山本、今永と同じ渡米パターン

 巨人の戸郷翔征投手(24)が5月24日の阪神戦でノーヒットノーランを達成した。巨人投手の甲子園でのノーヒットノーランは伝説の名投手、沢村栄治が成し遂げた1936年以来、88年ぶりの快挙となった。昨春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では決勝で中継ぎとして登板するなど、既にNPB屈指の投手ではあったが、今回の快投で箔を付ける形に。かねて本人が希望を公言するメジャー移籍が加速する気配が漂ってきた。

 戸郷の海外フリーエージェント権の取得は最短でも2028年オフとなる。その時は28歳。WBC出場で最高峰の舞台でプレーすることへの思いをさらに強くした本人は、早期のポスティングシステムによる米移籍を望んでいるようだ。戸郷は4月生まれのため、今オフの移籍でも、大谷翔平(ドジャース)のようにマイナー契約しか結べない「25歳ルール」は適用外ということで、一部では今オフ移籍が報じられたものの、これに関しては困難な情勢という。そこには巨人のチーム内の序列が影響しているようだ。

 件の阪神戦では、八回まで許した走者が失策による2人だけで四死球もなかった。今季、なかなか球速が上がってこなかったストレートは終盤に入っても152キロを計測した。最後はWBCでマイク・トラウト(エンゼルス)を空振り三振に仕留め、今すぐメジャーで通用すると評価される「伝家の宝刀」フォークボールで空振り三振を奪った。首位阪神を相手に、球界随一とされる敵ファンの熱量の中、完全アウェーの雰囲気をはね返しての快投だけに、価値は高かった。

 NPBでのノーヒットノーランは昨年のオリックスの山本由伸投手(現ドジャース)以来、セ・リーグでは2022年のDeNAの今永昇太投手(現カブス)以来となった。両投手はいずれも今季からメジャーに移籍している。

 さるNPB球団元監督が指摘する。

「戸郷は既にメジャーでローテーションに入れる力を持っています。特にフォークはメジャーの強打者たちでもてこずるでしょう。フォークはあまり投げる投手がいませんから。今永も山本も落ちる変化球が強みになっています。2人のように日本でノーヒットノーランをしたことで、アメリカ行きに機は熟したように思えます」

メジャー移籍は「まずは和真でしょう」

 戸郷は20年に9勝(6敗)をマークし、リーグ優勝に貢献した。その後、巨人のエースへと成長し、WBC日本代表選出も果たした。一方で主要タイトルは22年の最多奪三振のみで、優勝への貢献も山本と比べると見劣りする。それが今回、一つ偉業を達成したことで、着実に渡米へ前進したように映るのだが……。

 さる巨人のチーム関係者は、今オフは時期尚早とした上で、その理由を説明した。

「年齢的にもチームへの貢献度でも、ポスティングにかけるなら戸郷より和真が先というのが筋です」

 その岡本和真内野手(27)は戸郷と同様、WBCでメジャー志向を強くした。昨季終盤には米メディアで昨オフのポスティング移籍の可能性が浮上。米球界関係者の間では、今オフの移籍は既定路線とさえ囁かれている。

「和真の海外FA(フリーエージェント)権取得は最短でも26年オフです。FAだと30歳でのシーズンとなるため、戸郷よりも時間的な猶予はありません。脂が乗った時期に一番レベルの高い場所でプレーするため、一刻も早いポスティング移籍を望んでいるようです。まずは和真でしょう」(同チーム関係者)

岡本が米移籍なら戸郷は難しくなる

 巨人は過去、山口俊(引退)、菅野智之両投手でポスティング移籍を容認した経緯がある。菅野はメジャー球団との交渉が不調に終わったため、岡本は米移籍が決まれば、生え抜き選手では初のケースとなる。02年オフ、巨人がポスティング移籍を認めていなかった当時、松井秀喜外野手(引退)はFA移籍するしか選択肢はなかったが、時代は変わり、「選手をメジャーに売る」という意味合いを持つポスティング移籍に対する球団やファンの抵抗感は薄れている。

「日本球界が巨人1強だった時代は終わっています。子どもの頃からメジャーが現実的な目標となっている今はポスティングを認めていないと、新人選手の獲得に悪影響が出てくるようになりました。ドラフトで指名してもFAでしかアメリカに行けないなら、巨人には入りたくないという選手が出てきかねません。球団もそうした事情は理解しているようで、岡本のポスティングの容認は柔軟に考えるとみています」(在京球団編成担当)

 やはり今オフの岡本のポスティング移籍は実現性が高いようである。一方で実現なら戸郷の米移籍は難しくなる。その心はこうだ。

「巨人でやり残したことはある」

「岡本と戸郷が同じオフに同時にチームを去るわけにはいきません。4番打者に加え、エースまで流出させてしまえば、球団はファンにチームの強化方針を疑われてしまいます。次のシーズンで勝つ気がないのか、と。今の巨人が戸郷の穴をすぐに埋められるわけがありません。今オフの戸郷のポスティング移籍の可能性は極めて低いと思っています」(同)

 となると、戸郷のメジャー挑戦は最速でも25年オフか。

「メジャー1年目が26歳のシーズンなら遅いということはありません。ファンが認めた上で送り出してもらうにはエースの立場でチームを優勝に導くとか、まだまだ巨人でやり残したことはあります」 

 遠くばかりを見ず、まずは目の前の試合である。このノーヒットノーランをきっかけに、そこまで3勝2敗と自身初めて抜てきされた開幕投手の期待に応えられていなかった状態から巻き返すことが先決のようだ。

デイリー新潮編集部