BS民放局初となる「日本のシャンソン」に特化した特番「ニッポン・シャンソン〜越路吹雪・銀巴里…歌い継がれる愛の讃歌〜」(夜9:00-10:54)が、6月30日(日)にBS朝日で放送される。また、同番組で松田美由紀がテレビ初歌唱を披露することも明らかになった。

■クミコら豪華アーティストが“ニッポン・シャンソン”の名曲を歌う

2024年は、タカラジェンヌから“日本シャンソン界の女王”となった越路吹雪が生誕100周年を迎えた記念すべき年。また、7月にはシャンソンの母国であるフランスでパリ五輪が開幕することから、日本人にとってはまさに“シャンソンイヤー”と言える。

そこで同番組では、歌謡曲全盛の昭和に日本で独自の進化を遂げ、誰もが知る名曲を数多く生み出した“ニッポン・シャンソン”にフォーカス。出演者による“越路吹雪スペシャルメドレー”や対談などのさまざまな観点から、ニッポン・シャンソンの魅力に迫っていく。

歌を披露するのは、シャンソン歌手・クミコ、越路吹雪と同じく元タカラジェンヌの安蘭けい、越路を敬愛し今では「日本で一番越路に詳しい」と言われるソワレ、そのソワレに勧められてシャンソンを始めたという松村雄基という面々。さらに、スペシャルゲストとして松田美由紀も出演する。


■松田美由紀がシャンソンに込めた特別な思い

スペシャルゲストとして出演した松田は、女優や写真家としても活動する傍ら、2019年から歌手として本格的な活動を開始。「シネマティック・ライヴ・ショー」と題し、詩と音楽で自身の人生を歌い語ってきたが、テレビでの歌唱披露は今回が初めてとなる。

今回は、自ら選曲したというバルバラ作詞・作曲の「孤独」と「黒い鷲」を感情豊かに歌い上げた。中でも「目が覚めると大きな空が裂けて、黒い鷲が飛んできたの」という歌いだしの「黒い鷲」では、1989年に亡くなった夫で俳優の松田優作を楽曲に登場する“黒い鷲”に重ね、特別な思いを込めたという。

その他、番組ではクミコと松田の対談も。松田がシャンソンを始めたきっかけや、シャンソンも歌っているという「シネマティック・ライブ」への思いにも迫っていく。亡き夫・優作への思いを胸に松田がどのような歌唱を見せたのか、今回の見どころとなりそうだ。


■松田美由紀インタビュー「『黒い鷲』は歌いながら自分を癒やしている感覚がある」

――歌い終えての感想を教えてください。

松田美由紀:私の年齢で、“人生初”がまだあるのかと思いました。まさか、自分が皆さまの前で歌を披露できるとは思っていなかったんです。実は中学生から歌をやりたいという夢があったのですが、女優の道に進ませてもらったんです。夢が一つ叶ったなと思い、すごく幸せな気持ちです。

今回の出演にあたって、子どもたちも応援してくれました。収録では、緊張してクミコさんのところに駆け寄ったら、「美由紀さん、歌は自分のために歌うのよ」とおっしゃってくれて、すごく安心して歌うことができました。

――今回披露された「孤独」と「黒い鷲」は、どういった思いで選曲しましたか?

松田:(両楽曲の作詞・作曲を手がけた)バルバラさんが歌詞に込めた思いとは違いますが、私の中では「黒い鷲」は優作なんです。この「黒い鷲」は歌の中に優作が出てきた。そういう感覚は初めての歌なんです。

主人とは10代の時に出会って、20歳で結婚し、28歳の時に先立たれました。その強い衝撃があって、自分の中でなかなか消化しきれないトラウマなんです。日常生活では主人は出てこないのですが、表現をする時は出てくるんです。本当につらかったんだなと思い、歌いながら自分を癒やしている感覚があるんです。


――歌いながら涙を流されたように見えました。

松田:「“黒い鷲”が空を裂いてやってくる」という歌ですが、うれしいことだけじゃないんです。支配されているようだけど、その支配された記憶にすがりたいような…。この曲は、人間の複雑な感覚が歌になっていると思っています。

バルバラさんのスピリッツみたいなものを歌っていきたいと思っています。本当の歌詞は「小さな時のように星を取りに夜の空へ」ですが、私はライブでは「小さな子どもたちと星を取りに行こうよ」と歌っているんです。この歌を歌うと、毎回リハーサルから泣いてしまうんです。

――シャンソンの魅力はどういったところにあると思いますか?

松田:シャンソンを歌うようになったきっかけは、宮本亜門さんの音楽劇「三文オペラ」の歌唱シーンを見た、シャンソンを歌う友人から勧められたことでした。シャンソンは詩がとても美しく、ロマンチックなものが多いです。ライブで歌う時は、なるべくストレートに歌うようにしています。短編小説、短編映画のようなものだと思っています。

いろんな物語があって、しかもちょっと粋。私は歌う前に原曲を朗読したりするんです。シャンソンはワインやシャンパンが似合う、そんな世界観があるので、若い人にも楽しんで欲しいと思っています。


■松村雄基インタビュー「少しでも越路さんやシャンソンの素晴らしさを伝えられたら」

――シャンソンとの出合いを教えてください。

松村雄基:シャンソン歌手のソワレさんに勧められました。歌ってみると、ロックやポップスとは違って、3拍子が多くて難しかったんです。

でも、美しい詞のおかげで情景が浮かびやすかった。その情景をどうやって伝えるかという点では、芝居と似ていると思っています。

――今回は「マイ・ウェイ」「そして今は」を歌いました。どんな思いを込めましたか?

松村:僕は越路さんが亡くなった1980年にデビューし、越路さんの命日は僕の誕生日(11月7日)でもあります。そして僕をシャンソンに導いてくれたソワレさんは、越路さん研究の第一人者。

だから僕はご縁があって、ここに呼ばれたんだなと思っています。このご縁に感謝して、少しでも越路さん、シャンソンの素晴らしさを伝えられたらと思っていました。

――最後に、シャンソンの魅力を教えてください。

松村:シャンソンは人種、国、年齢も関係ない懐の深い音楽です。人生は捨てたもんじゃないという人間讃歌で、僕も励まされています。


■クミコ、ソワレ、安蘭けいインタビュー

――収録を終えての感想を教えてください。

クミコ:演歌や歌謡曲、フォークソングの番組はたくさんありますが、シャンソンに特化した番組が実現するとは思ってなかったので、本当にうれしいです。

こういうものもお望みの視聴者の方もいらっしゃると思うので、その方々に届けて、願わくはこれからも続けられるといいと思っています。

安蘭けい:クミコさんと、大好きなシャンソンで共演できることが本当に楽しみだったんです。若い頃はシャンソンが大人の世界のように思えて、宝塚時代は苦手意識もありました。

年齢を重ねて、もっと違った感じでシャンソンも聴けるようになりましたし、これから歌うことももっと勉強したいなと思っています。

――ソワレさん、越路吹雪さんとの関係も教えていただけますか?

ソワレ:もともと河合奈保子さんの熱狂的な追っかけで、河合さんが出演されると聞いて、19歳の時に見たフジテレビの「MUSIC FAIR」が、たまたま越路吹雪の特集だったんです。

それまでシャンソンも越路吹雪さんも知らなかったんですけど、見た瞬間に一発でやられてしまいました。越路さんの唯一無二の個性というか、ちょっと変わっている感じに、“ストーン”とハマってしまったんですよね。

シャンソンは大人の音楽だなと思っています。歌詞の世界観が、まだ経験の浅い20代では歌えないような曲がたくさんあります。大人の人たちが聞ける音楽が、シャンソンだと思います。今年は越路さんの衣装展などもあって、生誕100年でいろんなブームが来ているので、ビジュアルの部分からも越路さんのことを知っていただきたいと思っています。

――皆さんにとって、「シャンソン」とはどんな存在ですか?

クミコ:シャンソンは“伴走者”ですね。あっちこっちを見ながら、一緒に走っています。今までは、こんな腐れ縁いつまで続くんだと思ったんですが、最近はちょっと仲良くしています(笑)。

安蘭:シャンソンは“憧れ”かな。幼い頃、大人に憧れるみたいな感じで、今この年齢になってもすごく憧れる大人な存在がシャンソンかもしれない。届きそうで、まだ全然届かない。

ソワレ:僕は自分が歌手になるなんて想像もしていませんでした。越路吹雪さんを通じてシャンソン歌手になったんですけど、僕は「シャンソン歌手」ではなく「越路吹雪歌手」という気持ちが強いんです。10代でシャンソンを知って、人生の全てが変わって、今の自分があります。

――最後に、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

クミコ:まだシャンソンになじみのない方もいらっしゃるし、あるいは「ものすごく好き」という方もいらっしゃると思いますが、これからもどうかご贔屓にしてくださればと思います。

安蘭:シャンソンは聴けば聴くほど、どんどん味わいが出てきます。現代の音楽が好きな人たちにはちょっと届かないものがあるのかもしれないですが、そういう人たちにも聴いていただきたい。

シャンソンを知らない人と知っている人では、人生の豊かさが違うと思います。私もクミコさんの公演を見に行っていますが、歌だけではなく、トークがすごく面白い。それは豊かな人生を経験されているからだと思います。私もシャンソンを通じていろいろと学びたいと思っています。

ソワレ:ちょっと昔は、NHKでも民放でもシャンソン特集の番組があったんですが、最近は少なくなっています。シャンソンはロックやポップスとは異なる部分がかなりあると思うんです。リズムもしっかり立っていませんしね。

でもシャンソンはフランス語で「歌」という意味で、なんでもありなんです。だから、可能性は無限にあるんです。僕も、素晴らしい先輩方の背中を見ながら、シャンソン歌手の端くれとして皆様に素晴らしいシャンソンを提供していければと思っています。