国内有数のクマガイソウの自生地、福島市の鎌倉山で「クマガイソウの里まつり」が開かれている。開催のきっかけは盗掘の被害。多くの人たちが訪れる名所にすることで盗まれにくくし、希少な山野草を守りたい――。地元のそんな願いから始まり、まつりは今年で20回目を迎えた。

 ラン科のクマガイソウの花は、薄紫の模様が入った白色の袋状の花弁が特徴。平家物語に出てくる熊谷直実(くまがいなおざね)が、矢から身を守るのに背負った「母衣(ほろ)」に似ていることから名前がついたという。

 鎌倉山は、JR福島駅から車で40分ほどの約370世帯が暮らす松川町水原にある。狭い山道を登った標高500メートル近い斜面にクマガイソウは広がっている。

 「去年は3千人が訪れてくれた。県外からの人が多く、沖縄からの夫婦もいた」。案内役を務める「水原の自然を守る会」副会長の加藤修一さん(60)は言う。

 開花は5月の2週間ほど。地元の生産森林組合の所有地にあり、一般の人が立ち入れるのは、まつりの時期だけだ。

 存在がわかったのは26年前のこと。加藤さんの父の故・三郎さんが狩猟中に見つけた。約3千株が群生していた。

 「昔は屋根に用いた茅(かや)を刈る『茅場』だった」と加藤さん。その需要がなくなり、1970年代にスギの植林が始まった。持ち込まれたスギの根にクマガイソウの種子がついていたのか、鳥が運んだのか。「理由はわからないが、自生が始まった」と加藤さんは説明する。

 かつては国内の多くの地域で見ることができたが、宅地開発や園芸目的の乱獲などで激減。県は2002年に、絶滅の危険にひんしている種に指定した。千株を超える自生地は国内で3カ所まで減っていた。

 希少さからか、鎌倉山で盗掘が相次ぐようになったのは、そのころだ。当時、1株に2千円前後の値がついた。「自然を守る会」を地元に立ち上げてメンバーが監視をしたり、群生地を有刺鉄線で囲ったりしても被害は絶えなかった。

 「ひそかに保護するより、みんなが見られる『開かれた保護』に切り替えよう」。会の中で、そんな意見が出始めた。反対の声もあったが、03年に1回目のまつりを開いた。

 ところが、翌04年。2カ所が掘り起こされ、500株が盗まれてしまう。でも、会のメンバーたちは一般公開をやめなかった。東日本大震災やコロナ禍で中断した年もあったが、続いてきた。

 クマガイソウはいま、発見当時の10倍を超す3万7千株にまで増えた。

 加藤さんは話す。「おやじたちが何とか残そうとしたクマガイソウを自分たちの代でも守っていきたい」

 今年のまつりは3日に始まり、いまが見ごろだ。(岡本進)