【外食業界のリアル・9】 外食業界ではコロナ前と同水準以上に客足が戻りつつあるが、顧客が飲食店に電話をかけてもつながりにくいということも増えてきている。一方、人手不足などのさまざまな要因があって店側も電話を取りたくても取れない状況もある。今回は、飲食店がなぜ電話を取れないのかについて語りたい。

●飲食店にどんな電話がかかってくるのか


 飲食店には日々、さまざまな電話がかかってくるが、大きく分けると「お客様」と「関係者」「その他」からの三つとなる。
 「お客様」からの電話が最も多い。が、内容も多岐に渡る。一番イメージしやすい「新規予約」は、実は全体の中でも3〜5割程度であって「既存予約の変更・キャンセル」もそれなりにかかってくる。時間変更や人数変更もよくあるし、コースのオプションや鍋の種類などが予約時には保留となっており、後日その連絡をするために電話をかけてくることも多い。
 店舗の営業が始まった後では、立地条件によっては「道案内」もかかってくる。「道案内」はこれから来店する顧客からの連絡であり、大切な電話なのだが、スタッフからすると拘束時間も長く、出たくない電話の一つでもある。また携帯電話や傘などの「忘れ物」も想像以上にある。「忘れ物」は保管をしたスタッフと電話で回答する者が同じではないこともあり、店舗内での情報共有をしっかりとしておかないとトラブルに発展する可能性もある。
 「関係者」は、店舗で働くスタッフからの連絡が多い。体調不良や電車遅延などの連絡をするために必要なのだが、「お客様」と同じ電話だと区別がつかないため、一般公開している電話番号とは別に回線を用意することも多い。通称、「裏番」とも呼ばれるものである。コールセンター業務をアウトソーシングしている場合にも、「裏番」を使用するケースがある。
 「その他」に該当するのは、さまざまな業者からの営業電話となる。飲食店向けの各種サービスの売り込みはもちろんのこと、ネット回線や節電や節水など、さまざまな営業が各社からくるのである。
 店舗のスタッフとしては「その他」の電話を出ずに、「お客様」からの電話のみに注力したいところであるが、電話に出てみないと誰かが分からないのが課題となる。ちなみに、店舗が忙しい時間帯に営業電話をかけてしまうと、「飲食店のことを何も理解していない」とお叱りを受け、商談に至らなくなる。

●なぜ飲食店は電話に出られないのか


 電話対応は飲食店の売り上げにも直結する大切な業務であるが、電話に出られない店舗が増えている理由は「忙しくて出られない」「店舗に人がいない」の二つに集約される。
 飲食店では接客しているときに電話が鳴っても、目の前の顧客を無視して電話に出ることはできない。そのため19時〜21時ぐらいの顧客が多い時間帯は電話に出にくいのが実情だ。人手不足が深刻化している今、電話専用の人員を確保することも難しく、特に繁忙時間帯の電話はつながりにくい。
 また、17時〜19時あたりはよく電話がかかってくる時間帯となる。当日の予約をしようと思って店舗に人がいると思われる夕方以降で掛けてくるケースが多いからである。そこで問題となるのが、電話の同時通話数だ。店舗で複数回線を用意して同時に電話が出られるようにしているのは稀であり、そのため店舗で電話をしている間は他の人と電話をかけてもつながらなくなるのである。
 飲食店ではランチ有無によって、「店舗に人がいない」時間帯が変わってくる。ランチをやっている店舗では昼前からスタッフが店舗にいるため、昼前後から夕方に電話をかけてもつながりやすい。しかし、ディナーのみの店舗だと15時過ぎぐらいから仕込みなどの準備のためにスタッフがくることになるため、それまでは電話がつながりにくい。
 かつては店長やマネージャーが24時間365日、携帯電話を持って電話を受けていた時代もあったが、最近は労働時間問題などもあって避けられるようになっている。店舗が電話に出られないときは本部に転送することもあるが、同様に人手不足で解決には至らないことも多い。そのため、顧客からの電話がつながりにくいのである。

●電話に関する対策事情


 飲食店は電話に出られないとそのまま売り上げが落ち込んでしまうため、さまざまな対策を施している。例えば電話自動応対と呼ばれるIVR(Interactive Voice Response)を導入して、要件をプッシュ通知で選択してもらうことで電話を分岐させて、店舗にかかってくる電話を限定させるのである。
 「〇〇の場合は1を、□□の場合は2を…」と音声ガイダンスが流れて顧客が選択していくのだが、クレジットカードや携帯キャリアなどのコールセンターではよく導入されているものだ。最初に電話の用途を確認して、該当するものだけを店舗に転送させて、それ以外のものは折り返し連絡にしたり、アナウンスを流したりするわけである。店舗にかかってくる電話が減るという効果はあるものの、転送された電話を店舗が出られないと逆効果にもなるため根本解決には至らないことも多い。
 近年では人手不足の解決手段としてAIコールが選ばれることも多いが、仕組みとしてIVRに近い。AIが代わりに24時間365日で電話対応をしてくれるわけだが、現段階ではAIが対応できるものが新規予約など電話の中の一部だけであり、結局、店舗に転送されてしまうのである。
 そのような背景もあって、飲食店では予約は電話ではなくネットでやってもらうのがありがたい。グルメ媒体やオウンドメディア、Googleなどから「ネット予約」のボタンをクリックすると、専用のフォームが表示されてそこからコースや個人情報を入力してもらうわけである。
 グルメ媒体によってはネット予約特典としてポイントを付与するなどの付加価値を付けることで利用を促している。店舗としては手数料が発生するため避けたいところであるが、人手不足の中で売り上げを伸ばすためには背に腹は代えられないところである。
 とはいえ、ネット予約も万能というわけではない。店舗の設定によっては、当日予約が取れなくなってしまうため、顧客は電話せざるを得なくなってしまうのである。

●電話に関するお願い


 最近の若者は電話をかけるのが苦手で、できるだけ使いたくないという話もよく聞く。しかし店舗側とさまざまな交渉(値下げや貸し切りなど)や確認をするためには電話が一番であるし、急ぎの場合は電話するのが確実だ。そのときは繁忙時間であればつながりにくいこと、ランチをやっていない店舗ではお昼はつながらないことがあることもご理解いただきたい。飲食店が電話業務をアウトソーシングしてコールセンターで対応している場合、店舗に確認をしないとすぐに回答できないことがあることを留意いただけると幸いである。(イデア・レコード・左川裕規)