定投手の特徴とvs.大谷翔平の実績】


カーブが武器の40歳・モートン photo by AP/AFLO

 まず第1戦の先発予定は、チャーリー・モートン(40歳)。実は大谷翔平に2度死球をぶつけているメジャーで唯一の投手だ。モートンの決め球はカーブで、縦に大きく落下するだけでなく、横にも大きく曲がるのが特徴。2022年のカーブは平均で51.1インチ(129.8cm)落ちて、15.5インチ(39.3cm)横に曲がっていた。横の曲がり幅がメジャー平均より5.2インチ(約13.2cm)大きかった。

 大谷との対戦では2022年7月22日のロサンゼルス・エンゼルス戦、5回の第3打席、カウントは1−2。大谷はその前の内角カーブを右翼線にファールにしており、再びインコース低目に来たカーブをぎりぎりでボールと判断してバットを止めたのだが、さらに大きく曲がってきた球をよけきれず、左足に当ててしまった。この試合、大谷は二刀流での出場だったが、運良くピッチングには影響がなく、そのまま続投している。

 次の対戦は1年後の2023年7月31日、第1打席、0−2と追い込まれた3球目、インコースのカーブを再びボールと判断し見逃したのだが、また同じ左足に当ててしまい、1年越しの2打席連続死球。大谷も苦笑いだった。ちなみにモートンは2013、2014、2017、2018年にリーグで最も多く死球を与えた投手で、特に2014年は19回もぶつけている。モートンは今季も全投球の42.5%がカーブの投手だから、用心しないといけない。

 大谷との通算成績は10打席で、7打数1安打3三振。三振はカーブで1度、フォーシームで2度。唯一のヒットは高め直球を右前打としている。

 第2戦に先発予定のブライス・エルダー(24歳)は、シンカーとフォーシームは90マイル(144キロ)前後、スライダー、チャンジアップ、カーブなど5つの球種をコーナーにテンポ良く投げ分け、打たせて取るタイプだ。

 2022年にメジャーデビュー、2023年は31試合に先発して、12勝4敗、防御率3.81でオールスターに選ばれた。しかしながら後半は防御率5.11と成績を落としていたため、春のキャンプでローテーションの座は確約されず、開幕は3Aで迎えた。しかしながらエースのストライダーが今季絶望となったため、ローテーションに加えられた。初登板、4月22日のフロリダ・マーリンズ戦は7回途中まで投げ、8安打を許すも、要所を抑え無失点。28日のガーディアンズ戦は、6回途中まで4安打2失点でゲームを作り、勝利に貢献した。空振り率が高い球種はスライダー。大谷とは初めての対戦になる。

 第3戦は左腕マックス・フリード(30歳)。2019年から2022年までエースとしてチームをけん引、2021年に世界一になったシーズンも公式戦は14勝7敗、防御率3.04。ポストシーズンも5試合に先発し、世界一を決めたワールドシリーズ第6戦は6回4安打無失点で勝ち投手になった。今季は序盤不振だったが、4月23日のマーリンズ戦では92球で3安打完封。100球未満での完封は殿堂入りの名投手グレッグ・マダックスにちなんで「マダックス」と呼ばれるが、フリードはキャリア3度目の「マダックス」を達成した。29日のマリナーズ戦も6回無安打無失点7奪三振の好投。フォーシーム、カーブ、チェンジアップ、シンカーを投げ分ける。ナ・リーグを代表するサウスポーも、実は大谷とは初対決となる。

【打たせて取る型のブレーブス】

 ドジャースとブレーブス、どちらの先発投手陣がより優秀で、特徴はどう違うのか。

 4月30日(日本時間5月1日)までのデータで比較すると防御率はドジャースが3.62(全体8位)ブレーブスが3.63(同9位)でほぼ同じ。先発の投げる平均回数はブレーブスが5.67イニングでドジャースが4.82イニング。球数はブレーブスが87.9球、ドジャースが78.8球。ブレーブスの先発投手のほうが長く投げている。

 9回あたりの三振奪取数はドジャースが9.1個でブレーブスの8.05個を上回る。9回あたりの与四球数はブレーブスが3.01個でドジャースの3.73個より少ない。ゴロを打たせる投手が多いのはブレーブスでゴロアウトの数をフライアウトの数で割った数値は1.57(30球団で1位)、奪った併殺の数は18個だ。ドジャースはフライアウトのほうが多く0.85(18位)で併殺は11個だ。

 これらのデータから明らかなのは、ドジャースのほうが三振を取るタイプの先発投手が多いこと。対照的にブレーブスの方は、打たせて取る。打たせて取る場合は、言うまでもなく野手の守備力がとても重要になってくる。

著者:奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki