遺族が学校側を提訴した大阪地裁

 大阪市の私立清風高校で2021年、当時2年生の男子生徒が試験でカンニングをした後に自殺したのは、学校側の行き過ぎた指導が原因だったとして、今月8日、遺族が学校側に約1億円の賠償を求めて大阪地裁に提訴した。報道によると、残された遺書には「ひきょう者と思われながら生きていく方が怖くなってきました」と記されていたという。清風高校は、受験系サイトで偏差値68という「超進学校」。同校ではカンニングに対してかなり厳しい指導があったとされる。

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 朝日新聞報道によると、遺族は次のように訴えているという。清風高校の2年生だった男子生徒は2021年、期末試験でカンニングをしたことが試験監督にばれ、別室で事情を聞かれた。その際に教師から「カンニングはひきょう者がすることだ」などと厳しく叱責されたうえに、「全科目0点」「自宅謹慎8日」「写経80巻」「反省文作成」などの処分を受けたという。その2日後、生徒は自宅近くで死亡しているのが見つかった。訴状で遺族は教師らの「ひきょう者」という言葉が死のきっかけになったとしたうえで、「大量の課題で冷静な判断能力を失わせて自死させた」として、学校側の安全配慮義務違反を主張している。

 清風高校は仏教系の私学で、校則が厳しいことで知られる。頭髪の裾と耳元を刈り上げる「清風カット」を生徒に強制したり、違反した場合にハサミで切ったりする指導が「人権侵害に当たる」として、昨年3月に大阪弁護士会が改善を勧告したこともある。

■4時間にわたる詰問は「やりすぎ」

 とはいえ、公正な試験においてカンニング行為をすれば、学校から教育的な指導を受けるのは当然だろう。問題は指導の“程度”や処分の妥当性だが、大学ジャーナリストで高校事情にも詳しい石渡嶺司さんは「ペナルティーは当然だが、処分に問題があったのではないか」と語る。

「写経をすることは指導の範囲内といえますが、ボリュームについては考える必要があります。80巻という数字がどのくらいなのか分かりませんが、日常生活を圧迫するほど書かせるのは行きすぎた指導です。また、カンニング発覚後、4時間にわたって複数の教師からの詰問があったと報じられていますが、これが本当であればやりすぎです。心が壊れてしまってもおかしくありません」

 では、今回のようなケースで学校側はどうすべきだったのか。石渡さんはこう語る。

「当該の生徒に『推薦入試の対象外』と伝えたとも報じられていますが、該当科目を0点にしただけでも評定平均は大幅に下がり、推薦入試の対象外となる大学がほとんどなのですから、それをわざわざ『カンニングしたから推薦は対象外だ』などと言わなくてもよかったのではないかと思います。該当科目を0点にして、写経80巻とは別に、カンニングをした生徒になぜカンニングが良くないことなのか、説諭する時間を後日に設ける、という程度でもよかったと思います」

 清風高校では、普段から朝礼などで「カンニングをするのはひきょう者」との訓話があったという。こうした校風のなかで、カンニングをすればペナルティーが課されることは、生徒たちも容易に想像できるだろう。偏差値68という数字が示すように、生徒たちは厳しい受験をクリアしてきた“エリート”だ。

■「良い成績」こそが学校を生き抜く武器

 石渡さんは「一般論」として、進学校特有の事情を明かす。

「狭い学校社会の中では、成績の良しあしが校内の序列に関係します。特に偏差値が高い進学校は、成績の結果で評価されやすい。良ければ称賛されるし、悪ければ教師からはっきりと怒られることもある。普通の高校以上に、生徒同士のヒエラルキーが成績で決まることが多いので、良い成績をとり続けることが学校を生き抜く最大の武器なんです」

 成績が悪ければ自分の立場も悪くなることがわかっているからこそ、「良い成績をとる」ことを死守しなければならない、という強迫観念につながるのかもしれない。

 さらに石渡さんは、高校生ならではの「プライド」がカンニングを誘発する可能性も指摘する。

「進学校に通っている子どもたちは、昔から頭が良かった子が多い。昔からできた自分を守りたいプライドに加えて、最も強いと思われるのは『親や教師から褒められたい』という動機です。それが一時しのぎだとわかっていても、親や教師からほめられるためには成績を上げなければならない、という有形無形のプレッシャーがあり、カンニングをしてしまうことはあると思います」

 遺族から提訴されたことについて、学校側は取材に「訴状が届いていないので、コメントはできない」と回答したが、行き過ぎた指導だったかについては「指導は行ったが、その際に厳しく叱責したという事実はない」としている。

 カンニングはしてはらない行為だが、その“罪の重さ”よりも命の方がはるかに重いことは言うまでもない。

(AERA dot.編集部・小山歩)