ものづくりの裏側を取材する連載記事「Behind the Product（ビハインド・ザ・プロダクト）」。第3回目は、手作りの玉子焼鍋や行平鍋で料理界にその名が轟く老舗工房の「中村銅器製作所」より2023年に登場した、アウトドア系サブブランドの「中村銅器Outdoors」第一弾アイテムである片手鍋の「aLSUS 01」です。その誕生と経緯について話を聞きました。
●「家業の鍋を屋外でも使いたい」という夢を形に
連続した槌目模様と注ぎ口を持つ小鍋の「ゆきひら鍋」。平安の歌人・在原行平が、海水を鍋で沸かして海女に塩を作らせたという故事から「行平鍋」とも、雪の模様に似ていることから「雪平鍋」とも呼ばれ、現在ではアルミ素材で作られプロの調理人から家庭料理まで幅広く愛用されています。
そんな、料理の定番鍋をアウトドアでも使えるようにリモデルしたのが、今回紹介する「aLSUS（アルサス） 01」です。
2024年4月にリリースされた「aLSUS 01」は、東京・足立区で100年以上の歴史を持つ老舗鍋工房の「中村銅器製作所」の四代目、中村太輔さんが興したアウトドアブランド「中村銅器Outdoors」が手がける初めてのアイテム。
開発のきっかけについて中村さんは、「子どものころから父に連れられキャンプを楽しんでいました。物心がつく前から鍋作りの現場に出入りしていたせいか、『家業で扱う鍋をアウトドアでも使ってみたいな』と、ずっと考えていたんです」と話します。
アウトドアギア化するための最大のハードルは、鍋の取っ手（ハンドル）。使いやすい片手ハンドルは行平鍋のアイデンティティでもありますが、パッキングには不向き（当たり前です）。
「取り外し式ハンドルならキャンプに持っていくのになぁ」という料理好きも少なくないはず。
そんな料理大好き系アウトドアファンを満足させるべく、中村さんは脱着式のハンドルのデザインを模索します。
「鍋の形状は“中村銅器らしさ”を崩したくなかった。そこで、代々受け継いできた伝統的な厚さ2mm・直径18cmの行平をベースに、携帯性を高めるため、ステンレススチール製の丸棒で別体ハンドルを作ることにしたんです」（中村さん）
様々な太さのステンレススチール棒から、直径5mmがハンドルに最適とたどり着いた中村さん、自作の曲げ機で納得のいくハンドルをデザイン化するのに1年近い歳月がかかったのだそうです。
そうして誕生した「aLSUS 01」は、洗練された鍋とハンドメイドのステンレススチールハンドルが絶妙にマッシュアップされ、使い勝手も携帯製も高いアウトドアギアとなりました。
注ぎ口がついているのでケトル（やかん）使いも便利。筆者は紅茶をスパイスと一緒に煮立てるチャイをアウトドアで楽しみますが、凝った料理を作らないデイキャンプでもかなり便利そう。
仕上げはポリッシュ（艶出し）とマット（艶消し）の2種類を用意。使い勝手はもちろん、鍋肌を飾る独特の槌目模様が物欲を刺激します。
「槌目は美観だけでなく、規則正しく模様を叩くことでアルミニウムの配列が分子レベルで整って、より強度が高まるんです。蜂の巣でお馴染みのハニカム構造と似た理由だと聞いています」（中村さん）
というわけで、鍋とリッド（フタ）をセットで購入し、自宅で肉じゃがを作ってみたところ、やはり使いやすい……。特徴的なワイヤーハンドルは外れることなく、アルミ鍋特有の熱のまわりのよさで、ふっくらコゲつくことなく仕上がりました。
実際に調理してみてわかったのが、リッド（フタ）の大切さ。当然ながらぴったりサイズで注ぎ口との隙間も狭いため炊飯もできました。本体と同時購入を強くオススメします。
18cmは容量約1.5リットルで、カレーなら四人前は余裕で調理できます。炊く・茹でる・煮るだけでなく、揚げ物にもよさそう。すき焼きやおでんなんかにも試したくなる、愛着を持って長くつき合えそうな和製アウトドアクッカーに仕上がっています。
そして「aLSUS」には、一回り小さな15cmモデルの「aLSUS 00」も用意。ソロキャンで充実した料理を楽しみたいならよりコンパクトな「aLSUS 00」が良さそうですし、18cmの「aLSUS 01」と重ねてスタッキングできるのも見逃せません。
基本的には受注予約生産のほか、足立区のアウトドアセレクトショップ「ロビン アウトドア ベース」などの取り扱い店で少量販売するとのこと。
「中村銅器Outdoors」では現在、アウトドア用フライパンのプロトタイプ作りの真っ最中。「鍋と違ってフライパンはゆすって調理するので、ハンドルにもうひと工夫したくて……」と笑う中村さん。
新作の登場が今から楽しみな「中村銅器Outdoors」は、古くて新しい注目のアウトドアブランドなのです。
●製品仕様
・製品名：aLSUS01
・価格（メーカー直販）：8000円（鍋、ハンドル）、9800円（リッドセット）、1万2350円（鍋、ハンドル、リッド、レザーハンドルカバー）
・サイズ（鍋本体）：直径180mm、約68mm、厚さ2.0mm
・容量：約1.5L
・重量：鍋290g、取手75g
・仕上げ：アルミポリッシュ（艶出し）orアルミマット（艶消し）
＊上記価格はメーカー直販価格です
＊受注予約生産
＊注ぎ口はオプション（+500円）で両ロも可能
＊IH非対応
