アジアチャンピオンズリーグ(ACL)決勝。横浜国際日産スタジアムで行なわれた第1戦を2−1の勝利で折り返した時、横浜F・マリノスの優勝を予想した人はどれほどいただろうか。次戦は苦戦必至と予想した人のほうが多数派だったと思われる。

 アルアインで行なわれた第2戦。予想は的中する。開始8分。横浜FMのさ最終ラインの背後を突くヤヒア・ナデル(UAE代表)とソフィアン・ラヒミ(モロッコ代表)のコンビネーションでアルアインが先制。合計スコアは2−2となった。

 問題のプレーが起きたのは前半29分。右サイドバック、バンダル・アルアフバビ(UAE代表)の縦パスを、最終ラインの裏を取るようにペナルティエリア内に進出したラヒミが受けるかに見えた瞬間だった。横浜FMのセンターバック畠中槙之輔が接触。転倒したラヒミは主審にシミュレーションとジャッジされ、イエローカードが出された。ところがVARが介入するや判定は覆り、アルアインにPKが与えられる。アレハンドロ・ロメロ(パラグアイ代表)がこれを決め、アルアインは合計スコアで逆転に成功した。


アルアインに敗れ、厳しい表情のハリー・キューエル監督と横浜F・マリノスの選手たち photo by Kyodo News

 横浜FMにとってはアンラッキーな判定。流れはこのまま一気にアルアインに傾くかと思われた。しかしここで横浜FMの右ウイングが奮闘した。その7分後。ヤン・マテウスは相手の右SBクアム・クアディオ(コートジボワール)のトラップミスをかっさらい、右サイド奥に進出。内に切れ込んでシュートを放つと、ボールはGKハリド・エイサ(UAE代表)の手をかい潜るようにゴールに飛び込んでいった。合計スコア3−3。試合が最高潮に達したのはこの瞬間だった。

 立ち上がりにもヤン・マテウスはキレのあるプレーを見せていた。後方で構える右SB松原健も攻め上がって、シュートに持ち込むなど、気を吐いていた。横浜FMはこの右サイドが機能する一方で、故障明けのエウベル、永戸勝也の左サイドは沈黙。セールスポイントである両翼からの攻撃は全開にならなかった。

 すると前半のアディショナルタイム(55分)、横浜FMのGKポープ・ウィリアムとラヒミが接触する事故が起こる。そして前者に退場処分が下されたのを機に、試合はアルアインの一方的な展開になっていった。

 後半22分、ラヒミに再逆転弾となる左足シュートを決められると、さらに2ゴールを許し、横浜FMは合計スコア3−6で大敗した。

【Jリーグで下位に低迷する理由】

 横浜FMの敗因を語る時、なにより畠中とポープが犯したふたつの反則を挙げたくなる。しかしそれ以上に、見逃すべきでないのは、もっと根本的な点で両チームの間にあった力の差だ。

 アンデルソン・ロペス、ヤン・マテウス、エウベルの攻撃陣3人は、Jリーグにおいては一番と言ってもいい顔ぶれである。さらにはGKポープ、この日は故障明けで先発を外れたDFエドゥアルドと、外国人選手を5人揃えている。さらには前節FC東京戦でケガをしたナム・テヒもおり、外国人枠は満たしている。

 だが、アルアインの外国人選手はそれを凌駕していた。モロッコ(ラヒミ)、パラグアイ(アレハンドロ・ロメロ)、アルゼンチン(マティアス・パラシオス)、トーゴ(コジョ・ラバ)、韓国(パク・ヨンウ)、コートジボワール出身者もふたりいる。第1戦ではマリ代表のアブドゥル・トラオレも活躍していた。

 選手の国籍はバラエティに富んでいた。この日ピッチに立ったフィールドプレーヤー4人の外国人選手すべてがブラジル人である横浜FMと比較すると、違いは鮮明となった。

 無国籍色が強い多国籍軍。アルアインにあるそうした国際色は、横浜FMのみならず、Jリーグの各クラブに不足する要素だ。外国人選手といえばまずブラジル人ありき。この組み合わせに見慣れた我々日本人の目には、アルアインが備えるリズム感、躍動感、大胆さ等々が、新鮮に映った。

 さらに物足りなく見えたのは交代カードの弱さだ。白坂楓馬、榊原彗悟、山根陸、宮市亮と、前述のエドゥアルドのほかに4人の日本人選手が投入されたが、いずれもインパクトに欠けた。層の薄さを痛感させられる交代だった。Jリーグで下位に低迷する理由と言ってもいいだろう。

 アルアインはこの試合を前にした国内リーグで、選手をすべて入れ替えて戦っているのに対し、横浜FMは前戦のFC東京戦を、この日とほぼ同じメンバーで戦っている。選手を入れ替えて戦う戦力的な余裕がないからである。

 横浜FMは、明らかに2、3年前のほうが強かった。凋落著しい川崎フロンターレの陰に隠れてそこまで目立つことはないが、外国人FWに疲労が出る後半、攻撃力は鈍る。Jリーグにおいても、今後の巻き返しに大きな期待が持てる状態にない。

 ハリー・キューウェル監督の采配にも言及しておきたい。GKポープが退場になり、10人になった段階で、同監督は左ウイングのエウベルを落とし、布陣を4−3−2に変えた。その後も試合終了の笛が鳴るまで、この態勢で戦い続けた。前方からプレスを掛けに行く4−2−3ではなかった。ひと言でいえば、後ろで守ろうとした。ケヴィン・マスカットやアンジェ・ポステコグルーなら、10人になっても攻撃的姿勢を貫いたのではないか。

 後ろで守り、失点を重ねる姿に、可能性を感じることはできなかった。1−5というこの日のスコアは必要以上に哀れに映った。いい選手、いい監督が減ったJリーグの現在を象徴する敗戦。筆者にはそう見えて仕方がない。

著者:杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki