アメリカ航空宇宙局(NASA)は5月上旬、超巨大ブラックホールに吸い込まれたときに見える光景をシミュレーションした動画をYouTubeで 公開しました 。SNSで大きな反響が出た一方で、見たけどよく分からなかったという声も。
💬「すごいこと考えるなあ」
💬「地球の日常の概念から離れた現象は全部面白い」
💬「見てみたけど、いや、全然分からん」
ブラックホールに吸い込まれた際に見える不思議な光景は何だったのか。 NASA公式サイト の記述に基づいてわかりやすく解説しましょう。

NASAが公開したブラックホールに落ちていくとき見える光景をシミュレーションした動画

動画は超巨大ブラックホールから6億4000万km離れたところから始まります。このブラックホールの質量は太陽の430万倍。
私たちの太陽系がある天の川銀河の中心に存在するとみられる ブラックホール に匹敵する質量です。

超巨大ブラックホールの周囲にあるのが「降着円盤」。内側にあるリングが「光子リング」(NASAの動画より) / Via science.nasa.gov

ブラックホールの周囲にある降着円盤と光子リングとは?

近づいていくと、ブラックホールの周囲に広がっている光る円盤が見えてきました。この円盤を「 降着円盤 」といいます。
ブラックホールにガスが吸い込まれる際に、ガスは回りながらブラックホールの周囲に円盤を形成します。このときガス同士の摩擦によって莫大な熱が発生し、その温度は 数百万度から1000万度 にもなります。
そのためこのガスの円盤は可視光線、X線などさまざまな光(電磁波)で光り輝きます。これが降着円盤です。
あと、もう一つ。降着円盤より内側にブラックホールを取り囲む光のリングがありますね。この光のリングを「 光子リング 」といいます。
アインシュタインの一般相対性理論によれば、超巨大ブラックホールのような大きな質量を持つ物体の周辺では 時空が歪みます 。そのため降着円盤が発した光がブラックホールの周りを一回から数回回り込むことで発生します。
では、簡単な説明が終わったところで、いよいよ超巨大ブラックホールに落下していくことにしましょう。

降着円盤と光子リングの間を通過

降着円盤と光子リングの間を通過(NASA's Goddard Space Flight Center/J. Schnittman and B. Powell) / Via science.nasa.gov

降着円盤と光子リングの間を通過しました。
背景の星空や降着円盤、光子リングなどが歪んで見えているのは、超巨大ブラックホールの重力によって時空が歪められているためです。
なお、画面の右下の隅に見えているのは、カメラと超巨大ブラックホールの位置関係です。
オレンジの線が降着円盤、外側の太い線の円が光子リング、内側の細い線の円が「 事象の地平線 」です。
ブラックホールは、非常に重力が強いために、光が外に出ることができません。光が出られなくなる境界線を「事象の地平線」と呼びます。
「事象の地平線」の内側がブラックホールの内部ということになります。

光子リングに沿って超巨大ブラックホールを周回

光子リングに沿って超巨大ブラックホールを周回(NASA's Goddard Space Flight Center/J. Schnittman and B. Powell) / Via science.nasa.gov

事象の地平線の内側へ

事象の地平線の内側へ(NASA's Goddard Space Flight Center/J. Schnittman and B. Powell) / Via science.nasa.gov

事象の地平線の内側に入りました。今回の動画では事象の地平線の直径は2500万kmほどになります。
超巨大ブラックホールの重力のせいで光景が酷く歪んで見えています。ちなみに、事象の地平線の内側からは光ですら出ていくことはできませんが、もちろん外側から入ってくることはできます。


そして、事象の地平線を越えてから12.8秒後にカメラは「スパゲッティ化現象」によって破壊されます。超巨大ブラックホールの中心(特異点)から12万8000kmの地点です。
なお、スパゲッティ化現象とは、ブラックホールの中心に近い部分と遠い部分で重力の大きさが著しく違うために物体がまるでスパゲッティのように引き延ばされる現象をいいます。

動画の最後のシーン

最後のシーン(NASA's Goddard Space Flight Center/J. Schnittman and B. Powell) / Via science.nasa.gov

「あなたも超巨大ブラックホールに吸い込まれてみたいはず」と動画の制作者

NASA公式サイトによると、今回の動画はNASAのスーパーコンピューター「ディスカバー」を使ったシミュレーションに基づいて作成されました。
このシミュレーションでは約10テラバイトのデータが生成されました。これはアメリカ議会図書館に存在すると見積られる全てのテキストデータのおよそ半分に相当します。
ディスカバーの12万9000個あるプロセッサーのわずか0.3%を使って、5日ほどかかったとのこと。この計算を普通のノートパソコンで実施すると10年以上もかかるそうです。
今回の動画を作成したNASAの天体物理学者ジェレミー・シュニットマンさんは「もしできることなら、あなたも超巨大ブラックホールに吸い込まれてみたいはずです」と説明。
「想像することさえ難しいこのような状況をシミュレーションすることは、相対性理論の数式を現実の宇宙に結び付けることを助けてくれます」と述べています。