5月26日、いよいよ競馬の祭典こと、日本ダービー(GⅠ、東京・芝2400m)が行なわれる。

 土曜日の天気予報は「晴のち曇」、レース当日が「曇のち晴」で、降水確率は2日間を通して0%。そして、24日の10時時点で計測した東京競馬場の芝のクッション値は「9.8」で、「標準」とされる数値。同日の8時30分に計測された含水率は、ゴール前が「13.4%」、第4コーナーが「14.8%」で、こちらも良馬場のなかでは中心値と言える状態。これらを考え合わせると、レース当日は「極端に時計が速くない良馬場」での施行が予想される。馬場状態の面で極端なトラックバイアスが生じないコンディションで開催できるのは朗報だろう。

 残念なことに、毎日杯(GⅢ、阪神・芝1800m)勝ち馬のメイショウタバル(牡3歳/栗東・石橋守厩舎)が左後挫跖のために出走取消。17頭での施行となる。そして本馬の取消によって、積極的にハナへ行きたい馬がいなくなり、平均ペースかややスローになる公算が高くなった。そのため、後方一気の追い込みタイプは、中団ぐらいまで位置を取りにいかないと、展開的に厳しいレースを強いられるかもしれない。
  3戦全勝で皐月賞(GⅠ、中山・芝2000m)を制したジャスティンミラノ(牡3歳/栗東・友道康夫厩舎)は、人気であっても優位は動かない。スムーズに流れに乗って前目でレースを進められる有利さはもちろん、長くしぶとくいい脚を使える脚質も東京向き。事実、デビュー戦と共同通信杯(GⅢ、芝1800m)と、東京コースで2戦2勝を挙げている得意舞台だけに、大崩れするシーンは考えづらい。もし苦杯を喫するとすれば、鋭い末脚を持つ馬との追い比べになって、切れ負けしたときぐらいだろう。

 さらに、過去マカヒキ(2016年)、ワグネリアン(18年)、ドウデュース(22年)と3度も頂点を極め、「ダービーの勝ち方を知る男」とも呼ばれる友道調教師のもとで育ったのも言わずもがなの強調材料だ。

 以前、友道調教師を取材した時、ダービー制覇のことについて聞いて強く印象に残った話がある。「ダービーを勝った馬は、みんなそこへ向けての成長が凄かった。なかでもワグネリアンは特に目立っていて、『あぁ、ダービーを勝つ馬はこんなに成長するものなんだ』と感心しながら見ていましたね」と、成長力がキーポイントになるとの実感を持ったというのである。そして目を見張ったのは、追い切り後にジャスティンミラノに対して発したコメント。「今までウチにいた馬の中で一番成長が著しい」と、決定的な評価を下しているのだ。

 先述したように、一瞬の切れ味を身上とする馬に切れ負けする可能性を残すために「1着固定」の本命馬とはしないが、馬連、馬単、3連系の馬券で外すことはできない主軸と見たい。 悩ましいのが、単勝2番人気に推されることが濃厚な牝馬のレガレイラ(美浦・木村哲也厩舎)の評価だ。

 牡馬相手のホープフルステークス(GⅠ、中山・芝2000m)を制して評価を高めたが、皐月賞は1番人気を裏切って0秒5差の6着に敗れた。しかし、その皐月賞でも上がり3ハロン33秒9を計時し、全4戦での上がり最速記録を継続している脚の切れ味は一級品だ。

 しかし問題はスタートで、すべてのレースで出遅れているのは気がかり。前走はドバイでの落馬負傷のために乗れなかったクリストフ・ルメール騎手が今回は鞍上に戻り、先週のオークス(GⅠ)をチェルヴィニアで制した「木村厩舎+ルメール騎手」の黄金コンビとなったために、過剰人気の嫌いがあるのは確かだ。

 ただ、ルメール騎手には2017年のレイデオロのように、第2コーナーを後方で回りながら、ペースが遅いと判断すると一気に位置を押し上げて、また直線まで折り合って我慢させるというスペシャルな騎乗テクニックがある。今回も、前半は後方のインで死んだふりをし、良きタイミングで外へ持ち出してポジションを取りに行く可能性がある。ゆえに、印を消すことまではできないが、押さえ程度まで評価を下げたい。
  よって、対抗に評価したいのは、皐月賞2着のコスモキュランダ(牡3歳/美浦・加藤士津八厩舎)だ。弥生賞(GⅡ、中山・芝2000m)を制したときは6番人気で、皐月賞でも7番人気で2着と、勝っても好走しても人気にならないので、馬券的に旨味のある馬だ。前走は“マジックマン”ことジョアン・モレイラ騎手の絶妙な騎乗にアシストされた要素は多いが、弥生賞を勝った時に手綱を取ったミルコ・デムーロ騎手へ手が戻るわけで、大きく評価を下げる必要はないと考える。

 ここまで8戦というキャリアの多さが吉と出るか凶と出るかは分からないが、追い切りは前走に見劣らないパフォーマンスを披露。彼の雑草魂に乗ってみるのも一考の価値があろう。 そして単穴には、NHKマイルカップ(GⅠ、東京・芝1600m)4着を経て臨んできたゴンバデカーブース(牡3歳/美浦・堀宣行厩舎)をピックアップする。

 昨夏の新馬戦(東京・芝1600m)、10月のサウジアラビアロイヤルカップ(GⅢ、東京・芝1600m)を連勝。高い評価を得たものの、年末のホープフルステークスを感冒で出走取消して休養に入った。出走態勢がなかなか整わなかったため、4月の皐月賞を回避し、5月のNHKマイルカップに出走。後続を千切った勝ち馬のジャンタルマンタル(牡3歳/栗東・高野友和厩舎)には0秒5差を付けられたが、2着のアスコリピチェーノ(牝3歳/美浦・黒岩陽一厩舎)とはクビ+クビ差の0秒1差に収めているのだから、悲観する結果ではない。

 これまで経験したマイル戦から一気に800mの距離延長は気になるが、新種牡馬の父ブリックスアンドモルタルはブリーダーズカップ・ターフ(米G1、芝2400m)など芝の中長距離G1を5勝しており、父系の血の裏付けはある。ダービーの大舞台では人気を落とすだけに、一発の魅力に溢れるこの1頭を見逃す手はないだろう。
  その他、先述3頭の相手として挙げておきたいのは以下6頭だ。

 皐月賞で4着まで詰め寄ったアーバンシック(牡3歳/美浦・武井亮厩舎)の地力は侮れず、凱旋門賞馬ソットサスの全弟という超良血馬シンエンペラー(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)は、外国産馬として史上初の優勝を目指す。武豊騎手が手綱を取り続ける3連勝中のシュガークン(牡3歳/栗東・清水久詞厩舎)は、GⅠ7勝を誇るキタサンブラックの半弟という血統が魅力的。ダノンデサイル(牡3歳/栗東・安田翔伍厩舎)は京成杯(GⅢ、中山・芝2000m)で先述したアーバンシックを破っている。

 前走のプリンシパルステークス(L、東京・芝2000m)勝ち馬のダノンエアズロック(牡3歳/美浦・堀宣行厩舎)は、前めにつける競馬や展開次第では逃げの可能性を秘める。東京で3戦3勝の成績を誇り、コース相性も良い。デビューから3連勝で重賞を制したシックスペンス(牡3歳/美浦・国枝栄厩舎)は、馬主であるキャロットファーム、トレーナー、ジョッキー(川田将雅)の3つのハイ・ブランドが揃ったため人気は高いが、前走のスプリングステークス(GⅡ、中山・芝1800m)のレースレベルに疑問符が付くので、こちらはやや評価を下げたい。

取材・文●三好達彦

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