「君と宇宙を歩くために」泥ノ田犬彦/講談社

 高校生でヤンキーの小林は、勉強もアルバイトもうまくいかず長続きしない日々を送っていた。そんなある日、彼のクラスに宇野という少年が転校してくる。言動が変わっている彼を最初は「ヤバいやつ」と思っていたが、あることがきっかけで宇野の生き方に引かれ、やがて自分も変わろうと頑張ってみるが…。

 小林の悩みは、アルバイトをしては失敗続きで長続きしないこと。簡単なこともできない自分に劣等感を抱いていた。一方の宇野は、記憶することは得意だが、複数のことを同時に行ったり、臨機応変に対応したりすることが苦手。焦っても対応できるように、命綱としてのノートを持ち歩きながら生活している。正反対に見えて、実は生きづらさを抱えている共通点が、2人をつないでいく。

 分からないことがあったとき、怖くて恥ずかしい気持ちになり、まっすぐに歩けない…。そう吐露する宇野は、高らかにこう言い切る。「でも僕は宇宙を歩きたい!」

 タイトルにもある“宇宙”とは「普通」が求められるこの世の中のこと。宇野や小林のように、日常生活のハードルが高いと感じている人は少なくないだろう。誰もが暮らしやすい社会のあり方を考えさせられる作品だ。彼らなりに“宇宙”を歩くために、時に笑い、時に悩みながら奮闘する姿に胸が熱くなる。

 『マンガ大賞2024』の大賞受賞作。歴代の大賞受賞作には、『葬送のフリーレン』(小学館)などがある。2巻は5月22日に発売予定。(講談社/946円)

(コンテンツ部・池田知恵)