2024年元日の能登半島地震では、道路が相次いで寸断されて「集落の孤立」が起こり、深刻な影響が出た。道路を切り開いてスムーズに支援を届けるためにどうすればいいのか。東海地方では、道路に優先順位をつけて、いち早い復旧を目指す『くしの歯作戦』の取り組みが進んでいる。

■“復旧に遅れが出た”と指摘…被災地支援が難航した原因「道路の寸断」

 名古屋市東区で2月17日、能登半島地震への支援を続ける名古屋のNPO法人「レスキューストックヤード」の活動報告会が開かれた。 レスキューストックヤード 栗田暢之代表理事: 「能登半島地震の被災地支援を、もう7週間経つんですね。そんな経つと思えないくらい、時の流れが早すぎて」

代表理事を務める栗田暢之(のぶゆき)さんは、これまで東日本大震災や熊本地震など各地の震災を支援してきたが、能登半島地震の支援にはこの地震特有の“難しさ”があると話す。それは、『道路の寸断』だ。

レスキューストックヤードの栗田暢之代表: 「色々な所で、土砂崩れとか落石が非常に多い。住民が普段使うような生活道路までも行き止まりになってしまっているのが特徴ですね。本当に厳しい道路状況ですね」 震源に近い石川県の「奥能登」では、道路の亀裂や液状化・山の崩落などが相次ぎ、多くの交通網が寸断した。最大で24地区3345人が孤立状態となり、完全な解消に1カ月余りを要した。

南側からの一方向からしか現地に入ることができず、限られた道路に車が集中して深刻な渋滞が発生し、支援が届きにくいという状況に陥った。

そんな中、道路復旧に関するある事実が明らかになった。 斉藤鉄夫 国土交通大臣(1月24日): 「北陸地方整備局におきましては対象となる災害が想定されておらず、道路啓開計画の策定にいたっておりませんでした」

石川県を管轄する北陸地方整備局では、地震発生時の道路復旧計画を定めておらず、“復旧に遅れが出た”と指摘されている。

■まずは高速道路と国道を復旧…孤立解消を目指す『くしの歯作戦』

 東海地方では、南海トラフ巨大地震の被害を想定した道路復旧作戦『くしの歯作戦』が存在する。この作戦は、道路網を「髪をとく“くし”」の形のように繋げていくことから名付けられた。

被害が発生した場合、まず、「くしの軸」となる高速道路や国道などを復旧する。その後「くしの歯」に当たる、沿岸部へのアクセスルートを確保するというもので、必要な支援をいち早く届けるため、優先的に復旧する道路を予め決めておく作戦だ。

中部地方整備局の藤山一夫道路情報管理官: 「救援物資を置いてある備蓄場所・避難場所・病院・役場ですね。そういった所をいかに上手に早く繋いでいくか。特に被災場所が孤立した場合に、その孤立をいかに早く解消するかが重要」 作戦の肝になるのは、道路の被害状況の迅速かつ詳細な把握で、その役割を担うのが中部地方整備局の「国道維持」を担う部署だ。 2024年2月、中部地方整備局の名古屋国道維持第三出張所が、くしの歯作戦を想定した訓練を行っていた。 名古屋市港区の国道23号線で、“冠水”の情報があったという想定で、現地に向かう。 「くしの軸」にあたる国道23号に到着すると、スマホで道路の撮影を始めた。 名古屋国道維持第三出張所の長谷川温所長: 「いま撮った写真が出ますので、これに情報を入れる」

作戦が展開されると、国道事務所や県の出先機関、民間の協力業者が、管轄する道路の被害状況をスマホなどで撮影し、専用のシステムに入力する。

中部地方整備局にある本部では、こうして寄せられる情報を地図上で把握できる仕組みだ。 訓練で撮影した国道23号の「冠水」の情報は、地図上にしっかりと表記されていた。 中部地方整備局の藤山道路管理官: 「冠水があるとすると、この冠水が起こっている時に、側溝の詰まりを直すような作業がいるかとか。何が原因になっているのかを推測して、どんな作業が必要か判断していく」

「くしの歯」作戦は、東日本大震災の発災後に東北で行われた対応を受けて計画され、愛知だけでなく三重や静岡の沿岸部でも、円滑に作戦が展開できるよう準備が進められている。 中部地方整備局の藤山道路管理官: 「今までは津波のがれき処理を主に被災の状況として考えていたが、能登地震の被災を見ると土砂崩落やトンネルの被害とかも見受けられる。被害想定を計画の中でも見直していきたい」

■災害時に集落が孤立しないための “リスク分散”

 孤立を想定し、備えも進める自治体がある。愛知県豊田市の稲武地区は、山あいの集落などに合わせて2000人ほどが暮らしている。 愛知県は、国の南海トラフ巨大地震の被害想定で、約500集落が孤立する可能性があるとされた。中でも山間部が多い豊田市は、その4割の200カ所が集中している。

稲武地区を歩いてみると、集落に続く道が一本しかない場所が多くあることが分かる。

2月8日、豊田市役所の災害対策本部で行われていたのは、稲武支所の孤立を想定した通信訓練だ。支所には2つのキャリアのスマホが備えられていて、テレビ会議システムで状況を共有する訓練を毎月実施している。

豊田市職員: 「稲武地区の方では気象状況等はいかがですか?」 稲武支所職員: 「雪もなく、いい天気です。晴天です。道路状況も特に異常はありません」

能登半島地震のように、通信が遮断された場合を想定した対策もしている。豊田市では、中学校区ごとに衛星電話や防災行政無線を設置していて、携帯電話の基地局などが使えなくても通信できるよう備えている。

さらに、停電に備え、電気を供給できるプラグインハイブリッド車を孤立が想定される集落などに約50台配備した。ガソリンが満タンなら1台で約2日分の電気を、避難所となる体育館やトイレに送ることができる。

豊田市防災対策課の深津拓也さん: 「通信手段も複数設けているというところもありますし、備蓄についても1カ所ではなく複数で分散してやる。孤立の中では、1つの手段・1つの場所はリスクだと思うので。複数の手段・複数の場所でカバーできるようにリスク分散しながら防災対策を進めていくことが非常に大事ではないかと考えています」

■「能登は他人事じゃない」個人でも備える住民

 稲武地区に暮らす松井徹さん(75)は、自宅の裏山が急斜面になっていて、大きな地震で崩れる可能性もあり、孤立する危険を感じている。

松井徹さん: 「こんなに急だもんね。いつ崩れるか。(孤立する可能性も)あります」 松井さんは、東海豪雨で実際に自宅が孤立した経験などから、倉庫には発電機や1週間分の食料を用意している。個人でも、集落の孤立に対して備えが必要と感じているからだ。

松井徹さん: 「(能登の被害は)他人事じゃないね。こっちもいつ起きても不思議じゃないと思いますね。能登を見るとね、道路がひどい。ああなれば(外に)出ることはできないので。特にこういう山間地は絶対(孤立は)あり得ることなので、常に「どうしよう」って考えています。」 2024年3月1日放送