経済成長と医療・介護費の関係をここで整理しておこう。

経済成長率が高いときには、それだけ賃金も上昇するから、医療・介護従事者の賃金を増やす分だけ医療・介護費が増えることになる。医療・介護費が増えれば、その財源となる税金や保険料の負担も増える。

ただ、経済成長率が高いと医療・介護従事者以外の所得も大きく増えているから、所得に比した負担率は緩やかにしか高まらない。最近でも、通常国会で岸田文雄首相が「実質的な負担増とはならない」と答弁しているのも、この点を暗に意図している(もう少しわかりやすく説明すべきだとは思うが)。

負担額は増えても、それ以上に所得が増えれば、所得に比した負担率は上がらないという構図である。

他方、経済成長率が低いときには、その逆で、賃金があまり増えないから、医療・介護費はさほど増えず、その分、税金や保険料の負担額はあまり増えないものの、所得が伸び悩むために、所得に比した負担率は高まることになる。

成長がなければ医療費が増え、負担率が上がる

この構図が、現状投影シナリオと長期安定シナリオで起こる。つまり、より実質成長率が低い現状投影シナリオでは負担率がより高まる一方、長期安定シナリオでは負担率は緩やかにしか上がらない。

医療・介護費の対GDP比は、2019年度に8.2%だったが、現状投影シナリオでは2060年度には、その他要因による医療費の年率増加率が1%のときには13.3%にまで上昇、2%のときには16.1%にまで上昇する。

このままではわかりにくいので、筆者の独自の計算で、国民負担率に換算してみよう。国民負担率が50%に近づいて「5公5民」などと話題になった指標である。

国民負担率の分母は国民所得であるから、前述の比率の分母であるGDPとは異なる。近年の日本では、国民所得はGDPのおおむね72%に相当する。したがって、単純化すれば、対GDP比の比率が1%ポイント上がると、対国民所得比の比率は1.389%ポイント(=1÷0.72)上がることを意味する。

2019年度の日本の国民負担率は44.2%だった。そこで、現状投影ケースのその他要因で医療費が年率1%増加するケースでは、2019年度から2060年度にかけて医療・介護費は対GDP比で5.1%ポイント増加するから、その財源負担が国民に及ぶと、対国民所得比では約7.1%ポイント上昇する。

つまり、2060年度には、他の要因では負担率がいっさい上昇しないと仮定しても、国民負担率は51.3%と50%を超えることが予想される。