なぜなら、クチコミで訪れた店舗や病院の感想を書くことも立派な「表現」だからだ。表現の自由は、民主主義の前提と位置づけられる人権の中でも、最も重要とされる人権の一つである。自由な情報発信ができるということは、内容がどのようなものであれ、それ自体に民主主義の前提を支える価値があると考えられている。匿名アカウントの主観的な感想や論評であっても、原則としてその価値は変わらない。

また、Googleは単にプラットフォーマーとしてクチコミを掲載しているだけであり、そのクチコミの内容が本当の体験に基づくものかは調べようがない。そして、削除を請求する側も、クチコミを投稿した人物が誰か分かり、事実が述べられているなら、調査した上で「そういったことはなかった」と説明ができる余地があるが、匿名の人物が書き込んだ感想であれば、そもそも調査することができない。

「勝手に事実無根のことを書かれたのに、削除が難しいというのはおかしい」と考える事業者は多く、その思いはもっともと感じる。しかし、感想や論評などの表現を否定することが難しい以上、削除のハードルが緩められることはないのが実態だ。

ネガティブなクチコミで被る損害は大きい

しかし、感想や論評であっても、ネガティブなクチコミによって事業者が受ける損害は大きい。実際、相談者からは「書き込まれてから新規の問い合わせが明らかに減り、売り上げが前年比50〜60%減になった」「ネガティブなクチコミをきっかけに、実際の利用者とは思えないクチコミが書かれるようになった。自分のような小さなクリニックでは死活問題だ」といった声を聞く。

このように、ネガティブな感想や論評のクチコミが削除できず放置されていることについて、国による規制はできないのだろうか。実は、この点も非常に難しい問題が横たわっている。

人権侵害をするようなクチコミを放置することは許されないというのは、国も対策の必要性を認識しているところだ。総務省は2018年10月18日から「プラットフォームサービスに関する研究会」という有識者会議を継続的に開催し、プラットフォーム事業者に対してどういった規制をかけていくべきか、かけるとしてその方法はどういったものが適当か、ということを含め議論している。

もっとも、前述の通り、表現の自由のような精神的自由は、営業の自由のような経済的自由より優越的地位にあるとされていて、特に憲法21条2項は、検閲を禁止している。Googleなどのプラットフォーム事業者も、国との関係でいえば表現の自由を享受する主体であるし、またプラットフォーム事業者がクチコミ等を含む表示をどのように扱うかも、表現の自由の範疇に含まれ、厚く保護されることになる。