"守備の要"として重視される二遊間。各チームの名手がセカンドとショートに入ることが多いが、そのなかでも注目すべきコンビとは。

 長らく大洋(現DeNA)の中心選手として活躍し、1983年に二塁手部門でダイヤモンドグラブ賞(現ゴールデン・グラブ賞)を獲得した高木豊氏に、セ・リーグとパ・リーグで高く評価する二遊間について語ってもらった。


高木氏が注目する中日の田中幹也 photo by Sankei Visual

【菊池、中野よりも動きが「1段階上」のセカンド】

――現在、注目している二遊間コンビはいますか?

高木豊(以下:高木) 二遊間のコンビを語る前に最初に挙げたいのが、中日のセカンド・田中幹也です。とにかく反射神経がよくて守備範囲が広いですし、前後左右どの方向にも俊敏に動けます。前への動きは得意だけど、後ろへの動きが苦手な選手、右への動きは得意だけど、左への動きが苦手な選手などはけっこういるのですが、まんべんなく動ける選手はそうそういません。

――2年目でブレイクした田中選手ですが、球際についてはいかがですか?

高木 強いですね。足がよく動いて"足でボールを捕りにいく"ので、しっかりとボールをグラブに収められます。上半身が主導だったり、ハンドリング任せで捕ろうとするとファンブルやジャッグルにつながりますが、彼は足がよく動くので、ボールを無理なく捕れる位置にしっかり入れるんです。ゴールデン・グラブ賞を獲れる能力があると思います。

――セカンドには"名手"の菊池涼介選手(広島)や、昨季に同賞を受賞した中野拓夢選手(阪神)もいますが、そんな選手たちにも引けを取らない?

高木 むしろ、田中のほうが動きのレベルは1段階上です。菊池の若い頃のような感じですね。菊池は歳を重ねるにつれて反射神経が徐々に鈍くなり、守備範囲が少し落ちていると感じますが、田中は菊池の若い頃を彷彿とさせるんです。

――その田中選手と二遊間を組む中日のショートは、村松開人選手、山本泰寛選手、クリスチャン・ロドリゲス選手らが務めてきましたが、コンビを組む相手として適していると思う選手は?

高木 最近はサードを守ることが多いですが、僕は(オルランド・)カリステがいいと思います。たとえば、村松は田中のスピードについていけていない印象ですが、カリステは田中のスピードに合うんじゃないかと。セカンドとショートはどちらかの動きが遅いのはよくないですし、両方とも遅いと話になりませんが、やはりスピード感が合う二遊間のほうがいい。

 かつて、中日には"アライバ(セカンド・荒木雅博とショート・井端弘和)"が「球史に残る二遊間」と称賛されていましたが、彼らはお互いのスピードが合っていた。もっと昔で言えば、西武のセカンド・辻発彦さんとショート・石毛宏典さんのコンビもそうでしたね。

――確かに、カリステ選手はショートも守れますね。

高木 昨季はショートを守っていて、ダイナミックな動きとスピード感は魅力です。ケガで離脱中の高橋周平がサードで復帰するとして、カリステをショートで起用して田中と組ませたら、いい二遊間になりますよ。あくまで僕の勝手な構想ですが。

【セ・リーグで一番安定しているコンビは?】

――中日の二遊間コンビはこれから精度を高めていくと思いますが、現時点で完成度が高いコンビを挙げるとしたら?

高木 コンビネーションをはじめ、それぞれの守備範囲や肩の強さなど総合的な力を考えると、安定感では巨人のセカンド・吉川尚輝とショート・門脇誠がセ・リーグのなかで一番じゃないでしょうか。お互いのスピード感と技術が合っていると思います。

 ただ、門脇の動きは昨季のほうがよかったですね。

――そう思われる理由は?

高木 今季は、レギュラーとしての責任感を背負って試合に臨んでいるはずです。それで「エラーはできない」「しっかり守らなきゃいけない」という意識が強いからか、動きが少し硬いように感じます。

 昨季は「ルーキーだから、エラーしても仕方がない」というように、居直って取り組める部分があったと思いますが、今季は責任がある。その責任と戦っている感じがします。そこまでパフォーマンスが落ちているかというと、そうではないですけどね。うまさは健在ですよ。

――吉川選手はいかがですか?

高木 守備に関しては安定していますね。球際に強くて守備範囲も広いですし、まったく問題ないと思います。

 セ・リーグでは、吉川・門脇のコンビの次にいいのは阪神のセカンド・中野とショート・木浪聖也でしょう。やはり安定していますし、お互いのスピード感も合っています。

――広島では守備の評価が高い矢野雅哉選手がショートに入り、菊池選手と二遊間を組む試合がありますが、そのコンビはいかがですか?

高木 ふたりともボールを捕る、投げるという部分で、個人的な能力はものすごく高いです。動きが忍者のようですし、ダイナミックで見ていて楽しいですよ。矢野は「えっ、そこから投げてアウトにしちゃうの?」と驚くほどの守備範囲と強肩を持っていますしね。

 ただ、派手さが先行していて、コンビとしての堅実さという観点で見ると多少の不安があります。「お互いに動きでカバーしてやろう」みたいなことではなく、コンビとして流れるようにやってくれるといいかなと。

【源田と今宮。名手ふたりの違い】

――一方、パ・リーグで高く評価している二遊間コンビは?

高木 ソフトバンクのセカンド・牧原大成とショート・今宮健太は、悪くないコンビだと思います。牧原が右脇腹を痛めて離脱してしまいましたが、安定していましたよね。牧原はシーズンによっては外野を守ったりと、チーム事情で守備位置がコロコロ変わって大変だと思うのですが、打球への反応がいいですし、球際にも強い。牧原が復帰したあとにまた二遊間を組むと思いますが、試合を重ねるにつれてコンビの成熟度は高まっていくでしょう。

 パ・リーグで言うと、西武のセカンド・外崎修汰とショート・源田壮亮も息が合ったコンビです。源田の守備がうまいのはもちろん、外崎の守備範囲が広くて球際も強い。この二遊間が後ろに控えているとピッチャーは心強いでしょうね。ただ、これは完全に僕の好みなのですが、ショートの守備なら今宮が一番じゃないかなと。

――その理由は?

高木 当然、源田もうまいです。特長である流れるようなプレーは、確かにやらなきゃいけない場面もあるのですが、僕は守備に関して"キメ"がないと嫌なんです。今宮は基本により忠実で、ボールを捕る時も股を割って捕球し、しっかりステップを踏んで投げる。

 一方で、源田はボールを投げる動作がしやすい位置でボールを捕るので、動きが流れるように見えるんです。捕ってからの動作が速いですし、総合的に考えれば源田のほうがうまいと言えるのかもしれませんが、僕は今宮のボールへの入り方、ステップの踏み方、送球の仕方が「好き」なんです。今宮の動作もきれいに流れてはいるのですが、ひとつひとつの動作にトッ、トッ、トッというキメがある。先ほども言いましたが、より基本に忠実に守っているのが今宮だと思います。

 リーグも違いますし、実現は難しいと思いますが、個人的にはセカンド・田中、ショート・今宮の二遊間コンビを一度見てみたいですね。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。

著者:浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo