「“もう海外に行くことは難しいから、経由するなら最後はパリの空港の雰囲気を味わいたいなぁ”と母が言うものですから、マドリードのバラハス空港からフランスのシャルル・ド・ゴール国際空港まではエールフランスの便を予約しました。

そこから羽田まではJALです。これは僕のミスなんですけど、エールフランスとJALはアライアンス関係がないんです。だから、情報連携がうまくいかなくて大変でした。車椅子での乗り継ぎのこととか、機内での対応などなど、両方にいちいち問い合わせないといけなかった。もし次があるなら、同じアライアンスに加盟している航空会社だけにしようと思います(笑)」(聖司さん)

ツアーナースがいなかったら旅は実現しなかった

2023年12月某日。スペインのオルメドから埼玉県川越市までの旅がスタートした。

聖司さんの話。

「本当は僕も全行程で付き添いたかったのですが、日本に来てからの介護の準備があるのと、さすがに会社に申請しにくくて(苦笑)。でも、ベテランのツーナースがいるので、そこは任せることにしました」

イエズスさんと文恵さんは、オルメドからマドリード空港までは介護タクシーを使い、空港でツアーナースと合流。羽田空港から川越市の実家までは、聖司さんの運転する車で移動することにした。

道中、トイレで困らないように、食事と飲み物の量を減らすことを指示しようと聖司さんは考えていた。しかし、事前の打ち合わせで日本ツアーナースセンターのナースに相談すると「バルーンカテーテルを使う方法があります」と教えられた。

「尿道に管を入れて、尿を直接排出する医療器具です。これには本当に助けられました。飛行機は乾燥しているので脱水症状を起こしやすいことや、長旅であることを考えるとリラックスすることが大事なので食事もなるべく普段通り摂ってほしいと。母の身体のことを一番に考えていただけました。やっぱりツアーナースにお願いしてよかった」(聖司さん)

文恵さんは旅の様子をこう振り返る。

「私、足が動かないでしょ、だからエコノミークラス症候群が本当に心配で……。普段から足をなるべく動かしてもらうようにもしているので、お金が掛かるけどビジネスクラスを取ってもらったんですよ。ツアーナースさんは私の隣、パパ(イエズスさん)だけはエコノミーで我慢してもらうはずだったんだけど、息子がこういうときに備えてマイルを貯めていたので、直前でビジネスクラスにアップグレードすることができたのよね」

そう言って、夫婦は顔を見合わせて笑った。

ツアーナース 現在は川越の自宅で暮らしている文恵さんとイエズスさんの夫妻(提供写真)