先駆者として、探究学習に取り組んできた京都の堀川高校。1999年の「探究科」設置後、国公立大への現役合格者数が急増したときには「堀川の奇跡」として、話題になった。あの「奇跡」から22年。先駆者が新たな挑戦へとかじを切っている。
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陽の光が差し込む校舎に足を踏み入れると、「景」の文字を染め抜いたオレンジ色の旗が目に入る。堀川では漢字一文字でその学年を表すのが恒例で、「景」は今春卒業の生徒たちをイメージしたものだという。
「自己実現をしながら、他者のことを思う卒業生になってほしい。その手段に『探究的な手法』が役立つと考えています」
そう話すのは、副校長の飯澤功さん。探究型学習に重点をおいた新学習指導要領が始まったのは、2022年度。だが、同校が「探究科」を設置したのは1999年にさかのぼる。
背景には95年の地下鉄サリン事件と阪神・淡路大震災がある。
「サリン事件には有名大学の出身者も関与しており、単に進学校に入れることが学校の役割ではなく、社会とのつながりを持ちながら自分の力を生かす観点が大事だと再認識しました。関西では起きないと言われていた大地震では、先行きの見えない時代をどう生きるかが大切だと考えるようになりました」
そこで生まれたのが、探究科だった。
■泥だんごで「海外進出」
理念に共感し、好奇心旺盛な生徒たちが同校を受験。1期生が卒業した02年の国公立大学への現役合格者数は、前年の6人から106人に。驚異的な数字は「堀川の奇跡」として注目された。近年でも、23年に37人、22年に25人と多くの生徒が現役で京都大に合格している。
「知りたいことを知るためには高校の範囲を一定程度超えたところまで勉強しなければいけないこともあります。いわゆる先取り学習ではなく、大学で学ぶような数学に取り組むことで、『高校の数学はこうなんだ』と振り返ることができる。今なぜこの学習をしているのかを理解しやすくなるんです」
指導を通して教員も成長する。飯澤さんは、泥だんごを探究したある生徒を忘れられない。
「どこまで大きくなるかを調べたいと言われ、つまらないと思ってしまったんです。でも、どうしてもやりたいという生徒に根負けした。調べていくと泥だんごが形を保つにはすぐに説明がつかないことがあることがわかって。私が知らないだけで、泥だんごには面白いことがたくさん詰まっていたんです」
研究は国内の科学コンテストで賞を取り、海外に飛び出した。
「探究は、ゴールから逆算する思考を養うことでもあります。将来のために何が必要で、大学で何を学ぶか、受験突破に必要なことは……と具体的に戦術を立てることも身につくんです」
奇跡から22年。右肩上がりの伸び率は横ばいになりつつある。一人でも多くの生徒が志望校に届くよう、一昨年から新たな「探究」を始めた。
「自分で学習を組み立てるには、練習も必要です。週5日7時間授業をしていましたが、学年が上がるごとに授業時間を少し減らしていくことにしました」
時間割を見ると、1年次に1コマ、2年次に2コマ、3年次に3コマの空白がある。学力を上げるために授業を減らす。悩ましい判断だったが、受験に向き合う上で要になると判断した。
「帰る生徒もいれば、委員会をしたり空き教室で勉強したりと自由に使っています。生徒同士で学習のことを話しやすくなったという声も上がっています」
探究には検証も欠かせない。高3の4月を「中間ゴール」に位置づけ、学習プランが本当に合っているか確認する。うまくいかない部分はこのタイミングで補完していくのが狙いだという。
堀川からは、今春35人が京都大に現役合格した。探究学習の先駆者として、さらなる検証を続けていく。
(編集部・福井しほ)
※AERA 2024年3月18日号から。合格者数はサンデー毎日、大学通信の共同調査を基にした速報値