今週のPGAツアー、「CJカップ・バイロン・ネルソン」は、地元テキサス州出身のスコッティ・シェフラー(米国)が初産を控えた愛妻に寄り添うために欠場し、ジョーダン・スピース(米国)が予選落ちとなったことは期待外れだったに違いない。しかし、そんな地元のビッグスター不在を補うかのように最終日を盛り上げたのは、初優勝を狙う選手たちだった。


今季ルーキーの久常涼と今大会にスポンサー推薦で出場した蝉川泰果は、どちらも最終日にスコアを7つ伸ばし、蝉川はトータル18アンダーで9位タイ、久常は13位タイ。2人とも大健闘だったと言っていい。

日本の女子ツアーでは15歳の韓国のアマチュアが優勝したばかりゆえ、今大会で英国のアマチュア、クリス・キムが、この11年で大会史上最年少となる16歳で予選通過を果たしたと言っても、あまりインパクトが無いように感じられるかもしれない。

だが、大人のプロたちでも、なかなか実力発揮も攻略もできない難セッティングのPGAツアーで、そんな大人たちを押しのけて16歳のアマチュアが予選を突破したことは、文句なしに素晴らしかった。

キムは最終的には65位となったが、4日間を戦い抜き、自分はこのPGAツアーで「しっかり戦えた」と実感できたことは、彼にとって今後の何よりの糧になる。

さて、最終日は「なかなか実力発揮も攻略もできなかった大人のプロたち」が夢にまで見た初優勝を目指す熾烈な戦いとなり、終盤はテイラー・ペンリス(カナダ)とベン・コールズ(米国)という2人の選手の戦いへと絞られていった。

ペンリスは2位に1打差の単独首位、コールズは2打差の3位で最終日を迎えた。

ペンリスは32歳のカナダ人選手で世界ランキングは107位。コールズは34歳の米国人選手で世界ランキングは139位。2人ともショットが冴え、パットも次々に沈め、これだけの技術がありながら、なぜ彼らは未勝利なのだろうかと思えるほどの好プレーを披露し続けていた。

しかし、その「なぜ」の答えは、まさに勝負どころのメンタル面にあることを、2人の上がり3ホールの戦いぶりが示してくれたように思う。

昨季の米下部のコーン・フェリーツアーでポイントランキング1位となり、「プレーヤー・オブ・ザ・イヤーにも輝いたコールズの最終日のゴルフには勢いがあった。とりわけ16番、17番の連続バーディでペンリスを追い抜き、単独首位で最終ホールを迎えるまでの追撃は本当に見事だった。

だが、18番(パー5)では2オンに失敗してグリーン手前のバンカー際のラフにつかまり、第3打は大ダフリして目の前のラフへ。スタンスはバンカーの中にしか取れず、不安定な足場からの第4打はピン1.2メートルに上手く寄せたものの、パーパットを沈められず、“最後の最後に”ボギーを喫した。

この日、この18番でボギーを叩いたのは、唯一、コールズだけだったことを考えると、彼にとっては悔やんでも悔やみきれない痛恨のボギーだったはずである。

一方、ペンリスはコールズが連続バーディを奪った16番、17番は、どちらもピンチをパーで収め、必死に耐えていた。そして、2位に後退して迎えた最終ホールで持ち前の飛距離を生かして2オンに成功。ピン12メートルからのイーグルパットを50センチに寄せ、しっかり沈めたバーディパットがウイニングパットになった。

ペンリス母国で開催される今年9月に行われる世界選抜と米国選抜の対抗戦、プレジデンツカップに「どうしても出場したい。そのためには優勝してランキングを向上させなければ」と願い、その可能性を一気に増大させた。

それでも、優勝インタビューでは72ホール目で崩れたコールズを気遣い、「彼はきょう、本当にいいゴルフをしていた。彼が今、どんな気持ちかが僕には想像できる」という具合に、何度もコールズに言及していた。

なぜならペンドリスも、この日のコールズと同じように、勝ちかけて最後の最後に負ける悔しさを何度も味わってきたからだ。

「でも最後の最後に僕はいいバーディーを獲ることができた。自分が優勝したなんて、まだ信じられない」

最後の最後まで何が起こるかわからない。だからこそ、ゴルフは難しく、そして面白い。PGAツアーらしいサンデー・アフタヌーンのドラマだった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)


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