「結婚の社会学」 [著]阪井裕一郎

 では、問題。次は〇か×か。⑴結婚しない人が増えると少子化が進む。⑵女性の就労率が上がると出生率が下がる。
 答(こたえ)はどちらも×。意外に思った人も多いのではないだろうか。諸外国の例を調べると、未婚率が高くとも出生率は必ずしも低くない。それは結婚という形態をとらずに子を産み、家庭を営むケースが少なくないからで、⑴は×。また、OECDのデータなどでは、女性の就労率が高い方が出生率が高いという。女性の就労を支える社会全体の意識と体制が整っているほど、子育てはしやすいということだ。というわけで、⑵も×。
 日本では、高度経済成長期に「夫が働きに出て妻は家事と育児に専念する」という考え方が標準的となったが、現在では日本においてもこの結婚観・家庭像は崩れてきている。それを嘆かわしいと思うにせよ、望ましいと思うにせよ、なによりもまず結婚に関わる事実を見なければならない。私たちが「ふつう」と思っていることが唯一絶対のふつうではないことを知らなければ、それが正しいのかまちがっているのか考えることも議論することもできない。そのためには、過去はどうだったのか、他の国々はどうなのか、事実を知ることが不可欠である。
 「結婚」とは、法的に認められた婚姻関係であり、それによってしかるべき権利と公的な援助が与えられる。とすれば、どの対象に対してどのような権利と援助を与えるべきなのか。あるいは、そもそもそうしたことに国が介入すべきではないのか。それが切実な問題になっている。
 「ふつう」という言葉は往々にして人を思考停止に追いやる。この本はそんな「ふつう」を解体するだろう。私たちは、そうして多様な可能性に目を開き、自分の手で道を選んでいかなければいけない。本書は「こうすべきだ」と道を指し示すものではない。だけど、私は何か行く手に光が見える気がした。
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さかい・ゆういちろう 1981年生まれ。慶応大准教授。家族社会学。著書に『仲人の近代』『事実婚と夫婦別姓の社会学』。