米国株の上昇が続いている。代表的な株価指数であるS&P500は5月21日、史上最高値を更新した。同じく、ダウ平均株価は5月17日に一時、史上初めて4万ドルの大台に乗せたあと、こちらも史上最高値を更新した。なぜ米国株のパフォーマンスは日本株を凌駕し続けるのか。今からでもアメリカ株に投資すべきなのか。外国株投資のプロであるマネックス証券の岡元兵八郎氏に話を聞いた。

(前後編の前編/後編に続く)

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日本人は現金を好み過ぎる

 厚生労働省のレポート「2022年 国民生活基礎調査の概況」の「生活意識アンケート」によれば、日本人の実に51.3%が「生活が苦しい」と感じているのだという。世帯別に分解すると、生活が苦しいと答えた割合は、「高齢者世帯」が48.3%、「児童のいる世帯」が54.7%となる。

「日本人の資産形成への意識の低さを表すデータとも言えると思います」

 そう指摘するのは、マネックス証券で外国株コンサルタントに携わる岡元兵八郎氏である。元Citigroup MD/米ソロモンブラザーズ証券という経歴を持ち、外国株に30年以上携わる、この道のプロフェッショナルだ。

「日本人は伝統的にリスクを嫌う傾向があり、新NISAによって非課税の投資枠が増えた今も、株式投資によって資産形成をするという文化が十分に浸透しているとは言えません。でも本当は、老後の生活資金の悩みも、教育資金の確保も、若い頃から貯蓄の一部を米国株に投資することで解決できるんです。新NISAを一過性のブームで終わらせるのではなく、“貯蓄から投資へ”のメリットの本質を説き続けるのが私のライフワークだと考えています」(岡元氏)

 日本銀行調査統計局の資料によると、「家計金融資産に占める現金・預金の比率」は、2023年の時点で54.2%だが、これは2001年の54.0%からほぼ変わっていない。

ゆっくりとお金持ちになることは簡単

「米国人と比べても、その差は顕著です。米国人は現金・預金の比率は2001年のデータでも2023年でも54%超と、一定の資産を株式などの資産運用に回していることが分かります」(岡元氏)

 コロナ禍を経て、株価は日米ともに絶好調だが、当然その恩恵に与るためには金融資産に投資をしなくてはならない。同じく日銀調査統計局の資料から「日米家計における金融資産」の割合を割り出すと、日本では2001年の1410兆円から2023年の2043兆円と1.4倍に増えていることが分かる。対するアメリカは、2001年の4258兆円から2023年は17145兆円と、実に4倍の伸びに。日本人よりも米国人の方が資産運用によって多くの“リターン”を享受していることが分かる。

「“投資の神様”と呼ばれ、私も尊敬するウォーレン・バフェット氏はインタビューでこんなことを言っていました。インタビュアーの“お金に関する一番の間違いは何か”という質問に対し“一番大きな間違いは、正しい貯金の習慣を早いうちに学ばないこと。貯金というのは習慣である。誰もが早くお金持ちになろうとするが、それは難しい。一方でゆっくりとお金持ちになることはかなり簡単である”と。バフェットの言う貯金とは株式投資など、資産運用も含むわけですが、米国人は若い頃からそうした意識を持っている人が多い」(同)

 その上で、日本人こそ米国株投資の優位性に注目すべきだと説く。

日本企業に勤め、円で給料をもらうことが意味すること

「1つ目の理由は、これまでの圧倒的なリターンの差です。1999年12月31日を起点に今年2月末までのデータで、日経平均とS&P500の成績を比べると、日経平均が205%となるのに対し、S&P500では345%となります。これはそれぞれの国の通貨で換算した場合ですが、円建てで計算しなおすと、S&P500は508%となります」(岡元氏)

 円安を理由に米国株への投資をためらう人も多いが、長い期間で見れば、むしろ円安メリットによって、米国株のリターンがさらに伸びていることを、データは示しているというわけだ。

「2つ目の理由は、リスクヘッジです。地震など自然災害の多い島国で、日本の会社に勤め、円で給料をもらい、日本の不動産を所有する。これらは全て図らずして“日本”という国にリスクオンしていることを意味します。さらに日本株まで買うとなれば、資産のほぼ全てを日本にベットすることになる。もちろん、日本株投資がダメだと言うつもりはありませんが、資産の一部を米国株など外国株の投資に回すことで、リスクを分散する効果が得られるのです」(同)

 投資先としての日本を考える上で、避けては通れないファクターとしては“人口問題”も気がかりだ。詳しくはこの記事の後編で触れるが、国連の予想によれば、2024年の時点で世界12位の日本の人口は、2050年には17位にまで後退する見通しだという。一方のアメリカは2022年時点の世界3位を、2050年でもそのままキープすると予想されている。

今からでも米国株投資の恩恵に与ることは可能

 米国株の優位性については分かったが、やはり気になるのは「今から」投資をしてもリターンを得られるのか、という疑問。株価は既にかなり上昇しているし、円安が進んだことで買い付け可能な株数は相対的に少なくなってしまっている。

「米国株には長期的に株価が上昇してきたという実績があります。S&P500の1928年から現在までの推移を見ると、株価の上げ幅は300倍を超えています。もちろん、常に上がり続けるわけではなく調整もあります。おおよそ1年間に3回は5%程度、1回は10%程度の調整が起きるのが普通のことであり、今から投資を始めた場合、一時的に元本を割れる可能性もあるでしょう。ただ、中長期で見れば米国株の成長は続いていくと考えるのが自然です」(岡元氏)

 バフェット氏も言う通り、今すぐ金持ちになることはできなくても、中長期の目線であれば、今からでも米国株投資の恩恵にあずかることは十分に可能なのだという。

「その上で有効な方法は、“できるだけ長期で”かつ“定時定額”で投資を行うことと、マーケットが上がっても下がっても継続して投資を続けることです。積み立てNISAはまさにうってつけの仕組みですね」(同)

 特に定時定額の積み立て投資は「ドルコスト平均法」と呼ばれ、為替変動による影響を緩和する効果も期待できる。

「まずは少額からでも構いません。“貯金”の習慣を身に着けることが、将来にわたった資産形成の第一歩となります」(同)

 ここまでは米国株投資の魅力をデータに基づき解き明かしてきた。

 後編では、米国株が有力な投資先たる理由を、具体的なアメリカの企業名も上げながら、更に深掘りしていく。

岡元兵八郎
マネックス証券の専門役員。専門である外国株のチーフ・外国株コンサルタントのほか、マネックス・ユニバーシティ投資教育機関のシニアフェローも務める。元Citigroup /米ソロモンブラザーズ証券のマネージング・ディレクター。外国株に30年以上携わるプロフェッショナルで、関わった海外の株式市場は世界54カ国を数える。海外訪問国は80カ国を超える。米国株はもちろんのこと、新興国の株式事情にも精通している。ニックネームは「ハッチ」。Xアカウント名 @heihachiro888

デイリー新潮編集部