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イラスト制作からお悩み相談まで〜安くてお手軽ココナラ活用術


二児の母、ai mamaさん(37)は、以前は料理学校で管理栄養士として働いていたが、コロナで自宅待機に。仕事がある時だけ呼ばれる契約になった。育児もあり、料理の仕事を諦めかけていた時にココナラと出会い、人生が変わったと言う。サイトにはai mamaさんの写真とともに「レシピ開発、料理の写真撮影、栄養相談承ります」というキャッチが載っている。

「自分の得意なことやできることを紹介させていただいて、購入者のご要望と自分のスキルがマッチすれば買っていただきます」(ai mamaさん)

レシピ開発のスキルを1品7150円(材料費別)で売っている。購入者から星五つの評価を得るなど評判は上々で、今では2、3日に1回は依頼が来るようになったと言う。

【動画】マッチングビジネスの最前線 躍進するココナラの全貌とお得な活用術

食品会社からは新商品の「マカロニ風こんにゃく」を使ったレシピ開発を依頼された。ひと工夫し、出来上がりはこんがりしたグラタンに。こんにゃくだからカロリー控えめだ。

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写真撮影も行い合計19品のレシピを納品。その後、商品販促用の冊子にレシピが掲載された。これで収入が月7万円から10万円に。料理関係の仕事を続けるという希望を叶えた。「ココナラと出会えてなかったら四苦八苦していた。キャリアを諦めていたと思います。ありがたい」と言う。

ココナラは得意な技術を売り買いできる「スキルマーケット」と呼ばれる分野のサイト。企画書作りなどのビジネス代行や、お悩み相談といったプライベート利用まで。出品されているスキルは450種類以上、80万件に上る。

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NISAを使った資産運用の相談は1分100円。結婚式のスピーチの代筆は1500円。「音痴をオンラインレッスンでなおします」というボイストレーニングは60分1万円だ。

サービスの購入者は登録画面に名前やメールアドレスなどの基本情報を入力。登録料は無料だ。次に使ってみたいスキルを選ぶ。これらのやりとりは全てオンライン。出品者に希望を伝えることもできる。

ココナラの収益は双方から得る手数料。出品者は表示価格の22%、購入者は5.5%を支払う。欲しいスキルが手軽に買えると、今や会員は423万人に上る。

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ココナラの本社は東京・渋谷にある。2012年の創業で従業員数は約200人。社長の鈴木歩(41)は8年前にリクルートから転職、その4年後から社長を務めている。

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「あらゆる人に機会を提供したい。これまでだと自分の置かれている環境、年齢、時間、場所によって、一歩踏み出したいのにチャンスがないことがいっぱいあった。そういう方々に、フェアな環境でバットを振れる状態、バッターボックスを提供したいと考えています」(鈴木)

出品者も購入者も急増〜ココナラ大躍進の理由


〇躍進の秘密1〜「安くてお手軽」

以前は専業主婦だった東京・江東区の佐久間真沙子さんは2018年、念願だったカフェ「NIJIYA cafe&dining」を開業した。開業に必要な作業は「ココナラと携帯だけ」でやったと言う。

まずココナラで見つけたインテリアデザイナーに内装のイメージをチャットで伝えた。送られてきたのが完成予想図。料金は1万円と相場の5分の1以下ででき、このデザインをベースに内装を仕上げた。続いてポスターやコースター、メニューなどもココナラを通して発注。費用は相場の10分の1で済んだと言う。

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「困ったらココナラを選択するようにしています」(佐久間さん)

〇躍進の秘密2〜最適な取引相手を選べる

ココナラでは、スキルを売りたい人が出品するだけでなく、買いたい人が募集することもできる。その制度を利用したのが、マンションやビルなどを扱っている東京・新橋の不動産会社「彩」だ。

以前のホームページはありふれた企業紹介だったと言う。しかしコロナ禍に売り上げが減少し、ホームページの刷新を決断。ココナラに予算10万円で募集をかけた。すると20人を超える応募があり、その中から選んだ。

「多くの方が『10万円でできる』と言うのですが、選んだ業者さんからは『10万円だと安すぎて、今後を考えるとあまりよくない』とアドバイスをされた。正直な方だなと思って……」(「彩」部長・坂本大誠さん)

ホームページから案内物件に飛ぶ仕組みも入れた。費用は予算の3倍の30万円になったが、「満足です。ここまでやってくれるのかとびっくりした」と。(坂本さん)会社への問い合わせが5割も増えたと言う。

ココナラは地方に住んでいる人からも頼りにされている。動画制作などを行う都内の会社「P&Pコンサルティング」では、事業拡大に向けて経理のエキスパートを雇おうとしたが、「うちみたいな小さな会社では雇用するのはなかなか難しい」(社長・藤原利也さん)と言う。

継続的な人材をマッチングしてくれる「ココナラアシスト」で紹介されたのが茨城県在住の主婦・河本りえさん。行政書士の資格も持つ経理歴20年のベテランだ。面談を経て、茨城からリモートで業務を行ってもらうことになった。

「地方で専業主婦をやりながら資格を生かせるのは難しい。いい感じでご縁があったと思います」(河本さん)

「想定していたよりもすごい人材が来てくださった。本当に助かりました」(藤原さん)

〇躍進の秘密3〜スキルの質を事前にお知らせ

オンライン取引で不安になるのが購入するスキルの質だが、出品者のページをよく見ると「S」「P」「B」といったマークが付いている。これは出品者のランクで、選ぶ際の目安にもなる。レギュラーからプラチナまで5段階で、販売実績や購入者の満足度など、独自の基準でランクづけしているのだ。

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プラチナ出品者の小澤恭一郎さん(63)のスキルはプラモデルの制作代行。50年来の趣味、プラモデル作りでココナラに登録し、月4、5万円と貴重な収入になっている。依頼人の父親が乗っていたという愛車のプラモデルを制作した時は「お父さんが泣いて感激したらしい。すごくうれしくて僕も涙が出てきて……」と、お金以上の喜びもあった。今や新たな生きがいだ。

ファンの底辺は広がり取引額も急増。この5年で3.5倍の146億円まで伸びた。

「いつでもココナラという場を通じて、社会と接続して自分のスキル・知識・経験を売ることができる。一人一人が自分らしく生きていける世の中を作っていきたいと思います」(鈴木)

「頑張る人を応援したい」〜大赤字からの改革と大勝負


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1982年、東京で生まれた鈴木は、建設業の父親の仕事の関係で幼少期をマレーシアで過ごした。

「マレーシアでは高層ビルの中にショッピングセンターがあってハイブランドの商品を買える世界があれば、町はずれのスーパーに行くと高齢者が物乞いのように『お金をくれ』という看板を出して一日中座っている。機会をもらえた人ともらえなかった人でこうも差があるのか思っていました」(鈴木)

厳しい格差を目の当たりにし、気持ち悪さを感じたと言う。早稲田大学を卒業後は今や3兆円企業のリクルートへ。アルバイト情報誌の編集や結婚情報誌の営業など、さまざまな部署で揉まれた。

転機は33歳の時。人を介してココナラ創業者で前社長の南章行と出会った。南は銀行マンから企業買収ファンドに転じ、2012年に仲間と3人でココナラを立ち上げた。

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「企業買収ファンドの仕事は、買収した先に経営者として入って『いかに売り上げをあげるか』ばかり考えていたのですが、東日本大震災が起きて復興が先になり『売り上げをあげてください』なんて言っている場合ではなくなった。これから個の時代になっていく中で、自分の仕事を見つけるとか、日々の喜びを見つけるとか、そういうことを提供していくいいタイミングではないかというのがありました」(南)

だが、当時はまだメルカリも生まれていない時代。消費者と消費者で形のないスキルを売り買いするビジネスはなかなか理解されなかった。なんとか出資者を見つけてしのいでいく会社運営の中で、2016年に鈴木をヘッドハンティングしたのだ。

「紹介された時にはちょっと運命めいたものを感じました。人生で大事にしてきた『人を応援する仕事がしたい』という部分とものすごく合致するので」(鈴木)

ところが、いざ入社すると厳しい現実が待っていた。集まってくるスキルの半分以上は占いや似顔絵。しかもワンコインで買えるような安いものばかりだったのだ。

「まだまだビジネスとして成立しておらず、大赤字で1年後にはキャッシュが尽きる状態でした」(鈴木)

そこで鈴木は改革に動く。まず、1万円までだった出品価格の上限を撤廃。お金を出しても惜しくない価値のあるスキルが出品されるように変えた。

また、当時のココナラには致命的な弱点があった。

「圧倒的に知られていない。10人、20人に言っても見事なくらい誰も知らない。これを一気に劇的に変えていきたい、と」(鈴木)

そこで鈴木は勝負に出る。ココナラを知ってもらうための全国でのテレビCMだ。資金は全て外から調達し6億円を集めた。成功すれば認知度は一気に上がるが、失敗すれば終わりという大きな賭けだった。ところが、その勝負すらできなくなりそうになる。テレビ局から断られたのだ。

「『ココナラの事業は公共の電波に乗せていいものなのか』『個人間のやり取りでトラブルは起きないのか』と。投資家の方たちには『テレビCMをやるから6億円出資してください』と言っているので、『使えませんでした』とは言えない。焦りました」(鈴木)

そこで当時社長だった南は、全国のテレビ局の営業担当を相手に説明会を開き、理解を訴えって回った。

「『皆さん、トラブルが起きそうだと不安に思っているかもしれませんが、こういう体制を敷いて、こういう仕組みでやっているので大丈夫だ。テレビ局にクレームの電話がいくことはない』と。質疑応答を延々とやりました」(南)

こうして放映にこぎつけたCMで認知度はアップ。アプリも開発し、会員数はCMの前後で6倍に急増した。鈴木は入社から4年後には社長に就任。ココナラを全国区の企業に変貌させた。

大企業も有効利用〜銀行と手を組み中小企業を支援


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ココナラは3年前、東証マザーズ、現・東証グロース市場に上場を果たした。これを機に企業の利用が加速。今や、大企業にも頼られるようになっている。

大手保険会社「あいおいニッセイ同和損外保険」で、デジタルビジネスデザイン部の江口新介社員がココナラのサイトを開いていた。「新しく作るチラシのデザイナーを探している」と言う。

過去にココナラで作った自動車保険のチラシのデザイン料は格安の5万円。しかも「仕事が早い。通常1カ月かかるものが1週間でできる」(江口さん)と言う。

がん保険のプロモーション動画も同様だ。制作会社に頼めば数十万円の費用がかかるところ、約4万円でできたそうだ。

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そんなココナラが新たなプロジェクトをスタートさせた。「みずほ銀行」とココナラが組み合弁会社「みずほココナラ」を設立。鈴木が社長に就任した。

「人材不足や人手不足によって、お客様から『注文に対応できないために受注を控えている』という声が寄せられています」(リテール事業法人部門・宇井昭如副部門長)

みずほ銀行はココナラの人材マッチングを使って、取引先の中小企業を支援しようとしているのだ。担当者は顧客の大きなメリットになると期待する。

「例えば、今まで社長が営業も経理も人事もやっている場合、もしかしたら3つのうち2つをココナラで外注できるかもしれない。そうしたら営業に注力できるので、売り上げや利益が増える。それは銀行にもプラスですし、ぜひ紹介させていただきたいと思っています」(担当・今川陽平さん)

氷室京介やドリカムのCDを手掛ける一流デザイナーも出品


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ココナラの出品者のひとり、グラフィックデザイナーのWatermelonさんがこれまで手がけたのは「氷室京介さんやREBECCA、ドリカム」などのジャケット。トップアーティストたちに引っ張りだこの超一流デザイナーだ。

ココナラで売っていたのはロゴのデザイン。アイスクリームの販売会社から依頼があり作ったと言う。これまでは大企業との仕事が中心だったが、今はココナラでの仕事も楽しんでいる。

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「企業やアーティストの案件だと、その商品を買った人がどう思っているのか、エンドユーザーの声は自分の耳には入ってこない」(Watermelonさん)

ココナラなら「プロってすごいなと思いました」「頂いたロゴと共に歩んでいきたいと思います」といったメッセージが届く。

「全く関わるはずのなかった方々と仕事ができる。面白いですね」(Watermelonさん)

〜村上龍の編集後記〜
一人一人が持つスキルや経験を売買する場であり、プラットフォームを作りたいとEC型にした。ビジネスの開始が出品者にある。価格の決定権も出品者にある。購入者は自分個人の好みの分野で条件に合ったものを買うという仕組みだ。わかりにくいが、システムに入るとすぐに理解できる。膨大な情報がやりとりされているが、個人に限れば1対1のやりとりになる。みんな「ここなら」と信用して、個人で購入する。鈴木さんは「人を応援する仕事がしたい」という思いからココナラを。これほど個人を応援する仕事はない。

<出演者略歴>
鈴木歩(すずき・あゆむ)1982年、東京都生まれ。2006年、早稲田大学卒業後、リクルート入社。2016年、ココナラ入社。2020年、代表取締役社長CEO就任。

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