「迫害から逃れて来日したものの、どこからも支援を受けることができず、公園で野宿している外国人がいる」

「仮放免は認められても、住む場所がなく、ホームレスになっている外国人もいる」

取材をする中で、個人の支援者から聞き及んでいたこうした話を裏づけるように、生活困窮者を支援する団体が共同で実施した「仮放免者住居調査報告書」(*)で、仮放免者の5人に1人が路上生活を経験していることがわかった。

世界的に「安全で平和な国」といわれる日本で、なぜ彼・彼女たちはこうした厳しい生活を強いられているのか。

生活に困窮する外国人を支援する北関東医療相談会(AMIGOS)や、つくろい東京ファンド(つくろい)のスタッフとして活動し、上記の「調査報告書」をまとめた大澤優真さんに仮放免者や難民申請者を取り巻く状況について聞いた。

●支援の継続が「限界」に近づきつつある

「仮放免者の生活は以前から困難でしたが、今は彼・彼女たちを取り巻く環境が変わっています」

仮放免者(一時的に収容施設での拘束を解かれた人)や難民申請者がホームレスへと追い込まれる要因をたずねると、大澤さんはそう言って、こう続けた。

「2020年春からのコロナ禍で、入管が収容の運用を見直したことで、仮放免となる人は一気に増えました。その後、パンデミックが収束し、入管の収容者は多少増えてはいるものの、コロナ前ほどではなく、ほとんどは仮放免の状態が続いています。

もちろん収容が解かれるのは良いことです。しかし、働くことも、社会保障も受けられない状況で外にいる人たちは、誰かの助けがなければ生活できません。

その状態が3〜4年続き、仮放免の人たちは大変だからと、これまで援助を続けてきた支援者たちも、経済的に限界になりつつあります。最近、私のところには、家賃を払えない、食料がないと困窮する当事者だけでなく、個人の支援者からの相談が増えています」

仮放免者のために、家族にだまって部屋を契約して、家賃を払い、治療費を援助してきたけれど、そのことを家族に知られ、活動をやめるように迫られた人や、領収書のある分だけでも、支援活動に数十万円を費やしている人。

自分ができることをしなければ、仮放免者が路上に放り出されてしまうからと、家探しから家賃・食料援助までおこなう支援者の負担は小さくない。

「お世話になってきた無低診(無料低額診療。生活困窮者の医療受診を支援する制度)の病院も、以前は全額対応してもらっていましたが、最近は経営の問題から3割、7割の自己負担を求められています。無低診の条件が厳しくなっているため、仮放免者はこれまでのようには病院に通えなくなっています」

●毎週70〜90件に上る、当事者からの相談

大澤さんが、AMIGOSやつくろいを通じて支援している外国人は100世帯以上。彼・彼女たちからの相談件数は毎週70〜90件にのぼる。家賃のこと、医療のこと、食糧支援、日本語教育、入管に関することまで、その内容は多岐にわたる。

「医療が必要なときだけ連絡してくるという人もいるので、アクティブに関わっている人はもう少し減りますし、私だけでなく、他のスタッフと一緒に活動していますが、相談者は36の国と民族と、多国籍に及びます」

彼・彼女たちはどういう経緯でホームレスになるのか。

「難民申請した直後が多いです。まだ入国して間もない時期で、在留資格もなく、アジア福祉教育財団 難民事業本部(RHQ)の支援を受けられない人たちが、ホームレスになってしまうのです」

RHQは日本政府の委託で難民支援をしている。だが、申請後、生活費や住居費の支援が認められるまで、審査期間は数カ月かかる。それでもRHQの支援が決まるまで何とかしのいで、特定活動が出れば就労が認められるので、将来の展望がある。厳しいのは、仮放免が長期間に及んでいる人たちだと大澤さんは言う。

「難民申請が認められず、特定活動という在留資格が切られてしまって入管に収容された人の場合、仮放免が認められても保証人を頼ることができず、家もないため、友人や知人の家と路上を行き来しています。ほかにも病気で入院していたけれど、退院時に行く当てがなく、ホームレス生活を送っているというケースもあります」

収容施設では、入管が"自由時間"としている6時間半以外、部屋は外から施錠されている。運動時間は三方を柵で囲まれた屋外で1日40分。外の景色を見られない収容環境の下、多くの人が心身を病んでいることは支援者にとっては周知のことだ。

「収容と健康状態の因果関係について、医学的にはっきりさせるのは難しいかもしれません。ただ、メンタル面での影響はやはり大きいと思います。

収容中に職員から制圧を受け、訴訟を起こしている方2名を精神科につないでいますが、その方たちは青い制服姿の人を見ると『入管の人でしょう』といって震え上がります。

外に出て3〜4年経ち、ようやく落ち着きを取り戻しつつありますが、逆に言えば、入管内でそれだけいろいろあったということでしょう」

●疾患を持ちながら路上生活する仮放免者

調査からは、仮放免者の半数以上が自分や自分の家族以外の、友人や支援者の名義で、家を借りていることも判明している。だが、他人の名義で家を借りることや、誰かの家に身を寄せることにはさまざまなリスクがある。

「ある女性の仮放免者は、保証人になってもらった男性から『自分の家に来れば』といわれ、ホームレスにならずにすむならと、その男性の家に行きました。ところが、ある時期から男性は彼女に性的関係を強要するようになったそうです。

また、保証人になってもらっていた女性の家に同居していた仮放免の男性は、ふたりの関係が壊れたとき、暴力をふるわれ、私物を女性に持って行かれた上、一時的にホームレスになりました。

保証人の機嫌を損ねれば、ホームレスになってしまう。そうならないためには自分が望まないことも受け入れざるを得ない。これはDVと同じ権力構造です」

公的なセーフティネットの蚊帳の外に置かれている仮放免者の立場は弱い。上記の例のように、女性だけでなく男性も、DVや性的ハラスメントのリスクに晒されている。

今後、ホームレスになる外国人は増えていくのか。

「その可能性はあると思います。生活保護を受けられる外国人は永住者と定住者、日本人や永住者の配偶者などで、技能実習や特定活動(一部をのぞく)の在留資格では、生活保護を受けることができません。そして日本政府が増やそうとしているのは、就労に紐づけられた在留資格の外国人です。

今、日本人でも一定数の人が生活に困窮していますが、母数が増えれば、貧困者の数は増えます。今までも仮放免の人たちは誰かに助けられてきましたが、数が増えれば支援するのも厳しくなり、友人・知人宅と路上を行き来することになります。職場から逃げ出した技能実習生がまさにそうです。

コロナ禍では、みなさんの寄付や一部の助成金で何とかしてきましたが、今は物品もなかなか集まりません。つくろいでも食糧支援の量を減らさざるを得なくなっています」

支援団体にとっても厳しい状況下、つくろいでは今まさに、リスクの高い疾患を抱えながら、数カ月間のホームレス状態が続いている仮放免者の支援に向けて動いている。

「路上生活をしていたその男性は一時、医療機関につながり入院したものの、医療費を払えず病院を出されてしまった後、つくろいと関連団体が月に一度、開催している相談会に見えました。男性は病院から1週間分のインスリンをもらっていたものの、その後、薬を処方してもらうあても住む場所もない状況でした」

路上生活を続けられる健康状態でない男性は、相談会に訪れる以前、みずから入管に足を運んだという。だが、入管は再収容しようとせず、男性はふたたび路上に戻ったという経緯がある。

「糖尿病を罹患しているのに、横になって休むこともできない男性をこのままにはできません。安心して布団で眠ってもらえるよう、まずはどこか屋根のあるところに移れるように動いています」

●仮放免者の実情を可視化する

調査報告書によると、調査回答者の85%が帰化要件の5年以上、66%が永住許可要件の10年以上、日本に住んでいる。また、86%が働ける年齢層で、就労を望んでいる。

だが、仮放免者は「働くこと」も「健康保険に加入すること」も「事前に入管に申請しなければ所在地の県境を越えること」もできない。

「関係者は、仮放免者が大変だとみんな知っています。でも、一歩外に出ると、福祉関係者でも仮放免者の現状を知りません。

講演などで事例をお話すると、『働けない? 社会保障もない? それでどうやって生きていくの?』と問題を理解してもらえますが、裏付けがないと『かわいそうだね』で終わってしまいます。

調査してデータ化したのは、仮放免者の実情を可視化するためです。最終的に国連から勧告も出たので、この取り組みは間違っていなかったと思っています」

政府は働き手としての外国人は求めるものの、家族の帯同や長期の在留は望んでいない。特定活動などで在留する人たちは、たとえ劣悪な就労環境であっても、そこから逃れて在留資格を失えば、何の社会保障も受けられない。

「ヨーロッパでは、極右が日本の入管を見習おうとするなど、外国人を排斥する国として世界的に日本が知られるようになっています。難民・非正規滞在者の問題は、日本に留まらない世界的な問題です。

しかし、日本だからこそできることもあると思っています。外国人支援には大学生や会社員、自営業の人たちなど、福祉関係者ではない一般の人たちが関わり、それぞれできることをやっています。そこに希望や光を感じています」

(取材・文/塚田恭子)

(*)仮放免者住居調査報告書・・・北関東医療相談会(AMIGOS)、ビッグイシュー基金、つくろい東京ファンド(つくろい)が共同で実施した。下記URLから閲覧できる。
https://bigissue.or.jp/wp-content/uploads/2023/12/karihoumentyousa.pdf

【プロフィール】おおさわ・ゆうま/1992年千葉県出身。社会福祉士、大学非常勤講師。(社)つくろい東京ファンド・スタッフ、NPO法人北関東医療相談会・理事、移住連・運営委員として、外国人支援に携わる。著書に、日本における移民の福祉という視点で外国人の生活保護を調べた『生活保護と外国人――「準用措置」「本国主義」の歴史とその限界』(明石書店)がある。https://twitter.com/yumananahori