東日本大震災では、数多くの文化財も被災した。文化庁が呼びかけた「文化財レスキュー」事業で救出した美術品は修復後、地元に次々帰った。宮城県石巻市開成の市博物館がそれらを集めた展覧会を開いている。5月6日まで。

 石巻ゆかりの作家、著名な彫刻家らの油絵やスケッチ、彫刻といった38点が館内に並ぶ。このうち36点は被災して修復後、初披露となる。

 いずれも市出身の洋画家、芦名忠雄(1916〜95)の「港」、千葉精三(1909〜92)の「三田慶大前」、芳賀仞(たかし)(1909〜63)の「荷を負う人」の油絵3点は、地元に戻った最後の作品だ。東京芸大で修復を終えたのは昨年6月で、修復後、初めて展示することになった。

 津波にのまれた絵画は、砂や製紙工場から流れてきた紙原料のパルプが付着。レスキューが綿棒で汚れを取り除くなどしてきれいにした。

 中には、収縮して絵の具が浮き上がったり割れたりした画布をいったん取り外してアイロンで伸ばして修復したものもある。裏面の作者や制作年を書き込んだラベルがはがれかかったものは、和紙で裏打ちして貼り直した。展覧会では、こうした被災や修復の状況も説明している。

 市出身の彫刻家、高橋英吉(1911〜42)の木彫「少女と牛」は少女の左足が欠けた。砂やパルプは取り除いたが、欠けた部分はそのままで展示している。「震災による傷跡や損傷は、作品の経た歴史の一部」という考え方に基づいている。

 美術品や考古資料、民俗資料を収蔵していた石巻文化センターは海岸から200メートルのところにあり、2011年3月の大震災の津波で1階が床上3・3メートル浸水し、学芸室や収蔵庫が被災した。

 震災後に「文化財レスキュー」を立ち上げた文化庁は、全国の美術館や大学の専門家の支援を受け、文化財を次々救出し、修復作業に着手。手がけたのは美術作品だけでも計246件に及んだ。センターの後継施設となる市博物館は21年11月に開館した。

 小野雄希学芸員は「被災した作品として、あわれむような目で見るのではなく、今の姿を鑑賞してほしい。そして震災や、被災した文化財があったこと、その修復過程にも思いをはせてほしい」と話す。

 展覧会は入場無料。月曜休館(月曜が祝日の場合は翌日休館)。(柳沼広幸)