前回:「港区の闇にのまれたのは…私」お金と野心に目がくらんだ女の後悔とは



大失態の誕生日からちょうど1週間が過ぎた日曜日の14時過ぎ。西麻布から赤阪に向かっているタクシーの中で携帯が鳴った。

≪宝ちゃん、お久しぶりです。急遽なんですが、仕事で日本に帰ることが決まりました。時間が合えば、2人でお食事でもしませんか?僕の滞在日程は…≫

― 伊東さんだ。

パリの2つ星レストランのシェフである伊東さんからのLINEだった。確かに、シャンパーニュで連絡先は交換した。その時に東京に行くことがあれば連絡するねとは言われていたけれど、絶対に社交辞令だと思っていたのに、驚いた。

伊東さんの滞在期間は一週間程らしい。その間にランチでもディナーでも、と書いてあったけれど、勝手に返信してしまっていいのかわからず、戸惑ってしまう。

「宝ちゃん、どうした?大丈夫?」

思わずため息がもれていたようで、一緒にタクシーに乗っていた大輝くんを、心配させてしまった。

「やっぱり、行くの不安?」
「あ、全然そうじゃなくて…」

不安?と聞かれたのは、この後の、大輝くんのお父様との対面を指しているのだろうけれど、今の溜息は違うのだと私は否定した。

「今、伊東さんからLINEがきて。日本に行くから会わないかって」
「伊東さんって、シェフの伊東さん?2人で会うの?」
「えっと…そうだね、2人でお食事でもって書いてある」
「行きたくないの?」
「そうじゃないけど、伊東さんを紹介してくれたのは雄大さんだし、雄大さんに一言確認してからの方がいいよね。でも…」

雄大さんとは誕生日以来、会っても話してもいない。こちらから連絡するのも気まずい…と私が言うと、大輝くんが、宝ちゃんは気にしすぎ、と笑った。

「宝ちゃんを伊東さんに紹介した時点で、この後はお互いお好きにどうぞ、ってことだと思うし、雄大さんって、自分が紹介したとか、そういうの全く気にしない人だから。…っていうか、あれ?もしかしてデートのお誘い?」

大輝くんの言葉が急に前のめりになり、目のキラキラが増した。そうだ。この人は極度の恋愛体質で恋バナが大好きな人だった、と思いだして、私は苦笑いになる。

「伊東さんみたいな人が私をデートに誘うわけないでしょ。フランスで日本に帰ることがあったらご連絡しますって言ってたから、律儀に…」

そこで言葉が詰まった。大輝くんの、ニコニコ、というか、ニヤニヤ、という視線が気になりすぎたからだ。何かおかしい?と聞いた私に、そのニヤニヤのまま大輝くんは言った。

「相変わらずの自己謙遜っぷりだけど、宝ちゃんって自分で思ってるよりモテると思うよ。宝ちゃんがデートかぁって思うと…オレも…なんかちょっと寂しくなってきたし?」


何が寂しいの?とハテナが湧いているうちに、目的地に到着した。伊東さんへの返信は落ち着いてからにしようと、私は携帯をバッグにしまい、今日のミッションへの気合を入れなおす…と、一気に緊張し始めてしまった。

到着したのは赤阪の老舗の中華レストラン。事前に大輝くんにもらっていた店名で調べた情報には、政治家や財界人の利用が多いと書かれていた。営業前らしく、店内には客が全くいない。

店内は赤を基調として、艶のある木材の棚やテーブルでまとめられている。階段を上がり個室に案内されると、既に中にいた男性がニコニコと立ち上がって迎えてくれた。

「大輝〜!」

この人が大輝くんのお父様なのだろう。でも

― 全く、似て、ない。

生物学上の父ではないということは知っているし、外見のことを言うなんて失礼だとわかっている。それでも、大輝くんのお父様だから…と私の脳は勝手に派手で強めなおじさまを想像していたらしい。

「大輝は相変わらずいい男だなぁ」

おいで、ハグしよう、と両手を大きく広げたお父様に、ハグ文化が家族で、しかも男性同士でも存在していることに驚愕する。

素直にハグに応えた大輝くんの体にお父様がすっぽりとハマって見えなくなった。185cm超えの大輝くんに対して、お父様は私と同じくらい…160cmくらいというところだろうか。それに。

― うちのおじいちゃんと同じ歳くらいかな。

72歳になった今も農家現役のうちのおじいちゃんとは違って、肌はピカピカだけれど、完全なグレイヘア。いわゆる好々爺然とした…とでもいうのだろうか、品の良さがにじみ出る素敵な雰囲気だ。



ハグから大輝くんの体が離れるとお父様は、少し痩せたんじゃないかとか、もっと顔を見せにきてくれとか、愛おしそうな顔で会話を数分続けた後、さて、と私を見た。

「大輝が女性を私に会わせてくれるのは初めてなので…少々浮かれていますが、お許しください」

にっこりと笑いながら、大輝の父です、と右手を差し出され、握手をしながら私も自己紹介をした。

「宝も素敵なお名前ですが、大きく輝く、という大輝も、とても良い名前でしょう。ご覧の通りうちのお坊ちゃまは、輝き続けて育ってくれましたからね」

やめてください、と大輝くんが恥ずかしそうな顔で制すると、たまにしか会えないんだから精一杯自慢させてくれと、お父様は優しく、でも豪快に笑った。

― 太陽みたいな人だな。

大輝くんも、愛さんも、雄大さんにも…そして愛さんの元旦那さんにも、それぞれ迫力がある。でもお父様は、その中でも強烈な光。体は決して大きくないのに、周囲を包みこむような熱が放たれている気がする。オーラがある、というのはこういう人のことを言うのだろう。

大輝くんのお父様に会うことになったのは、誕生日から2日後のことだった。

うちの父親なら瀧川家にコンタクトをとれるし、タケルくんだけに会う段取りも組める。でもその条件として、父が宝ちゃんに会いたいと言っているけどいいかな?と言われたのだ。

コンタクトがとれるということは…大輝くんのお父様は、愛さんの元旦那さんと同等、もしくはそれ以上の社会的な力を持っているということ?と想像はついたけれど…そうなると当然、気になるのは。

「大輝くんのお父様…ご実家って何されてるの?」

― 愛さんの旦那さんみたいな人だったらどうしよう。

怖くなってそう聞いた私に、うーん、簡単には説明が難しいから調べてみてとお父様の名前を教えられた。友坂時宗。江戸時代の将軍様の名前みたいだと思いながら携帯に入力すると簡単に、大量の情報が羅列された。

友坂時宗。友坂家18代目当主。友坂家は室町時代から続く名家の流れを組んでいて、お父様の3代前の当主が海運業や材木業で莫大な財を成したらしい。その財を一族で独占することを良しとせず、戦後は東京のみならず日本全国の復興にも財力を投じた、代々慈善家の一族だという。

現当主であるお父様は、いくつもの財団の長を務め、病院、ホテル、学校などを経営し、若い起業家を支えるエンジェル投資家でもある…という、確かに一言で言い表すには難しい肩書だらけの人だった。

「確かに父は、息子から見てもすごい人ではあるけど、愛さんの元旦那さんの家とは違って、裏社会とのつながりとか、そういうことを最も嫌う真っすぐな人だから。優しい人だし安心してくれて大丈夫だよ」

お父様の経歴に圧倒されていた私を、大輝くんはそう言って安心させてくれた。くれたけれど。いざ対面してみると緊張感は高まるばかりで、私はこっそりと取り出したハンカチで、手のひらにじんわりと滲み続ける汗をぬぐっている。

お父様に着席を促され、私と大輝くんは円卓の隣同士、お父様は私たちの正面に当たる位置に座った。中国茶のポットが運ばれてきて、3人それぞれの茶碗に注がれると、ふんわりと甘い香りが広がり、その広がりに合わせたかのようにお父様が私に優しく微笑んだ。

「それで…宝さんは大輝とお付き合いされているということだったかな?」


思わぬ言葉に固まった私の代わりに、大輝くんが、お父さん、と困ったような声を出した。

「電話でも友人だと説明しましたよね。そもそもここへ来るのも僕だけで良かったはずなのに、お父さんが彼女に会わせてくれないと動かないとおっしゃったから…」
「ちょっとふざけただけじゃないか。ムキになると、余計に怪しくみえるぞ」

ねえ宝さん?と笑ったお父様に、私もなんとか笑顔を返そうとしたけれど、頬が引きつり、口角がうまく上がらなかった…ような気がする。

まずはお茶を頂こうと中国茶を口に含んだお父様が、これは、ダーホンパオだね、良い状態だ、と言った。ダーホンパオって何?と思っていると、大輝くんが、中国茶のロマネコンティと言われてる茶葉だと教えてくれた。

お父様も大輝くんも、ゆっくりとお茶を楽しんでいる様子で、それが余計に私をソワソワと落ち着かなくさせる。

しばらくするとようやく、じゃあ本題に入りましょうか、と声がして、私はピンと背筋を伸ばした。

「瀧川家の孫…タケルくんだったかな。彼に会わせて欲しいということだったね。先代当主とは長い付き合いだし、ずいぶん貸しもある。先代に孫を連れださせて君たちと…ということは難しくないだろう」

― そんなに簡単なことなの?

肩透かしどころではないあっさり感に驚いていると、大輝くんがありがとうございますと頭を下げた。大輝のお願いなんだからはりきっちゃうよ、とふざけるお父様は、なんだかお茶目でかわいい。

「いつ頃手配してもらえますか?」
「来週にでも、私が囲碁の会を主催しよう。そこに瀧川の先代を呼び出すよ。他にも数人声をかけて、それぞれの孫を連れてこさせればいい。子ども囲碁教室とでも題して、次世代の子たちの交流目的だと説明するよ。残念ながらうちには孫がいないが。…大輝もそろそろ…」
「僕は、結婚にはむいていないかと…ご期待に沿えず、申し訳ないとはいつも…」

大輝くんにやんわりと遮られたお父様は、お前はそこだけは頑なだなぁと笑って話を戻した。

「とにかく来週には対面を実現させる。ということで大輝、お前も私の頼みを聞いてくれるかな?」
「僕にできることならなんでも」
「よかった。では今から、宝さんと2人きりにしてもらいたい」

― なぜ、私!?

戸惑う私の横で、大輝くんも思いもよらなかったのだろう。慌てた様子で話なら自分も一緒にとしばらく抵抗してくれたけれど、ダメならこの取引は無しだとお父様も頑なで、しばらく押し問答が続いた。

「…だめだ。こうなったら父は絶対に引かない。でも宝ちゃんに無理させたくない。帰る?」

困った顔で私を見た大輝くんを、ちょっと待て、とお父様が制した。

「大輝の大切なお友達を私がいじめるとでも思っているのか?」
「…いじめないと思うから、怖いんです」
「じゃあ、宝さんに選んでもらおうじゃないか」

ほら、そういうところ…と呟いた大輝くんが、大きな溜息をついた。

「宝さん、私と2人きりでお話しするのは…お嫌ですか?」

― う…。

真っすぐに微笑まれてしまうと…ノーと言えない日本人代表のような私には断ることができず。ルックスは全く似ていないのに、無下にしたらバチでも当たりそうな人懐っこさの圧が、この親子はとても似ているのだと気づいたりした。


何かあったらすぐLINEしてね、と心配そうな大輝くんが部屋を出て行き、お父様と2人きりになると、自分の失態…愛さんの元旦那さんとのやりとりへの後悔が改めて蘇ってきた。

― サイコパスへのトラウマが…。

動悸よ上がらないでと願っても無理な話で、超ド級のお金持ち社会への対策本があるなら即買います、熟読します、なんてバカなことを考えてしまった。

「宝さん」
「あ、はいっ」

思ったより大きな声が出てしまい、そんなに身構えられるとこちらもドキドキしてしまうね、とお父様に笑われてしまう。

「怖がらせているのなら申し訳ない。ただどうしても、宝さんに謝っておきたかったのですよ」
「…謝って…ですか?」
「今回は大輝のわがままに付き合ってもらって申し訳ない」

頭を下げられ驚いた。謝るべきはこちらの方なのに。慌てて、私が起こしたトラブルに大輝くんは巻き込まれただけなのですと説明したけれど、実はそうではないのですよと優しく否定された。

「確かにきっかけはあなただった。でも今は、あの子自身がタケルくんをほっておけないのですから。

勿論私から見てもタケルくんは可哀そうに思います。これ以上傷つかないで欲しいとも願います。しかし残念ながら、大輝とあなたが話しに行ったところで、よくて気休めです。状況が悪化する可能性の方が高い上に、問題が解決することなどありえない」

気休め、悪化、解決はありえない。言葉の強さに、ではなぜ、お父様はタケルくんと私たちを会わせようとするのだろう…という疑問を思わず聞いた。



「本来、他家の事情に介入することはタブーです。代償を払わねばならなくなるリスクもあるでしょう。でも、私は大輝に頼られたことがうれしいのです。

大輝が私に頼み事をするなんて、あの子が幼い頃に、おもちゃを欲しがったことと、大学入学と同時に一人暮らしがしたいと言われたことくらいしか記憶にありません。だから頼られると何でもしてやりたい。親バカと言われても、叶えてやりたくてね」

そう言ってほほ笑んだお父様が、今日初めて、寂しそうに見えた。

「ところで…宝さんはうちの事情をどこまでご存じですか?」

事情とは、大輝くんが養子であるということを含むのだと思う。でも何と答えるべきなのか…このところ返答で失敗ばかりしている身としては、正直に答えることが正解だとも思えずに言葉に詰まる。

「瀧川家と同じくと言いたくはないのですが、私も大輝が中学生に入る頃に離婚しています。大輝は離婚の原因を自分だと思っていて、それがあの子の性格を委縮させてしまったのか、元々わがままを言わない子だったのに、それがひどくなったんです。

自己主張をせずに、人に合わせて人に譲る。そんなことが多くなりました。他人が望む答えを探し出す子というのは…胸が痛むものです。何もしてやれなかった自分を、私は未だに情けなく、申し訳なく思っているんですよ」

そういえば。

「愛さんの主張するタケルくんの思いって、本当にタケルくんの思いかな」

ホテルの部屋で大輝くんはそう言っていた。なぜ大輝くんがそう思ったのか。正直、ピンときていなかったその言葉の解像度が、今、急に上がった気がして私は切なくなった。

「宝さん…なぜ私が大輝の思いとうちの事情をあなたに説明したのか、想像がつきますか?」


私が首を横にふるとお父様は一息入れるようにお茶を飲んだ。そして続けた。

「大輝は…タケルくんに自分を見ています。タケルくんに幼い頃の自分と同じ思いをさせたくないと、今回のセッティングを私に頼んできたわけです。

そして、宝さんならタケルくんを救えるかもしれないと期待して、信じている。そのことを宝さんに知っておいて欲しくて。大輝が…なぜタケルくんに感情移入し、なぜ宝さんに期待するのか。そのことを説明するために、うちの事情を伝えておく必要があると思いました。

あの子があなたを信頼しているのは、やり取りを見ていればすぐにわかりましたしね」

救い、期待。その言葉と自分をリンクできずに、何と答えればいいのか戸惑ってしまう。すると、ああ申し訳ない、シリアスな話になりすぎましたね、とお父様の声のトーンが明るくなった。

「とはいえ、今回の大輝の行動は、宝さんを思っての側面も勿論ある。常に他人には一線を引くあの大輝が、友人のトラブルに首を突っ込み、私に頼み事をするなんて…今の若い人は、青春のことを何と言うのでしたっけ?」
「…アオハル、ですか?」
「そうそう、それだ、アオハル!大輝が電話をかけてきた時の熱さ…熱量に私はその言葉を思い出しましたよ。宝さんの無茶な行動を肯定して信頼する青臭さのようなものにもね」

熱くなる大輝くんは想像できないし、無茶な行動、肯定と信頼、青臭さ、どれもむず痒い響きで恥ずかしく、いたたまれなくなる。

― 私たちはもう、アオハルと言える年齢ではないんです、お父様。

そんなことを思った私をよそにお父様は、アオハル、大輝がアオハルねえ、と、とてもうれしそうだった。



そしてまた次の日曜日が来た。来週にはと言ったお父様はきっちりとその約束を守り、大輝くんとは私は、友坂家がパーティなどに使用する『迎賓館』と呼ばれる邸宅に呼ばれることになった。

場所は高輪。敷地内に建物が2つあり、1号館、2号館と呼ばれているらしい。どちらも歴史を感じる洋館で、大人たちの囲碁会は1号館で、子どもたちの囲碁教室(子どもたちの指導係としてプロの囲碁棋士が呼ばれていた)は2号館で行われるという形で大人と子どもの居場所がわけられているという。

「大人たちは対局の後、懇親会と称して食事会に入る。おそらく2時間程だ。その間、子どもたちには軽食が準備されて、自由に遊びながら待つということになっているから、その時間を使って瀧川の孫に声をかければいい。鍵がかかる個室を用意しておくし、瀧川の先代は私が引き止めておくから終わったら連絡しなさい」

お父様にそう言われ、指定された時間…大人たちが懇親会に入ったタイミングで迎賓館に到着した。入口で警備員に名前を告げると個室の鍵がもらえることになっていて、それを待つ間に大輝くんが言った。

「タケルくんにとっての宝ちゃんがさ、オレにとっての雄大さんになればいいな」
「…どういうこと?」
「…終わったら話すよ」

鍵を受け取り歩き始めた大輝くんに続く。迷いなく進むその様子に、そうか、実家の所有物だもんね、などと思いながら、気がづけば2号館へ入り、タケルくんがいるであろう部屋へ向かった。

そこは、豪奢なシャンデリアが掛かった、時代が違えばダンスホールとでも呼ばれそうなスペースだった。

― いた。

見覚えのある横顔。タケルくんは、他の子どもたちとは遊ばず、軽食にも手もつけず、窓辺に置かれた椅子に座って本を読んでいた。声をかけようと近づく前に、その顔が上がった。

「…あ」

ぽかんと口をあけたタケルくんが勢いよく立ち上がり、その椅子が倒れ、その手から本が落ちた。椅子を起こした大輝くんが、こんにちは、と挨拶し、私が本を拾う。

― こどもの囲碁、入門編。

表紙に書かれた文字を読みながら、タケルくんに、こんにちは、と手渡す。

「こ、こんにちは」

そう言って慌てた様子で頭を下げたタケルくんの、そのキレイなお辞儀にしつけの厳しさがしのばれて、胸がぎゅっとなる。

「私のこと、覚えてる?」

はいと答えたあと、タケルくんはキョロキョロと辺りを見渡した。今日はお母さんは来てないんだよ、ごめんね、と言ったのは大輝くんで、タケルくんはうつむいたけれど、すぐに顔を上げた。

「お姉さんがどうして…ここにいるんですか?」
「タケルくんに会いにきたんだよ」
「僕に?…本当に?」

私がうなずいても、タケルくんは私から視線を逸らさなかった。そして言った。

「お姉さん、僕、お姉さんにまた会えたらいいなって思っていました。またお会いできてうれしいです」


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次回は、5月11日 土曜更新予定!