「幼い子でもかなり動けるし、力も強い」。専門家がそう驚くほどの子どもの身体能力の高さが、東京都の調査で分かりました。5月5日の「こどもの日」に合わせ、けがや事故を防ぎながらすくすく育ってもらうために、周りがどうしたらいいかを考えました。

家具を引っ張る力は体重のほぼ半分

 「せーの!」「やる!」。東京都大田区の認可保育所「未来のツリー保育園」で、2〜3歳の園児が室内のジャングルジムに登ったり、すべり台を滑ったり。われ先にと、真剣な顔でよじ登る。「昨日できなかったことが、今日はできる。成長に驚かされます」と担任保育士の植田裕美さん(29)の顔がほころぶ。

 「チャレンジする意欲や力を生かせるように、環境を整えています」。転んでもけがをしないよう、床にマットを敷き、保育士から見えない所ができないように遊具を配置している。

遊具によじ登り遊ぶ子どもたち=4月、東京都大田区で(由木直子撮影)


 幼い子の力を甘くみてはいけない。東京都が「こどもセーフティプロジェクト」で、保育所や子どもが転落した家庭を訪ねるなどして、3歳以下の身体能力を調べると、高さ70センチを超える所によじ登り、3歳では高さ85センチまで登る子もいた。

 家具によじ登る際には、最大で体重の45%の重さの物を持ち上げるのと同等の力が、家具を倒す方向にかかっていた。寝返りだけで、1秒に20センチも動いていた。

「注意喚起だけでは事故は防げない」

 調査に協力した東京工業大工学院の西田佳史教授(人間工学)は「子どもたちの能力は思った以上にすごい。3歳以下の身体能力について、具体的な数値を示したのは世界初ではないか」と話す。

 身体能力の高さが、事故やけがにつながることも。西田教授によると、子どもが転ぶのにかかる時間は0.5秒ほどで、保護者が同じ部屋にいても、窓などからの転落は一瞬だ。「子どもはできることがうれしくて、なんでも遊具にする。子どもから目を離さないでという注意喚起だけでは、事故を防げない。家具の配置や固定方法を見直すなど、環境を整えることが重要だ」と語った。

転落事故の65%は自力で登っていた

 子どもの転落事故は東京消防庁の調査で、気候が良くなり窓を開ける機会が増える5月が最も多い。

 2023年までの5年間に管内で5歳以下の子65人が、住宅の窓やベランダから転落して救急搬送された。うち5月が19人で最多。年齢別では1歳が19人、4歳15人、3歳14人で、8割以上が窓からの転落だった。

 東京都は2023年度、転落事故の実態アンケートや発生した28軒への家庭訪問を通じ、現場を立体的に撮影して分析。転落または転落しそうになった場所は住宅内のソファや階段、椅子、ベッドが約63%。その場所に子どもが自分で登っていた例が約65%を占めた。直前まで親と一緒にいた例も多い。

東京都は集合住宅の改修費に補助金

 調査結果を踏まえ、東京都は予防策を冊子にまとめた。足場になる家具を窓から離す、転倒の恐れがある家具を固定する、寝返りしても落ちない所で寝かせる−などの対策を求めている。

 東京都は集合住宅のエアコン室外機の周囲への柵設置や窓の補助錠など、設置改修費の3分の2、上限30万円を補助している。子供政策連携室の担当者は「子どもの年齢や発達段階に合わせて危ない所を考え、環境を変えていくことが大切」としている。

東京都こどもセーフティプロジェクト

 子どもを事故から守る環境づくりを掲げ、東京都が組織を横断して2023年度から取り組む。予算額は2023年度が約3億円、本年度は約5億5000万円。子どもの行動特性の調査・研究、事故予防策の提言、ウェブサイトでの発信をするほか、事故情報データベースの開発と公開を目指す。調査結果から冊子「科学で探る こどもの事故予防策」などを作成。事業者向けセミナーを開き、子どもに安全な製品づくりも後押ししている。