PRESIDENT Online 掲載

■ほかの検査結果はすべて正常値で、原因がわからない

「むくみがあるんです」

神保町代謝クリニックに初診で訪れた60歳女性は、益子茂医師にそう言った。女性に生活習慣病などの基礎疾患はないものの、益子医師はいつも通り、基本的な検査を行った。すると数日後、検査所から「血清クレアチニンが異常値を示しています」と連絡があったのだ。腎機能を調べる指標の血清クレアチニンは、男性では1.09mg/dL、女性では0.82mg/dL未満が基準値であるが、その女性は基準値を大きく上回る5mg/dLだった。透析導入を検討しなければならないほどの値である。益子医師はすぐに女性患者に連絡をとり、クリニックに来てもらった。

「腎臓の機能が落ちているので、その原因を特定しなければなりません」

と説明し、膠原病、溶連菌感染症、IgA腎症など、可能性のある疾患の検査をひととおり行った。しかし、どれも引っかからない。

「それで薬の副作用を疑いました」と益子医師は振り返る。

「持病がないと言っていましたから、『一時的にでも整形外科などの医療機関で処方薬をもらっていないのか』と尋ねても、『特に他の病院にはかかっていない』と言うのです。カルシウムの値だけが多少正常域をオーバーしていたものの、ほかの検査結果はすべて正常値。けれどもこの血清クレアチニンの値は放っておけないので、透析導入を前提とし、連携している総合病院に紹介をしました」

■骨粗しょう症改善のため「カルシウム」と「ビタミンD」を摂取

女性はそれまで大きな病気を経験していなかったためか、「透析」と聞いてもピンとこないようだったという。「はあ、とにかく行けばいいんですね。わかりました」と言ってクリニックを後にした。

それからしばらくして女性患者が病院での報告をしに来院した。紹介先の病院のほうからも「透析を導入する。それに伴って来週シャント手術(透析に必要な血液量を得るため、動脈と静脈をつなぎあわせる)を行います」とのこと。しかしやはり原因疾患がわからない。益子医師は気になったので、女性患者に電話をして「市販薬など自分で判断して飲んでいるものはないのか?」と尋ねると、今度は思い当たったように、「ビタミンDとカルシウムのサプリメント(以下、サプリ)を飲んでいます」と答えたのだった。

日本医師会らが監修する『健康食品・サプリ「成分」のすべて ナチュラル・メディシンデータベース』(同文書院)によると、血液中のカルシウムが正常範囲を逸脱すれば高カルシウム血症を起こし、最悪死に至る場合もある。そしてビタミンDの摂取により高カルシウム血症が悪化したり、腎疾患を引き起こしたりするリスクが記されている。女性は骨粗しょう症改善の目的で「カルシウム」と「ビタミンD」のサプリを摂取していたようだが、過量になれば改善どころか相互に悪影響を及ぼすということだ。

益子医師は、来週シャント手術を控えているような状況で、今からサプリ摂取をやめたところで何も変わらないかもしれないと思った。それでも、「とにかく今日からサプリ摂取をやめてください」と女性患者に話したという。彼女は納得し、サプリを止めることを承諾した。