「母親ががんで入院している」などと67歳の男性に嘘をつき200万円をだまし取った容疑で、愛知県名古屋市在住の22歳の女が逮捕された。「この女は、マッチングアプリを狩場に年配男性からカネを騙し取るプロ詐欺師です」と明かすのは別の被害男性だ。男性の証言から、女があの「頂き女子りりちゃん」が販売していたマニュアルを参考にして犯行に及んでいた可能性が浮かび上がってきた。(前後編の前編)
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「第三の被害者」
5月2日、愛知県警に詐欺の疑いで逮捕されたのは、名古屋市中区の無職・加藤ありさ容疑者(22)。加藤容疑者には、昨年12月、マッチングアプリで知り合った同市在住で派遣社員の67歳男性に「母親ががんで入院している」「医療費が支払えない」などと嘘をついて、200万円をだまし取った疑いがかけられている。
「『好き』『愛している』などの言葉を使って男性を巧みに籠絡。『助けて欲しい』と同情を誘って犯行に及んだ。男性は合計で800万円だまし取られたと訴えている。加藤容疑者は『買い物や旅行に使った』と容疑を認めています」(県警担当記者)
加藤容疑者は4月12日にも三重県在住の40代男性から現金をだまし取ろうとしたとして詐欺未遂の容疑でも逮捕されており、2度目の逮捕だった。
連休中に流れたこのニュースを見て、「私もこの女にだまされました」と記者に連絡を取ってきたのが東海地方在住のAさん(40代前半)である。
「男の気持ちを弄んだあの女を絶対に許せない」
Aさんは昨年6月、マッチングアプリで知り合った加藤容疑者から73万円を騙し取られた「第三の被害者」なのである。
どうせお金は戻ってこない
「以前、岐阜県警に相談していましたが、今回のニュースを見てから改めて捜査をしている愛知県警の中警察署に連絡を取りました。ただ、僕の場合は彼女に手渡しでカネを渡し、借用書ももらい損ねてしまったので、事件にするのは難しいというのです」(Aさん。以下同)
だが、Aさんが提供してくれた加藤容疑者との間で交わされたLINEのやりとりを見る限り、金銭トラブルを抱えていたことは明らかだ。
Aさんは最初に加藤容疑者から50万円に困っているという相談をされた際、貸すことを提案。だが加藤容疑者は貸付ではなく援助を要求してきたため、50万円を渡した。援助の条件は、加藤容疑者から提案してきた「婚姻届に記入して預けること」だった。
だが、結局、加藤容疑者は婚姻届の約束を反故にしたままドロン。50万円の援助から約1週間後、さらにAさんは「友人からの借金の立て替え」として23万円を加藤容疑者に貸したがそれも未返済のままだという。
3カ月間に及ぶやりとりには、加藤容疑者が巧みにAさんの心理を操り、カネを騙し取っていく様子が記録されている。
Aさんはもうカネのことはどうでもいいと語る。
「僕の年収は550万円ほどで資産は500万円弱。被害金の73万円は決して小さくありませんが、どうせお金は戻ってこないでしょう。そんな夢物語に期待するよりは僕の受けた仕打ちを報道してもらいたい。あのかわいらしい顔の裏に隠れた、邪悪で卑劣な性根を世間に知って欲しいのです」
名古屋の女子大生の間で「りりちゃんマニュアル」が流行っていた?
Aさんは「頂き女子りりちゃんと同じような手口でだまされた」とも話す。先月、詐欺と詐欺幇助の罪に問われ、懲役9年と罰金800万円の一審判決が出たばかりの渡辺真衣被告(25)が起こした事件を記憶している人は多いだろう。
渡辺被告は3人の男性から約1億5000万円を騙し取るばかりでなく、「詐欺マニュアル」をパパ活女子相手にnoteで販売していたが、Aさんは「加藤が詐欺マニュアルを購入していた可能性がある」と訴えるのである。
確かにLINEには、頂き女子を彷彿とさせる文面がいくつも残されている。
〈私はシングルマザーの母親に育てられたけど母親は他界してるのは伝えたよね。それで私は今、親から引き継いだ200万くらい借金があります〉
〈妹が自殺未遂みたいなことしてしまって〉
まさに渡辺被告がマニュアルに記載していた“病み営業”メソッドだ。
「びっくりしたのは渡辺被告から買ったマニュアルを使い、同様の詐欺を働き、すでに逮捕・起訴されている女の素性を知った時です。“名古屋市内の大学に通う21歳”と報道されていましたが、加藤も僕をだましていた当時は名古屋市内の女子大学に通っていた。偶然とは思えず、当時、名古屋の女子大生の間でリアルにマニュアルが出回っていたのではないかと疑っています」
「マニュアル買ったの?」と本人にも問いただしたが…
加藤容疑者はマッチングアプリを経て初めてAさんとLINEで連絡を取り合った際、自分を「りり」と名乗っていた。Aさんはこれも渡辺被告の信奉者だったからではないかと考えている。
「だから関係が拗れた後、LINEで加藤に問いただしたんです。“もしかして頂き女子マニュアル買った?”って。返ってきた返事は “なんじゃそれは”“一緒にしないでもらっていいかな”。結局、それが最後のやり取りとなり連絡がつかなくなってしまった…」
Aさんは加藤容疑者の身分を確認するため、学生証の写真を本人同意のうえ撮っていた。
〈X女子大学 文学部 児童教育学科 幼児保育学専攻〉。当時、加藤容疑者はAさんに対して「就職を控えた4年生」と説明しており、今春、卒業したとみられる。大学に取材してみたが、「個人情報に関わることには一切お答えできません」との回答だった。
いったい加藤容疑者はどうやってAさんを手玉に取り、73万円もの大金を引き出すことに成功したのか。
後編【「あなたしかいない」で始まり、最後は「借りたっけ?」 40代男性から73万円をだまし取った「22歳・頂き女子」のふてぶてし過ぎる「詐欺LINE」】では、3カ月間のLINEを振り返りながら加藤容疑者のだましの手口を検証していく。
デイリー新潮編集部