第81回目のモナコGPとなった2024年F1第8戦決勝では、スタート直後に立て続けて3件のアクシデントが起きた。

 まずターン1(サン・デボーテ)で2番グリッドスタートのオスカー・ピアストリ(マクラーレン)と、3番グリッドスタートのカルロス・サインツ(フェラーリ)が接触。サインツは左フロントタイヤをパンクし、ピアストリも車体にダメージを受けた。

 2件目は、エンジン全開で駆け上がるボー・リバージュでの多重クラッシュだった。セルジオ・ペレス(レッドブル)の右サイドから、ケビン・マグヌッセン(ハース)が強引にねじ込み接触。2台の真後ろにいたニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)も巻き添えを食って、3台がリタイア。レッドブルのマシンは大破したが、幸いペレスに怪我はなかった。

 そして3件目は、トンネル前のターン8(ポルティエ)。エステバン・オコン(アルピーヌ)がピエール・ガスリー(アルピーヌ)の右サイドから仕掛け、行き場を失ったガスリーの右フロントタイヤとオコンの左リヤタイヤが接触。オコンのマシンは大きく跳ね上がり、赤旗提示中に自力でピットに戻ったもののそのままリタイアとなった。

 「あいつはなにをしてるんだ! なんのつもりなんだ、なぜ僕にアタックしてくるんだ!」とガスリーは無線で怒りを露わにした。

 同じフランス人ながら育成時代の確執から、ふたりは今も決して仲がいいとは言い難い。そんな関係性を抜きにしても、ガスリーの怒りは十分に理解できるものだった。

 そしてこれら3件のアクシデントに対して、レーススチュワード(審査委員)はそれぞれ異なる判断を下した。

 1件目のサインツとピアストリの事故は、「お咎めなし」の裁定。そして3件目のガスリー、オコンの同士討ちについては、オコンに非があるとして、次戦カナダGPでの5グリッド降格が決まった。一方でボー・リバージュでの多重事故に対してはまったく言及がなく、レースは赤旗中断を経て再開へと至った。

 特にモナコのようなコースではスタート直後はただでさえ事故が起きやすく、一方に余程の失態がない限り、レーシングインシデント(レース中に起きたやむをえない事故)として不問に付すことが多い。

 ボー・リバージュでの多重クラッシュについてもスチュワードは、『マグヌッセンは強引だったが、ペレスもスペースを空けるべきだった』と考えたのだろう。しかしボー・リバージュでは、その先に控えるターン3(マセネ)の高速左コーナーに全神経を集中させる。右後方から迫ってくるマシンをミラーで確認する余裕などなかったはずで、マグヌッセンのドライビングが楽天的すぎたと個人的には思う。

 マグヌッセンは今季ここまで何度も物議をかもすドライビングを繰り返し、出場停止寸前までペナルティポイントが溜まってしまっていた。しかしこれで、“出場停止”という最悪の事態はとりあえず免れたことになる。

 一方でマグヌッセンがあそこで無理に仕掛けていなければ、ハースの2台が一瞬にして姿を消すこともなかった。車体の修理費用も、莫大なものになるだろう。マグヌッセンのチーム内での立場が、かなり悪くなってしまったことは間違いない。

 いずれにしてもこの1周目の事故による赤旗中断が、結果的にシャルル・ルクレール(フェラーリ)をはじめとするドライバーたちに、極限までのタイヤマネジメントを強いる状況を生み出し、多くの車両が78周のうち76周を1セットのタイヤで走り切らざるを得ない、かつてない我慢のレースを現出させた。それでもファイナルラップまでレースの行方は誰にも見通せず、観ている僕たちの緊張の糸も途切れることはなかった。これもまたモナコGPの魔力なのだろう。