ジャガー・ランドローバー(JLR)は、2030年までに事業全体で46%、バリューチェーン全体における車両1台あたり54%の温室効果ガス排出量削減を目指す目標を掲げている。ジャガーはすでに電気自動車=バッテリーEV(BEV)の「Iペイス」を導入しているが、ランドローバーも新型レンジローバーのBEV、レンジローバー・エレクトリックの受注をイギリスとアメリカで2023年末から開始している。

北極圏での低温評価試験が完了

今回、そのレンジローバー・エレクトリックのプロトタイプのテスト風景が伝えられた。マイナス摂氏40度の北極圏から50度の中東の砂漠まで、世界の過酷なロケーションにおける究極の温度環境下でテストを実施しており、現在は北極圏での低温評価試験が完了したところだ。

自社製の電動ドライブユニット

初期のテストは、バッテリーとトランスミッション、モーター、パワーエレクトロニクスを含む車両の中核コンポーネントであるエレクトリック・ドライブユニット(EDU)の能力評価に焦点があてられ、マイナス40度というBEVにとって非常に厳しい、極寒の環境下で実施。搭載されるバッテリーとEDUは、ジャガー・ランドローバーが自社で組み立てたもので、これはブランド初の試みとなる。

また、スウェーデンの凍結湖で行われたテストでは、新しい自社製オール電気駆動システムの信頼性を実証。すでに定評のある低グリップ路面でのパフォーマンスを上回り、同ブランドが誇るオールテレイン能力、全天候、そしてあらゆる路面においての走破能力が担保されるはずだ。

新しいトラクション・コントロール

低μ路での性能を左右するのが、レンジローバーで初採用となる新しいトラクション・コントロール・システム。凍結した路面やグリップの低い路面で、高いパフォーマンスを実現し、ABSユニットのみに頼る従来のトラクション・コントロールとは異なり、ホイールスリップの制御を個々の電動ドライブコントロール・ユニットに直接配分。各ホイールのトルク反応時間を約100ミリ秒からわずか1ミリ秒までに短縮できるとしている。

ソフトウェアも自社開発され、ホイールスリップを正確かつ迅速に制御する「EDUスピード・コントロール」が可能になり、ABSの介入の必要性を低減。あらゆる路面でトラクションを最大化し、ハイレスポンスと洗練性を備えたレンジローバーならではのドライブエクスペリエンスを大幅に向上させる。このシステムはスタビリティ・コントロールやシャシー・システムと調和し、洗練された走りに寄与する。

なお、レンジローバー・エレクトリックのエクステリアは、プロトタイプにはカモフラージュが施されていないことからおわかりのとおり、レンジローバーが紡いできたDNAに忠実な内燃機関モデルと同じデザインとなる。

BEV化されてもSUVの王者らしい風格と性能を備えた、レンジローバー・エレクトリックの登場は間もなくだ。

文=塚田勝弘

(ENGINE WEBオリジナル)